コラム

2024/02/05

認知の無効を求める手続きについて

 認知の制度は「認知請求について」のコラムで説明したとおりです。

 それでは、認知がその人の意思に基づかないでなされた場合や、血縁上の父子関係がないのに認知がなされてしまった場合は、どのような対応ができるのでしょうか。

 本コラムでは、認知の無効を求める手続きについて解説いたします。

認知の無効を求める手続 

 認知の意思表示に瑕疵がある場合や、認知が事実と異なる場合、認知の無効を求める手続をとることが考えられます。

認知無効の訴えの法的性質

 認知無効の訴えの法的性質については、認知の無効が法律上当然無効であるとする確認訴訟説と、認知の無効を宣言する判決が確定してはじめて認知が遡及的に無効となる形成訴訟説があります。

認知無効調停

 認知無効の手続は、特殊調停事件とされ、調停前置主義の対象となります。

 特殊調停事件とは、本来は身分関係を争う訴訟(人事訴訟)によって判決を得ることで解決を図る事件のうち、離婚や離縁の訴えを除いたものです。

 人事に関する事件は、身分事項を記録する戸籍に関わる内容でもあるため、当事者による処分が許されない性質を持っています。

 特殊調停事件では、当事者が合意して争いがなくなったことを確認したうえで、合意に相当する審判という特殊な審判をします。

 申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所となります。

合意に相当する審判

 認知無効の審判を受けることに合意が成立し、無効の原因について争いがないないときは、家庭裁判所が事実を調査した上で、合意を正当と認めるときは、合意に相当する審判をすることができます。

 この審判が確定すると、認知無効の確定判決と同一の効力を生じます。

認知無効の訴え

 認知が無効であることについて合意が成立しない場合は、認知無効の訴えを提起することになります。

 原告または被告の所在地の家庭裁判所に管轄があります。

訴訟要件

原告適格

 認知無効の訴えの原告適格を有するのは、以下のとおりです。

  1. その他の利害関係人

 利害関係人に該当するのは、認知の効力によって自身の身分上の地位(相続など)に影響を受ける人物であると考えられ、具体的には以下の者が該当します。

  • 子の母
  • 認知者の妻・子
  • 認知者の親族、子の親族
  • 真実の父と主張する者
  • 認知した父

 なお、令和4年民法改正により、令和6年4月1日以降の認知について、認知無効の訴えの原告適格を有するのは、以下の者に限定されました。

  • 子または子の法定代理人
  • 認知をした者
  • 子の母

 また、これまでは、認知無効の訴えの出訴期間に定めはありませんでしたが、令和6年4月1日以降の認知について、認知無効の訴えを起こせる期間は、子又はその法定代理人については認知を知った時から、認知をした者については認知の時から、子の母については認知を知った時から、それぞれ7年以内とされました。

訴訟能力

 認知された子は、認知無効の訴えを提起することができますが、どのような子であっても訴えを提起できるのでしょうか。

 この点、子に意思能力がある限り、自ら認知無効の訴えを提起することができます。また、裁判所は申立てまたは職権によって弁護士を訴訟代理人に選任することができます。

被告適格

 被告適格については、人事訴訟法12条に規定があります。

 子が訴えを認知無効の訴えを提起する場合、相手方である父を被告とし(人事訴訟法12条1項)、認知した父が死亡した場合は検察官を被告とします(人事訴訟法12条3項)。

 認知した父が認知無効の訴えを提起する場合、相手方である子を被告とし(人事訴訟法12条1項)、子が死亡した場合は検察官を被告とします(人事訴訟法12条3項)。

なお、当事者が精神上の障がいにより意思能力を欠くときは、後見開始の審判を得て、成年後見人を被告とします(人事訴訟法14条1項本文)。

 また、認知した父以外の利害関係人が訴えを提起する場合、父と子を被告とし(人事訴訟法12条2項)、父と子のいずれかが死亡しているときは生存者のみを被告とします(人事訴訟法12条2項)。双方とも死亡しているときは検察官を被告とします(人事訴訟法12条3項)。

任意認知がなされたこと

 認知の無効の訴えの提起が適法であるためには、任意認知の存在が必要となります。

要件事実

認知に無効原因があること

 認知の無効原因としては、認知者に認知の意思がなかったこと、認知の遺言が無効であること、認知が事実に反することなどが考えられます。

判決の効力

 認知の無効を確認する判決が確定すると、認知は認知時から客観的に無効である、あるいは認知は認知時に遡って無効になるものと考えられます。

 また、認知無効の請求を認容する確定判決に基づいて、戸籍の訂正が行われることになります。

まとめ

 以上のとおり、一定の場合は認知無効の手続をとることができ、令和6年4月1日以降は、認知無効の手続を取ることができる期間が制限されます。

 認知についてお悩みの方は、ぜひご相談ください。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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