コラム

2023/02/13

不貞行為に基づく慰謝料請求権と自己破産

 夫または妻が不貞行為をしていると知れば、当然のことながら、大きな精神的苦痛を受けます。この精神的苦痛を慰謝するに足りる金銭が、慰謝料です。

 この不貞行為に基づく慰謝料に関して、慰謝料の支払い義務を負う不倫相手または配偶者が自己破産してしまったらどうなるのか、元配偶者への慰謝料の支払い義務は自己破産をすれば免れるのかといったご相談を受けることがあります。

 本コラムでは、不貞行為に基づく慰謝料請求権と自己破産について解説いたします。

破産法253条1項2号

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

破産法253条1項2号

 破産をする目的は、借金など債務の支払い義務を免除してもらうことですが、破産しても支払い義務を免れることができない債権というものがあります。そのような債権のことを非免責債権といいます。

 この非免責債権の1つが、上記に挙げた「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」です。

 不貞行為に基づく慰謝料請求権も、「不法行為に基づく損害賠償請求権」の問題となりますが、重要なのは「悪意で加えた」という要件が付されている点です。

 この「悪意」とは、単なる故意ではなく、「相手を積極的に傷つけてやろう」といったような積極的な害意であると考えられています。

 不貞行為の場合においても、「悪意」を持っていたかが問題となりますが、一般的な不貞のケースでは積極的な害意があったと認められる可能性は少ないといえるでしょう。

 そのため、不貞行為に基づく慰謝料請求権は、不貞行為を行った者が自己破産をすると、免責される可能性が高いといえます。

裁判例

東京地裁平成15年7月31日

 破産法366条の12但書は「悪意をもって加えたる不法行為」に基づく損害賠償請求権(現在の破産法253条1項2号「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」)は破産による免責の対象とならない旨を規定するが、正義及び被害者救済の観点から悪質な行為に基づく損害賠償請求権を特に免責の対象から除外しようとするその立法趣旨、及びその文言に照らすと、「悪意」とは積極的な害意をいうものと解される。故意とほぼ同義という原告(妻)の解釈は採用できない。

 本件の場合、不貞関係が継続した期間は少なくとも約5年にも及び、しかもC(夫)の離婚を確認することなく結婚式を挙げたという事情もあるから、不法行為としての悪質性は大きいといえなくもないが、本件における全事情を総合勘案しても、原告(妻)に対し直接向けられた被告(不貞相手)の加害行為はなく、したがって被告(不貞相手)に原告(妻)に対する積極的な害意があったと認めることはできないから、その不貞行為が「悪意をもって加えたる不法行為」に該当するということはできない。したがって、被告(不貞相手)の不貞行為すなわち不法行為に、基づく損害賠償責任は免責されたということになる。

東京地裁平成21年6月3日

 破産法253条1項柱書及び3号は、破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は、免責許可の決定が確定したときであっても、破産者がその責任を免れるものではない旨を定めているが、破産者の不貞行為に基づく損害賠償請求権は、たとえそれが故意又は重大な過失によるものであるとしても、上記の「人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」と同視すべきものであると解することまではできない。

 そのほか、被告Y2(不貞相手)が破産法253条1項2号の悪意、すなわち積極的な害意をもって被告Y1(元妻)の不貞行為に加担したことを認めるべき証拠は存在しない。

 したがって、この点に関する原告(元夫)の主張は、これを採用することができず、被告Y2(不貞相手)は、免責許可決定の確定により、原告(元夫)が訴求する損害賠償請求権について、その責任を免れたものといわなければならない。

東京地裁平成28年3月11日

 破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ、同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び目的に照らすと、そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当である。

 本件においては、上記認定及び説示したとおり、被告(不貞相手)の、A(夫)との不貞行為の態様及び不貞関係発覚直後の原告(妻)に対する対応など、本件に顕れた一切の事情に鑑みると、被告(不貞相手)の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。しかしながら他方で、本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるA(夫)の行為をも考慮すると、被告(不貞相手)が一方的にA(夫)を篭絡して原告(妻)の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず、原告(妻)に対する積極的な害意があったということはできない。原告(妻)の被告(不貞相手)に対する慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ない。

 よって、原告(妻)の慰謝料請求権につき、被告(不貞相手)は法律的には責任を免れ、強制執行を予定した債務名義たる判決においてその請求を認容することはできないこととなったというほかはない。

まとめ

 以上のとおり、不貞行為をした者が自己破産を行い、免責許可の決定が確定した場合は、不貞行為による慰謝料請求権は免責される可能性が高いといえます。

 もっとも、当事者が実際に自己破産手続きを行うか否か、自己破産手続きにおいて免責許可の決定が確定するか否かは別の問題です。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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