任意後見人の代理権について
任意後見契約において、委任者は任意後見人に療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与えることとなります。任意後見人が代理できる行為は代理権目録に記載された行為のみとなり、目録に記載されていない行為については代理することができません。
本コラムでは任意後見人の代理権についてご説明いたします。
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法定の委任事項
任意後見契約法において、「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部」が委任事項とされており、この法定の委任事項のみが任意後見契約において代理権目録として記載されることになります。
代理権の記載について
公証役場において任意後見契約書を作成する際、代理権目録を添付します。この代理権目録は省令により書式が定められており、第1号様式(チェック方式)か第2号様式(包括記載方式)のいずれかを選択して作成することとなっています。
第1号様式は、細かく委任事項が記載されており、そこから必要な項目についてチェックを入れ、不要な項目については斜線を引き、公証人が職印を押します。第1号様式に記載されていない事項について委任をする場合は、別途目録を添付することになります。
第2号様式の代理権目録は、代理行為を包括的に記載します。(例「銀行等の金融機関、証券会社とのすべての取引に関する事項」等)一般的には第2号様式を利用するケースが多いようです。
重要な委任事項については、任意後見人が事務を行う際に任意後見監督人の同意を必要とする旨を規定することもでき、その場合は同意を要する旨の特約目録を作成しなくてはなりません。
代理権目録に記載できない事項
任意後見契約法に定められた定義に当てはまらない次の委任事項(または準委任事項)は代理権目録に記載することはできません。
①法律行為ではない事実行為
療養施設等との契約や施設費用の支払いについては記載できますが、単なる事実行為である介護行為は記載することはできません。
②代理になじまない身分行為
婚姻や離婚、養子縁組といったように、法律上の身分関係に関する法律効果を発生させ、あるいは変更、消滅させる行為については、代理になじまないため委任することはできません。
③医療行為の同意
医療契約や医療費の支払いについては代理権を与えることはできますが、本人の生命・身体に危険を及ぼすおそれのある医療行為(注射や手術など)の同意に関しては、本人の自己決定権に基づく固有のもので、委任や代理行為になじまないものとされ、任意後見契約の代理権目録には記載できません。
④第三者の生活や療養看護の事務
本人の事務でないこと(例えば委任者の家族の療養看護の事務等)については代理権目録に記載することはできません。
⑤死後の事務
本人の死亡により、任意後見人の代理権は消滅してしまうため、本人が亡くなった後の事務(葬儀費用の支払い、金融機関の手続き等)については、任意後見契約で委任することはできません。死後の事務を委任する場合には、別途死後事務委任契約を締結することとなります。
弁護士 小西 憲太郎
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事
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