信託監督人
認知症・相続対策や、障がいを持つ子の親なきあとの問題で利用される民事信託では、「信託監督人」と呼ばれる者を選任することがあります。信託財産が高額な場合や、管理監督に専門性を要する場合には、信託監督人を選任しておくことで信託事務の遂行をより確実にすることが期待できます。
本コラムでは、信託監督人について解説いたします。
目 次 [close]
信託監督人とは
信託監督人は受益者保護のために受託者を監視・監督する立場の者になります。信託に必要な権利や、信託財産の保全に必要な権利の行使の権限を有します。
なお、信託監督人は受益者が「現に存する場合」に選任できるものとされています。
信託監督人の選任方法
信託監督人を選任するには、以下の2つの方法があります。
①信託契約による選任
信託監督人は、信託契約の中で指定することができます。ただし、信託監督人に指定された者は、信託監督人の就任を拒否することもできます。そのため、信託契約で信託監督人が指定されている場合、利害関係人は、信託監督人に指定された者に対し、相当の期間を定めて就任するかどうか確答するよう催告することができます。もし相当期間内に確答がなかった場合は、就任の承諾をしなかったものとみなされます。
②裁判所による選任
受益者が認知症になった場合など、受託者の監督を適切に行うことができない事情がある場合において、信託契約で信託監督人に関する定めがない場合、利害関係人は、家庭裁判所に信託監督人の選任を申し立てることができます。
また、信託契約で信託監督人が指定されている場合でも、その指定された者が就任を承諾しないとき、利害関係人は、家庭裁判所に信託監督人を選任するよう申立てることができます。
なお、申立てによらずに裁判所が職権で信託監督人を選任することはできません。
信託監督人の権限
信託監督人は、信託法92条で定める受益者の権利を、受益者のために自己の名を持って一部を除き行使することができます。
なお、信託監督人が選任されている場合であっても、受益者自身も権利を行使できます。
信託監督人になることができる者
以下の者は、信託監督人になることができません。
- 未成年者
- 成年被後見人もしくは被保佐人
- 当該信託の受託者
すなわち、上記の者以外の者であれば、個人・法人を問わず信託監督人になることができます。また、2人以上信託監督人を選任することも可能です。
信託監督人は善管注意義務を負い、また受益者のために誠実かつ公平にその権限を行使することが求められますので、弁護士、税理士、司法書士などの専門家に依頼すると安心です。
条項例
信託監督人になる者を決めている場合
(信託監督人)
第○条 本信託の信託監督人として、次の者を指定する。
氏名
住所
生年月日
職業
将来的に信託監督人を選任する場合
(信託監督人)
第●条 本信託において、当初受益者に後見開始の審判又は保佐開始の審判があったときには、信託監督人を選任する。
2 前項の信託監督人は、弁護士の資格を有する者の中から、委託者の長男Aが指定する。
まとめ
民事信託契約を締結しても、必ずその内容が実現されるとは限りません。信託の目的を達成するには、信託監督人を設置しておいた方がよい場合があります。信託事務の遂行のために、弁護士や税理士といった専門家を信託監督人に指定する方法の検討をお勧めいたします。
当事務所では民事信託に関する法律相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。
弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
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