コラム

2022/12/26

整理解雇の4要件(4要素)とは

 経営不振や事業縮小など使用者が事業を継続することが困難となった場合、あるいは将来の経営状況が明らかに逼迫することが予想される場合など、使用者側の経営上の事情による人員削減(リストラ)のために行う解雇を、「整理解雇」といいます。

 整理解雇を行うためには原則として、過去の裁判例から確立された「整理解雇の4要件」が満たされている必要があります。この「整理解雇の4要件」が満たされていなければ、解雇権の濫用として、解雇が無効となる可能性があります。

 本コラムではこの「整理解雇の4要件」について解説いたします。

解雇権濫用の法理とは

 一般的な解雇権濫用法理については前回コラムで解説したとおり、使用者が労働者を解雇するには、①解雇に客観的に合理的な理由があること、②解雇が社会通念上相当であることが必要であり、これらの要件を満たさない場合には、解雇権の濫用として、解雇は無効とされます。

 そして、個々の労働者との間の個別的な問題を理由とする解雇とは異なり、整理解雇がなされる場合には、上記の一般的な解雇権濫用法理に加えて、次の4要件が必要となります。

整理解雇の4要件とは

 整理解雇の4要件とは以下のものを言います。

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力義務の履行
  3. 人員選定の合理性
  4. 解雇手続の妥当性

 ただし、近年は、整理解雇の4要件を厳格に満たしていなければ解雇が認められないというものではなく、個別の事情を総合的に考慮して解雇を認める判例も出てきています。  正社員の終身雇用といった日本的な雇用システムが崩れつつある中、整理解雇についても4要件から4要素へと緩和される傾向にあります。

人員削減の必要性

 一般的に、企業の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性が認められる場合はもちろんのこと、そのような状態に至らないまでも、高度の経営危機にある場合、人員整理の必要性は認められる傾向にあります。

 この点、経営状況を示す指標や数値により、経営状況がどの程度悪化しており、そのためにどれだけの人員削減が必要であるかということを客観的に説明できなければなりません。

解雇回避努力義務の履行

 整理解雇は最後の選択手段であることが求められるため、希望退職者の募集、役員報酬の削減、出向、配置転換など、解雇を回避するための相当の経営努力がなされることが求められます。

 もっとも、人員削減の緊急の必要性がある場合など、すべての手順を踏むだけの時間的余裕がないという場合は、当該事案における具体的状況の下で、使用者として、合理的に考えられる手段を、真摯に、かつ、十分に尽くしたといえるかが問題となります。

人員選定の合理性

 解雇される人員については、勤務地、所属部署、担当業務、勤務年数、勤務成績、年齢、家族構成等、さまざまな要素を勘案して選定されることになると思われます。人員選定に際しては、恣意的ではなく、客観的、合理的かつ公正な選定が行われなければなりません。

解雇手続の妥当性

 解雇の対象者および労働組合または労働者の過半数を代表する者に対し、整理解雇の必要性やその具体的内容(時期、規模、方法等)について十分に説明をし、納得を得られるよう努力しなければなりません。

過去の裁判例

東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)

事案

 各種高圧ガスの製造販売業者であるYは、アセチレン部門が市況の悪化その他の原因により昭和38年以降赤字に転落し、昭和44年上期の累積赤字4億円を計上しました。Yは、アセチレン部門が今後黒字への復帰は不能であり、そのまま放置すれば、Yの経営自体が破綻又は回復不能の状態に陥るものとして、アセチレン部門の閉鎖を決定した上、Xらを含む同部門所属の従業員については、課長職一名を除く全員に対し「やむを得ない事業の都合によるとき」は従業員を解雇できる旨の就業規則の規定に基づき、同部門閉鎖日をもって解雇する旨通告しました。
 これに対し、Xらは、本件整理解雇についてのYの解雇回避、被解雇者の合理的人選についての努力又は配慮の欠如、解雇手続の不当等を主張し、本件解雇を信義則違反又は権利濫用として争ったほか、組合活動家であるXらに対する不当労働行為であるとして、その従業員たる地位の保全を求めました。

裁判所の判断

 裁判所は、整理解雇の有効性につき、次の3つの要件を満たす必要があるとの判断を示しました。

  1. 当該事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること(なお、この点、整理解雇をしなければ会社が倒産してしまうような危機的な状況までは求めず、経営上の合理的な必要性があれば認められるとしています。)
  2. 当該事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと
  3. 具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること

 また、上記3つの要件を満たしていたとしても、解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるとの判断を示しました。
ただし、これらは、解雇権の発生要件ではなく、解雇権の発生障害事由にとどまるものとされました。

東京高裁平成26年6月3日判決

事案

 会社更生手続中の航空会社Yが、客室乗務員であるXらを整理解雇の対象としたところ、これに対してXらが本件解雇の無効を主張し、労働契約上の地位の確認及び未払給与の支払を求めました。

裁判所の判断

 裁判所は、更生手続の下で更生管財人がした整理解雇についても、労働契約法16条が適用されるものと解され、整理解雇が同条にいう解雇の「権利を濫用したもの」に当たるか否かを判断するについては、いわゆる整理解雇法理も適用されるものと解するのが相当であるとの判断を示しました。
その上で、整理解雇の有効性を判断するにあたり、整理解雇の4要件をそれぞれ検討し、総合的に考慮して判断するとの判断を示しました(この点、4つの観点から総合考慮するとしていることから、いわゆる4要素説に立つものと考えられます。)。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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