コラム

2022/07/18

法務局における自筆証書遺言書保管制度

 遺言には普通方式遺言と特別方式遺言があり、普通方式遺言には「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つの方式があります。

 なお、普通方式遺言をすることができない特殊な状況下において認められる特別方式遺言として、「危急時遺言」と「隔絶地遺言」がありますが、ここでは普通方式遺言についてのみ紹介します。

遺言の種類

1 自筆証書遺言(民法968条)

 自筆証書遺言は、遺言者が全文(財産目録を除く。)、日付及び氏名を自書し、押印して作成する遺言のことをいいます。

 特別な手続が必要ないため、費用や手間をかけずに作成することができる反面、個人で作成するため遺言書の内容や形式に不備があると、遺言書自体が無効となってしまう可能性があります。また、個人で遺言書を保管するため紛失の可能性や、遺言書を発見した第三者による破棄・改ざんなどのおそれがあります。

 遺言者の死後は、家庭裁判所において遺言書の検認(遺言書の状態や内容を確認し、保存する手続)を受ける必要があります。

2 公正証書遺言(民法969条)

 公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が公証人に遺言の趣旨を伝えて作成する遺言のことをいいます。

 遺言の内容に応じた公証人手数料が必要になりますが、公証人が作成し公証役場で保管されるため、内容や形式の不備により遺言書が無効になる可能性は低く、紛失や改ざんのおそれもありません。また、自筆証書遺言と異なり、遺言者の死後に家庭裁判所で検認を受ける必要はありません。

3 秘密証書遺言(民法970条)

 秘密証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が作成し封をした遺言書を公証役場に提出し、公証人がその封書に日付と遺言者の申述内容を記載した後、公証人、遺言者及び証人が署名押印して作成する遺言書のことをいいます。

 遺言の内容は秘密にしたまま、遺言者の遺言書であることのみを証明することができますが、自筆証書遺言と同様、内容や形式の不備により遺言書が無効になる可能性があります。

 また、秘密証書遺言は、遺言者の死後に家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

法務局における遺言書保管制度とは

 上記の3つの方式の遺言のうち、法務局で保管できる遺言書は「自筆証書遺言」です。

 法務局における遺言書保管制度は令和2年7月10日に運用が開始された制度で、自筆証書遺言が法務局で保管されることにより、遺言書の紛失や第三者による破棄・改ざんのおそれがなくなり、遺言者の死後に家庭裁判所で検認を受けることなく相続手続を進めることが可能になりました。

 保管申請をした遺言書の原本は遺言者の死亡の日から50年間、遺言書の内容のデータは遺言者の死亡の日から150年間保管されます。

法務局における遺言書保管制度利用の流れ

 遺言書保管申請の流れは、以下のとおりです。

1 自筆証書遺言の作成

 保管申請をする遺言書の作成方法には、A4サイズで作成すること、各頁に頁番号を付すこと、両面に記載しないこと、封をしないこと等の形式が定められています。

2 申請書の作成

 法務省のホームページまたは法務局窓口に備付の申請書に必要事項を記載します。

3 遺言書保管所(法務局)に予約・保管申請

 遺言書の保管申請ができる法務局は、遺言者の住所地、遺言者の本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局です。
 ただし、2通目以降の遺言書の保管申請をする場合は、最初に保管申請をした法務局にしか申請することができません。

4 保管申請

 予約日時に遺言者本人が遺言書、申請書、添付書類等を持参し、法務局で遺言書の保管申請をします。 

5 保管証の受領

 保管申請手続が完了すると、遺言者の氏名、生年月日、遺言書が保管されている法務局の名称及び保管番号が記載された保管証が交付されます。この保管証は、再発行することができません。

保管申請後の閲覧・変更・撤回

遺言書の閲覧

 遺言者は、保管申請後に遺言書の閲覧を請求して、遺言書の内容を確認することができます。

遺言書の変更

 遺言者は、保管申請後に遺言者の氏名・住所または遺言書に記載した相続人・受遺者・遺言執行者等の氏名・住所に変更が生じたときは、その変更を届け出る必要があります。

遺言書の撤回

 遺言者は、保管申請を撤回して遺言書を返却してもらうことができます。保管を撤回した場合でも、自筆証書遺言としての効力がなくなるわけではありません。

相続人等による閲覧・保管確認等

 相続人等は、遺言者の死後、自身を相続人・受遺者・遺言執行者等とする遺言書が保管されているかについて、法務局に確認をすることができます。

 そして、遺言書が保管されていた場合は、遺言書の閲覧を請求したり、遺言書の内容についての証明書(遺言書情報証明書)を取得したりすることができます。

 相続人等が遺言書の閲覧または遺言書情報証明書を取得した場合、法務局は、その他の相続人等に対して遺言書を保管している旨の通知をします。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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