コラム

2022/07/11

示談交渉による交通事故解決④ ~示談書作成の注意点~

 示談が成立した場合に示談書を作成すべきであることについては、示談交渉による交通事故解決③ ~示談書の作成~で記載したとおりです。

 本コラムでは、示談書作成上の注意点について、より詳細にご説明いたします。

賠償金の支払確保

執行認諾文言付きの公正証書

 示談書を作成しただけでは、示談が成立したことを証明することができるだけであって、加害者が示談金の支払いを怠った場合に、加害者にその支払いを強制させることはできません。法律上、その支払を加害者に強制させるには、訴訟を提起するなどして債務名義を得なければなりません。

 そこで、訴訟手続等をせずに強制執行をするために、公正証書という形式で示談書を作成することを検討するとよいでしょう。

 公正証書は、公証人役場において当事者全員が立会って、公証人が示談内容を確認した上で作成します。どうしても当事者本人が立ち会うことができなければ、委任状を作成して代理人に立ち会ってもらうことも可能です。

 作成費用などの負担はありますが、「強制執行認諾文言」を付加してもらうことで、訴訟手続をせずとも、強制執行の申立を行うことが可能です(民事執行法22条5号)。

訴え提起前の和解

 裁判所の関与の下で示談を成立させることによって、公正証書と同様に、訴訟を提起せずに強制執行を行うことができます。そのための制度が起訴前の和解(民事訴訟法275条)です。

 これは簡易裁判所への申立を当事者全員で行い、簡易裁判所で示談内容を確認の上で、示談の内容を和解調書に記載してもらうという手続です。和解調書が示談書の代わりとなりますが、この和解調書は裁判所の確定判決と同一の効力があるとされており(民事訴訟法267条)、公正証書と同様に訴訟をせずに強制執行ができます(民事執行法22条7号)。

連帯保証人など

 加害者側の支払能力に不安がある場合には、損害賠償義務を負う者以外の連帯保証人をたててもらい、その人にも請求できるようにしておくことも検討するとよいでしょう。

示談金の支払と同時にする示談

 物損事故などで損害賠償額が高額でない場合には、もっとも簡易な支払確保手段として、示談書に署名・捺印するその場ですぐに現金等で示談金を受け取るという方式(即金払い)が考えられます。

過怠約款

 示談金の支払条件を分割払いとした場合には、その支払について一定の回数を怠ったときは何らの通知または催告を要せずに当然に期限の利益を喪失し、残額を直ちに支払う旨の条項(期限の利益喪失条項)の記を検討するとよいでしょう。また、支払期日から支払いが遅れた場合には、遅延損害金や違約金を支払う旨を記載するなど、ペナルティについて示談内容としておくことで、支払を促すことができます。

放棄条項・清算条項

 当事者が複数の場合には、誰に対する権利を放棄するのか、誰と誰の間に清算条項が必要かを明示する必要があります。運転者の使用者が賠償金の全てを支払う場合などには、運転者(被用者)に対する放棄条項を入れる場合もあり得ます。

 被害者が加害者から当面の治療費の支払を受けるために、症状固定前に暫定的な合意を成立させる場合もあります。そうした場合には、合意の内容は損害の一部でしかないので、被害者が放棄・清算をすると、後からの請求ができなくなるおそれがあります。このような合意では、放棄条項や清算条項を記載しないように注意する必要があります。

予期しない後遺障害発生時の協議条項

 放棄条項や清算条項のある示談が成立した場合、追加の請求はすることができないのが原則です。しかし、被害者に示談時に予想し得ない後遺障害が発生したときなどは、そのような事態は示談の対象とされたものとはいえず、なお請求することができると解されています(最判昭43.3.15判時511・200参照)。成立した示談がそうした趣旨であることを明示するために、「示談時に予期しない後遺障害が発生した場合には当該後遺障害に関する損害については別途協議する」といった条項を記載しておくこともあります。もっとも、その条項がないからといって、追加請求をなしえないわけではありません。

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