コラム

2021/10/07

スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント⑶

 近年、運動部において指導者からの暴力や叱責が原因で生徒が自殺した事件や、プロスポーツの指導者が選手へのパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)を理由に解任された事件など、スポーツ界の指導者によるパワハラ事件がメディア等で多く取り上げられています。

 「前々回コラム」スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント⑴では、スポーツ界の指導者の行う行為のうち、いかなる行為が選手に対するパワハラにあたるのかを解説いたしました。

 また、「前回コラム」スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント⑵では、選手が指導者によるパワハラを受けた場合の対応策について、解説いたしました。

 本コラムでは、特に、学校の部活動等において、指導者が生徒に対して、体罰や暴力といった有形力の行使に至った場合の法的責任について、解説いたします。

法的責任

 学校の部活動等のスポーツ指導の場において、指導者が生徒に対して、体罰等の有形力の行使に至った場合、刑事責任や、民事責任を問われる可能性があります。

体罰

 体罰は、近年メディア等で取り上げられていることもあって、減少傾向にあります。もっとも、依然として、部活動等のスポーツ指導の場において、生徒が、指導者から体罰を受けていたというような報道を目にします。このような体罰が、厳しい指導や、懲戒行為、しつけ等として正当化されるようなことがあってはいけません。

 では、部活動等のスポーツ指導の場における体罰とはどのような行為をいい、どのように禁止されているのでしょうか。

学校教育法

 まず、学校教育法11条では、学校現場における校長及び教員の体罰を、全面的に禁止しています。

第11条
 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

文部科学省「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」

 次に、文部科学省では、「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」において、体罰と懲戒行為との区別、体罰の判断基準等について、言及しています。

  1.  教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。
  2.  ⑴により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。

厚生労働省「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」

 また、厚生労働省では、体罰の範囲や禁止に関する考え方について、言及しています。(厚生労働省「体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~」

 身体に何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止されます(※)。

   ※国連児童の権利委員会の一般的意見においては、「どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ、何らかの苦痛または不快感を引き起こすことを意図した罰」(8号 11 項)と定義されており、具体例として「手または道具――鞭、棒、ベルト、靴、木さじ等――で子どもを叩く、蹴ること、子どもを揺さぶったり放り投げたりする、引っかく、つねる、かむ、髪を引っ張ったり耳を打ったりする、子どもを不快な姿勢のままでいさせる、薬物等で倦怠感をもよおさせる、やけどさせる、または強制的に口に物を入れる(たとえば子どもの口を石鹸で洗ったり、辛い香辛料を飲み込むよう強制したりすること)など」(同項)が示されている。

部活動等のスポーツ指導の場における体罰

 このように、体罰は、懲戒行為やしつけとは区別され、法律で禁止されています。部活動等のスポーツ指導の場においても、体罰は許されません。

 確かに、指導者が練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる行為や、試合中に相手チームの選手とトラブルになり、殴りかかろうとする生徒を押さえつけて制止させる行為は、懲戒行為や正当な行為として許される余地があります。しかし、指導者の指示に従わず、ユニフォームの片付けが不十分であったため、当該生徒の頬を殴打するような行為は、体罰にあたるとして許されないでしょう(文部科学省「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」)。

刑事責任

 部活動等のスポーツ指導の場において、指導者が生徒に対して暴力や体罰を行った場合、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(204条)、強要罪(刑法223条)等の刑事責任を問われる可能性があります。

 例えば、指導者が、学校の部活動等において、生徒を平手や竹刀を使って殴打する行為は、不法な有形力にあたるとして暴行罪にあたる可能性があります。また、指導者による有形力の行使によって生徒が怪我をすれば、傷害罪にあたる可能性があります。そして、指導者が有形力の行使をしたうえで、生徒に土下座等を強要した場合には、強要罪にあたる可能性があります。

民事責任

 学校の部活動等スポーツ指導の場において、指導者が生徒に暴力や体罰を行った場合、生徒の身体的ないし精神的損害等に対して、民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。

 例えば、指導者が、スポーツ指導の場で、生徒を拳で殴打する行為によって怪我をさせた場合、生徒の治療費や慰謝料等の損害賠償を請求される可能性があります。

 もっとも、指導者が国公立学校等の教員である場合、国や地方自治体が生徒に対して一次的な損害賠償責任を負うので、当該指導者は、故意又は重大な過失があった場合に限り、国または地方自治体から求償の対象となります(国家賠償法1条)。そのため、国公立学校等の教員は、被害者に対して、直接的な損害賠償責任を負わないと一般的に考えられています。なお、民事責任とは別に、懲戒処分等の行政法上の責任を問われる可能性はあります(地方公務員法29条参照)。

まとめ

 今回は、学校の部活動等のスポーツ指導の場において、指導者が生徒に対して、体罰等の有形力の行使に至った場合の法的責任について言及しました。学校の部活動等は、子どもを中心とするスポーツ指導の場ですので、このような行為は、法律に違反する可能性のある行為であるだけでなく、子どものスポーツを通じた健全な発達を阻害しかねない行為です。子どもが委縮することなく、また積極的に意見を言えるような環境を保つためにも、指導者による体罰を容認してはいけません。

 問題や疑問に思っていることがあれば、ぜひご相談ください。

弁護士 有本 圭佑

所属
大阪弁護士会

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