コラム

2021/03/22

スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント

 近年、運動部において指導者からの暴力や叱責が原因で生徒が自殺した事件や、プロスポーツの指導者が選手へのパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)を理由に解任された事件など、スポーツ界の指導者によるパワハラ事件がメディア等で多く取り上げられています。
 本コラムでは、スポーツ指導者の行う行為のうち、いかなる行為が選手に対するパワハラにあたるのかを解説いたします。

指導者によるパワハラの背景

 日本のスポーツ指導においては、指導者と選手間で強い主従関係が形成されてしまっていること、スポーツ特有の勝利至上主義や仲間意識、精神論が存在すること、暴力行為を容認する意見が指導者や保護者に根強くあること等により、行き過ぎた指導が生まれやすい環境にあります。
 しかし、指導者による指導である叱咤激励が度を超して、威圧的な発言や暴力に至った場合には、それは違法なパワハラとなります。熱心な指導の一環としてしたなどという弁明は認められません。

スポーツ指導の場におけるパワハラの意義

 一般的な、職場におけるパワハラについては、厚生労働省が2012年にまとめた「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」の中で、以下のように定義、類型化されています。

【職場のパワーハラスメントの概念】
 職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
【職場のパワーハラスメントの行為類型】
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 また、文部科学省では、上記パワハラの定義を参照し、2014年に「スポーツ指導における暴力等に関する処分基準ガイドライン(試案)」の中で、スポーツ指導の場におけるパワハラについて、以下のように定義しています。

(ア)パワハラ
同じ組織(競技団体、チーム等)で競技活動をする者に対して、職務上の地位や人間関係などの組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与え、又はその競技活動の環境を悪化させる行為・言動等をいう。

 したがって、スポーツ指導の場におけるパワハラの該当性についても、一般的なパワハラの「職場」を、スポーツ指導の「現場」にあてはめ、上記行為類型①~⑥を参考にすると分かりやすいでしょう。

パワハラの6類型の具体例

 スポーツ指導の場におけるパワハラに該当する指導者の具体的行為としては、以下のものが考えられます。

  1. 指導者が指示に従わない選手を殴打する行為(身体的な攻撃)
  2. 指導者が長時間にわたって厳しい叱責を行い続ける行為(精神的な攻撃)
  3. 指導者が特定の選手を無視し、チーム内で孤立させる行為(人間関係からの切り離し)
  4. 指導者がミスをした選手に対して、過度な居残り練習や罰メニューを課す行為(過大な要求)
  5. 指導者が合理的な理由もなく選手に練習をさせない行為(過少な要求)
  6. 指導者が選手のプライベートなことに過度に介入する行為(個の侵害)

最後に

 スポーツの現場には、スポーツ特有の厳しい指導というものが常態化しています。しかし、指導者による暴力やパワハラ行為は決して許されるものではありません。
 これらの行為は、民事責任(治療費や精神的慰謝料等の支払)と刑事責任(暴行罪や傷害罪などの刑罰)の2つの責任を問われる可能性があります。
 スポーツ界の健全な発展のためには、指導者については、自分の指導が客観的にみて指導の適正な範囲といえるものかどうか、パワハラ行為に該当していないかどうかを改めて確認する必要があります。また、選手についても、パワハラ行為を容認するのではなく、周りに相談することが大切になります。
 問題や疑問に思っていることがあれば、ぜひご相談ください。

弁護士 有本 圭佑

所属
大阪弁護士会

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