スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント⑵
近年、運動部において指導者からの暴力や叱責が原因で生徒が自殺した事件や、プロスポーツの指導者が選手へのパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)を理由に解任された事件など、スポーツ界の指導者によるパワハラ事件がメディア等で多く取り上げられています。
[前回コラム]スポーツ指導の場におけるパワーハラスメント⑴では、スポーツ界の指導者の行う行為のうち、いかなる行為が選手に対するパワハラにあたるのかを解説いたしました。
本コラムでは、選手がスポーツ界の指導者によるパワハラを受けた場合、どのような対応を取り得るのかについて解説いたします。
目 次 [close]
相談の重要性
選手(生徒)がスポーツを通じて人生を豊かにし、スポーツ界が健全に発展していくためには、指導者によるパワハラを防止する必要があります。近年では、報道でも多く取り上げられているように、スポーツに関するトラブルを相談できる窓口が複数設置されています。そのため、スポーツ指導の場においてパワハラを受けた場合、それを容認するのではなく、これらの窓口に対して(あるいは直接弁護士に対して)、相談することが重要です。
なお、相談窓口等では、基本的に、相談者の秘密、個人情報等について、指導者等に漏れないように配慮されています(暴力行為等相談窓口設置規程7条、通報相談窓口処理規程第7条、11条参照)。
相談窓口
選手が、部活動、スポーツチーム等で指導者からパワハラを受けた場合、主な相談先としては、以下の窓口が考えられます。ただし、窓口によって、相談の対象となる行為の内容、相談対象となる行為者の範囲、窓口の利用対象者が異なっておりますので、注意が必要です。
一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センター(JSLSRC)「スポーツ相談室」
日本スポーツ法支援・研究センターは、スポーツ全般に関する問題の解決を図るために、「スポーツ相談室」を設置しています。
相談の対象となる行為
「スポーツ相談室」では、スポーツに関する相談を中心として、幅広く受け付けております。
スポーツ指導の場におけるパワハラも、相談の対象となる行為に含まれています(スポーツ相談室利用規約第1条2項)。
相談の対象となる行為者(指導者)
部活動、アマチュアスポーツ、プロスポーツといったカテゴリーを問わず、スポーツ界の指導者は、「スポーツ相談室」の相談の対象となる行為者に含まれます。
「スポーツ相談室」の利用者
スポーツに関する相談であれば、誰でも利用することができます。
公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」
日本スポーツ協会は、スポーツの現場における暴力行為等に関する相談に対応するため、「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を設置しています。当窓口では、「一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センター」と連携して、相談を受けています。
相談の対象となる行為
暴力、各種ハラスメント、差別、違法賭博などの違法行為や、スポーツの健全性及び高潔性を損ねるような社会規範に照らして不適切な行為が、相談の対象となる行為として挙げられています(倫理規程第4条1項)。
スポーツ指導の場におけるパワハラについても、相談の対象となる行為に含まれています(公認スポーツ指導者処分基準6条2項参照)。
相談の対象となる行為者(指導者)
日本スポーツ協会公認スポーツ指導者登録者、日本スポーツ少年団登録者などが、相談の対象となる行為者(指導者)として挙げられています(倫理規程第2条)。そのため、選手が、部活動の指導者(顧問の先生)等からパワハラを受けた場合においても、同指導者が公認スポーツ指導者の資格等を有する場合には、「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を利用することができます。
「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」の利用者
相談の対象となる行為者とその関係者であれば、「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を利用することができます(暴力行為等相談窓口設置規程第4条)。なお、「関係者」には、家族、知人、所属チームのチームメイト・スタッフ等も含まれるとされています。
処分内容
日本スポーツ協会は、必要に応じて、事実確認を実施したうえ、当該公認指導者に対し注意、資格停止、資格取消等の処分を科すことができます(公認スポーツ指導者処分基準7条2項)。
公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)「通報相談窓口」
日本オリンピック委員会では、「スポーツにおける暴力の根絶」に向け、通報相談処理規程を制定し、「通報相談窓口」を設置しています。
相談の対象となる行為
直近2年以内に行われた反社会的行為等が、相談の対象となる行為として挙げられています(通報相談処理規程第5条1項)。なお、反社会的行為には、スポーツ指導の場におけるパワハラも含まれています(通報相談処理規程第5条2項)。
「通報相談窓口」の利用者
日本オリンピック委員会が認定するオリンピック強化指定選手、同会が委嘱する強化スタッフ、これらのいずれかに該当した者で、その地位・身分でなくなってから2年を経過しない者などが、「通報相談窓口」を利用することができます(通報相談処理規程第4条)。
なお、「通報相談窓口」では、通報相談内容等が事実であるとの根拠が示される場合、匿名での通報も受け付けています(通報相談処理規程第3条5項)。
処分内容
日本オリンピック委員会は、事実を調査し、不当行為が明らかになった場合は、必要に応じて、是正措置、再発防止策などを講じたうえ、通報内容、調査結果、是正措置の内容などを公表することができます(通報相談処理規程第12条、13条)。
日本スポーツ振興センター(JSC)「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」
日本スポーツ振興センターでは、トップアスリートに対して直近4年以内に行われたスポーツ指導の場における暴力・パワーハラスメント等に関する相談に対応するため、「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」を設置しています。
なお、前記のとおり、日本オリンピック委員会(JOC)の「通報相談窓口」も存在しますが、日本スポーツ振興センター(JSC)は、相談先の多様化を図り、利用者が相談しやすい環境を整備するため、スポーツ団体以外の公正・中立な第三者による相談・調査の実施が必要であるとの考えから、「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」を設置しています。
相談の対象となる行為
直近4年以内に行われたスポーツ指導における暴力行為等が、相談の対象となる行為として挙げられています。なお、ここでの暴力行為等には、スポーツ指導の場におけるパワハラも含まれています。
「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」の利用者
トップアスリートとその関係者に限り、「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」を利用することができます。
トップアスリートとは、オリンピック競技大会代表選手、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)が認定するオリンピック強化指定選手、JOCに加盟する中央競技団体が独自に指定するオリンピック競技種目の強化指定選手などをいいます。また、相談を行った時点で、上記の地位・身分を失ってから4年を経過しない人も、当窓口を利用することができるとされています。
そして、関係者とは、トップアスリートの親族、知人、所属する団体等をいうとされています。
なお、「トップアスリートのための暴力・ハラスメント相談窓口」に対しては、メールだけでなくLINEでの相談も可能です。その点では、気軽に相談できる窓口となっています。
処分内容
日本スポーツ振興センターは、必要応じて、事実関係を調査し、スポーツ指導の場におけるパワハラ等が認められた場合、第三者相談・調整委員会を通じて、関連のスポーツ団体等に勧告・助言等を行うことになります。
各種競技連盟ごとに設置された相談窓口
多くの競技連盟では、スポーツ指導の場におけるパワハラ等に関して、相談窓口(日本サッカー協会「暴力根絶相談窓口」、日本野球連盟「コンプライアンス相談窓口」、日本陸上競技連盟「ハラスメント・暴力行為相談窓口」等)が設置されています。
選手が、特定のスポーツの指導の場においてパワハラを受けた場合、当該スポーツの競技連盟が設置する相談窓口に相談することができる場合もあります。そちらについても、併せて検討してみるのがよいと思います。
まとめ
以上みてきたように、近年、スポーツ界のトラブル(特に暴力・ハラスメント問題)への対策として、各種相談窓口が複数設置されています。そして、パワハラ等の被害を受けた方の属性(部活動、プロスポーツ、トップアスリート等)に応じて、適当な相談窓口を利用できるようになっています。
各種相談窓口の認知度が上がり、相談件数も増加傾向にあるとはいえ、まだまだスポーツ指導の場において、世に出ていないパワハラ被害は多くあると思います。選手(生徒)本人についてはもちろんのこと、チームメイト、保護者の方々についても、スポーツ指導の場におけるパワハラを発見した場合には、外部に相談することが重要です。
問題や疑問に思っていることがあれば、ぜひご相談ください。
弁護士 有本 圭佑
- 所属
- 大阪弁護士会
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