コラム

2021/02/11

プラットフォーム等を利用した求人情報・求職者情報の提供 ~職業安定法の許可~

 近年、雇用構造の変化等に伴って、人材紹介ビジネスが注目されています。
特に、インターネットやプラットフォーム等を利用した求人情報・求職者情報の提供が広まっています。こうした状況の中、これらのメディアを運営する際に、職業紹介事業の許可を取得しなければならないかとのご相談が増えています。

 以下では、職業紹介事業の許可について解説していきたいと思います。

職業紹介の意義

 職業紹介とは、職業安定法(以下「職安法」といいます。)第4条第1項において、「①求人及び②求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における③雇用関係の成立を➃あっせんすることをいう。」と定義されています。

 ここで、①「求人」とは、報酬を支払って自己のために他人の労働力の提供を求めること、②「求職」とは、報酬を得るために自己の労働力を提供して職業に就こうとすること、③「雇用関係」とは、報酬を支払って労働力を利用する使用者と、労働力を提供する労働者との間に生じる使用従属の法律関係をいいます。そして、➃「あっせん」とは、求人者と求職者との間をとりもって、雇用関係が円滑に成立するように第三者として世話することをいいます。

 したがって、提供するサービスの内容が、両者間の雇用契約が円滑に成立するように世話するものである場合には、職業紹介にあたることになります。

職業紹介事業は原則許可が必要

 提供するサービスの内容が「職業紹介」にあたる場合、職業紹介事業を営む者として、職安法30条1項又は職安法33条1項の規定により、原則として厚生労働大臣の許可を得る必要があります。

 なお、許可を得る必要があるにもかかわらず、無許可で職業紹介事業を行った者は、職安法64条第1項1号または5号に該当し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

インターネット等による求人情報・求職者情報の提供

 では、インターネットやプラットフォーム等を利用した求人情報・求職者情報の提供は、職業紹介に該当するのでしょうか。

 この点について、求人情報又は求職者情報を提供するのみで、求人及び求職の申込みを受けず、雇用関係の成立のあっせんを行わないようないわゆる「情報提供」は職業紹介には該当せず、これを業として行う場合にも職安法による許可等の手続は必要ないとされています。

 しかし、近年、インターネットによる求人情報又は求職者情報提供が広まる中で、情報提供事業者が当該情報を閲覧可能にするだけでなく、求職者と求人者との間の意思疎通を中継するなど、従来の「情報提供」の態様と異なるものが出てきています。

 これらの中には、「職業紹介」に該当するか否かの判断が困難な場合があります。

 そのため、厚生労働省では、次のような「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介事業の区分に関する基準」が示されています。

民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介事業の区分に関する基準

  1. インターネットによる求人情報・求職者情報提供は、次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合には、職業紹介に該当する。
    1. 提供される情報の内容又は提供相手について、あらかじめ明示的に設定された客観的な検索条件に基づくことなく情報提供事業者の判断により選別・加工を行うこと。
    2. 情報提供事業者から求職者に対する求人情報に係る連絡又は求人者に対する求職者情報に係る連絡を行うこと。
    3. 求職者と求人者との間の意思疎通を情報提供事業者のホームページを介して中継する場合に、当該意思疎通のための通信の内容に加工を行うこと。
  2. 1のほか、情報提供事業者による宣伝広告の内容、情報提供事業者と求職者又は求人者との間の契約内容等から判断して、情報提供事業者が求職者又は求人者に求人又は求職者をあっせんするものであり、インターネットによる求人情報・求職者情報提供はその一部として行われているものである場合には、全体として職業紹介に該当する。

具体例

上記1(2)との関係

 情報提供事業者が、自ら積極的に求職者又は求人者に連絡を行い、応募又は採用の勧奨、採用面接日時の調整、情報の追加的提供等を行うことは、雇用関係成立のための便宜を図るものといえ、職業紹介に該当すると考えられます(1⑵に該当)。

上記1(3)との関係

 情報提供事業者のウェブサイト上に掲載された求人者又は求職者に対し、求職者又は求人者が当該ウェブサイトを経由してメール等を送信することにより直接オンライン上で応募又は勧誘できる仕組みを設ける場合には、情報提供事業者が通信内容に加工を行うものではなく、職業紹介に該当しないと考えられます。

上記2との関係

 情報提供事業者が、「貴方にふさわしい仕事を面倒見る」「貴社に最適の人材を紹介する」等と掲げ、求職者又は求人者を募り、当該求職者又は求人者に対し、あっせんしようとする求人又は求職者の事業所名、氏名、電話番号等をインターネットを通じて提供することは、全体として職業紹介に当たると考えられます。

まとめ

 インターネット・プラットフォーム等を利用した求人情報・求職者情報の提供は、その運営の実態によって異なりますが、「職業紹介」にあたると判断される可能性があります。そして、職業紹介にあたる可能性がある場合に、無許可で当該運営を行うことには、刑事罰の対象となるなどの大きなリスクを伴います。

 特に、独自のコネクションを活用し、求人者と求職者の間に積極的に働きかけることを想定している場合には、職業紹介にあたる可能性が高いので、注意が必要となります。

弁護士 有本 圭佑

所属
大阪弁護士会

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