コラム

2026/10/05

取締役の利益相反取引をめぐる紛争と責任

会社と取締役の利益が衝突する利益相反取引を行う場合、会社法に基づき、原則として株主総会又は取締役会の承認を受けなければなりません。このルールは、取締役が自己又は第三者の利益を優先し、会社に不利益を与えることを防ぐために設けられています。
承認を得ずに利益相反取引を行った場合には、取引の効力が問題となるほか、会社に損害が生じれば、取引に関与した取締役が損害賠償責任を負う可能性があります。特に、取締役が自己のために会社と直接取引を行った場合には、通常の損害賠償責任よりも厳しい取扱いが定められているため、注意が必要です。

利益相反取引の定義と承認義務

会社法上の利益相反取引には、大きく分けて「直接取引」と「間接取引」の2種類があります。

  • 直接取引
    取締役が自己又は第三者のために、会社との間で売買、金銭の貸借などの取引を行う場合を指します。例えば、取締役が会社から金銭を借りる場合や、取締役が第三者を代理して会社と契約を締結する場合などがこれに当たります。

  • 間接取引
    会社が取締役以外の者との間で、結果的に会社と取締役の利益が相反する取引(例:取締役個人の借金の保証を会社が行うこと)を指します。

これらの取引を行う際、取締役は取引に関する重要な事実を開示し、取締役会設置会社では取締役会の、非設置会社では株主総会の承認を得なければなりません。また、取締役会設置会社では、利益相反取引を行った取締役は、取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません。

承認なき取引の法的効力と紛争のリスク

株主総会又は取締役会の承認を得ずに行われた利益相反取引は、原則として無効となります。取締役と会社との間で直接行われた取引については、会社は、その取締役に対し、承認を受けていないことを理由として取引の無効を主張することができます。
一方、会社が取締役以外の第三者との間で行った間接取引について、会社がその第三者に対して無効を主張するためには、第三者が、取引が利益相反取引に該当すること及び承認を得ていないことを知っていたことを、会社側が立証しなければなりません。このように、第三者との関係では取引の効力が第三者の認識によって左右されるため、「相対的無効」と解されています。なお、この規制は会社の利益を保護するためのものであるため、取締役の側から、承認を欠くことを理由として取引の無効を主張することはできないと解されています。

取締役の損害賠償責任と「任務懈怠」の推定

利益相反取引によって会社に損害が生じた場合、当事者となった取締役だけでなく、その取引を決定した取締役や承認決議に賛成した取締役も、任務を怠った(任務懈怠)ものと推定されます。この推定を覆すためには、取締役側において、取引の承認や決定に当たって必要な調査・検討を行うなど、取締役としての任務を怠っていなかったことを立証する必要があります。
特に、取締役が自己のために会社と直接取引を行い、その任務懈怠によって会社に損害を生じさせた場合には、会社法428条1項により、「自分に落ち度はなかった」と主張して責任を免れることができません。これは、株主総会又は取締役会の承認を得ていた場合であっても同様です。これに対し、間接取引には、この無過失責任の特則は適用されません。

監査等委員会設置会社

監査等委員会設置会社では、利益相反取引についてあらかじめ監査等委員会の承認を受けた場合、会社法423条3項による任務懈怠の推定は適用されません。ただし、これは損害賠償責任そのものが免除されるという意味ではありません。会社側が任務懈怠、損害及び因果関係を立証した場合には、責任を問われる可能性があります。

結論

利益相反取引に該当する可能性がある場合には、取引を実行する前に、取引の内容、相手方、取締役が得る利益、会社に生じ得る不利益などの重要な事実を明らかにし、法律及び定款に従って適切な機関の承認を受ける必要があります。また、承認を受けていても、取引条件が会社にとって著しく不公正であれば、取締役が損害賠償責任を負う可能性があります。紛争を防ぐためには、形式的に承認手続を行うだけでなく、取引の必要性や取引条件の妥当性、会社に不利益を及ぼすおそれについて十分に検討することが重要です。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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