コラム

2026/10/26

競業行為・顧客奪取が発覚した場合の企業側対応

従業員や元従業員による競業行為・顧客奪取が発覚した場合、企業は、競業避止義務や秘密保持義務の違反、不法行為、不正競争防止法上の不正競争などを根拠として、損害賠償を請求できる場合があります。また、有効な競業避止特約がある場合や、営業秘密の侵害が不正競争に該当する場合などには、差止請求も検討できます。 在職中の競業行為は、その内容によって、労働契約上の信義則に基づく付随的義務の違反として損害賠償請求の対象となり得ます。また、就業規則上の根拠があり、処分に合理性・相当性が認められる場合には、懲戒処分の対象となることもあります。退職後は職業選択の自由があるため、原則として競業避止義務は負いません。義務を課すには、個別の合意や労働契約の内容となる就業規則の定めなどの根拠が必要ですが、その有効性は「企業の守るべき利益」「従業員の地位」「制限の期間・地域・職種」「代償措置の有無」などを総合考慮して判断されます。

競業行為への法的根拠と責任の分類

企業が競業行為に対応する際の根拠は、大きく「在職中」と「退職後」で異なります。

在職中の競業行為

在職中の労働者は、労働契約上の信義則に基づき、使用者の正当な利益を不当に侵害しない義務を負っています。そのため、競業避止義務に関する特約がなくても、会社の受注を競合事業に振り向けるなどの行為は、義務違反として損害賠償請求の対象となり得ます。ただし、転職や独立の準備が直ちに義務違反となるわけではなく、具体的な行為の内容や会社への影響などを踏まえて判断されます。懲戒処分については、周知された就業規則上の根拠と、処分の合理性・相当性が必要です。

退職後の競業避止義務

退職後は職業選択の自由があるため、原則として競業避止義務は負いません。義務を課すには明示的な特約が必要ですが、その有効性は「企業の守るべき利益」「従業員の地位」「制限の期間・地域・職種」「代償措置の有無」などを総合考慮して判断されます。これらが不合理であれば、民法90条に基づき無効とされる場合があります。
もっとも、競業避止特約がない場合でも、営業秘密の不正利用や元の勤務先の信用をおとしめる行為など、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な方法による顧客奪取は、不法行為として損害賠償請求の対象となり得ます。ただし、従前の顧客に営業活動を行い、取引を開始したというだけで、当然に違法となるわけではありません。

不正競争防止法に基づく救済措置

顧客情報や技術情報などの不正な取得・使用・開示が、不正競争防止法上の「営業秘密」の侵害として同法の定める不正競争に該当する場合には、同法に基づく差止請求や損害賠償請求を検討できます。営業秘密とは、秘密として管理され、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であり、かつ公然と知られていないものを指します。

差止請求

不正競争によって営業上の利益を侵害された場合、又は侵害されるおそれがある場合には、その侵害の停止又は予防を請求できます。ただし、同法に基づく差止めは、営業秘密の不正な使用・開示などを対象とするものであり、元従業員が競合他社に就職すること自体を当然に禁止できるわけではありません。

損害賠償請求

故意・過失による侵害に対し、生じた損害の賠償を請求できます。同法では、侵害者が得た利益の額を損害額と推定するなど、企業の立証負担を軽減する規定が設けられています。

  • 刑事罰
    不正な利益を得る目的等で営業秘密を取得・使用・開示した場合には、10年以下の拘禁刑や多額の罰金などの刑事罰が科される可能性もあります。

実務上の対応と損害立証のハードル

競業避止義務違反による損害賠償請求では、違反行為の存在に加え、それによって損害が生じたことと、その金額を示す必要があります。取引の喪失による損害を請求する場合には、従前の取引状況や顧客とのやり取り、利益率などを踏まえ、違反行為によって失われた利益を具体的に示すことが重要です。失われた売上高が、そのまま損害額となるわけではありません。
なお、労働契約の不履行について、違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることは、労働基準法16条により禁止されています。退職後の競業避止義務違反に対する違約金についても、同条の適用や公序良俗との関係が問題となるため、安易に設けることは避け、個別に検討する必要があります。

企業の留意点と事前対策

紛争を未然に防ぎ、あるいは有事の際の実効性を高めるためには、以下の事前対策が重要です。

  • 特約の合理性確保
    企業の守るべき利益に応じて、制限期間・地域・対象業務を必要かつ合理的な範囲に限定すること。また、制限による従業員の不利益を踏まえ、手当や退職金の上乗せなどの代償措置を検討すること
  • 情報の厳格な管理
    不正競争防止法上の保護を受けるためには、その情報が「秘密として管理されている」実態が必要です。アクセス制限や秘密表示などの措置を徹底してください。
  • 証拠の確保
    競業行為の疑いがある場合、在職中のメール送信履歴の確認や、顧客からの事情聴取などを通じて、具体的な違反事実(引き抜きの態様など)を特定する必要があります。

結論

競業行為・顧客奪取への対応は、在職中か退職後か、また「営業秘密」の侵害があるかによって法的枠組みが異なります。企業としては、単に形式的な誓約書を徴取するだけでなく、その内容が公序良俗に反しない合理的な範囲内であるかを精査し、同時に情報の管理実態を伴わせることが、実効的な企業防衛につながります。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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