コラム

2026/09/24

不正会計・背任行為が疑われる場合の初動対応

企業において不正会計や背任行為の疑いが生じた場合、取締役には、善管注意義務の一環として、その疑いの内容や具体性に応じて事実関係を確認し、必要な調査や被害拡大防止等の措置を講じることが求められます。特に、経営陣の関与が疑われる場合には、社外取締役や監査役、外部専門家などを活用し、調査の客観性・公正性を確保することが重要です。対応を誤れば、役員の会社に対する損害賠償責任が問題となるほか、不正行為の内容によっては刑事責任が問われ、企業の社会的信用が大きく損なわれるおそれがあります。

不正の兆候と取締役の法的義務

取締役は、会社に対して「善管注意義務」を負っています。これは、善良な管理者の注意をもって職務を遂行する義務のことです。不正の兆候(レッドフラッグ)を認識したにもかかわらず、的確な調査やリスク管理を怠り、漫然と取引を継続させて会社に損失を与えた場合、この義務に違反したとして損害賠償責任(会社法423条)を問われる可能性があります。
取締役は、会社に対して善管注意義務及び忠実義務を負っており、他の取締役による職務執行について重大な不正や問題を認識した場合には、必要な調査や是正措置を講じることが求められます。特に、取締役会設置会社では、取締役会が取締役の職務執行を監督するものとされており、各取締役は取締役会の構成員として監督に当たる責務を負います。また、大会社では、会社法に基づき、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他の内部統制システムの整備に関する事項を決定することが義務付けられています。

初動対応における事実確認と調査体制

不正会計や背任行為の疑いが生じた場合、まずは必要な証拠・資料を保全し、予備的な事実確認を行った上で、本格的な調査の要否、範囲及び体制を検討します。初動段階では、以下の点が重要です。

  • 証拠・資料の保全
    関係する会計資料、契約書、電子メール、チャット、パソコンその他の電子データについて、削除や改変を防ぐための保全措置を速やかに講じます。不正への関与が疑われる者に調査開始を知らせる前に、必要な証拠を確保すべき場合もあります。
  • 客観性の確保
    経営トップが不正に関与している疑いがある場合、社外取締役や監査役といった独立した立場にある者が主導し、必要に応じて外部の弁護士や公認会計士等の専門家と連携します。
  • 情報の管理
    経営者による不正が疑われる初期段階では、証拠隠滅や調査情報の漏えいを防ぐため、情報を共有する範囲を慎重に検討する必要があります。不正への関与が疑われる役職員が出席する取締役会で、具体的な調査方法を議論することが適切でない場合もあります。
  • 監査役の役割
    業務監査権限を有する監査役は、取締役等に対して事業の報告を求め、会社の業務及び財産の状況を調査することができます(会社法381条2項)。また、監査役は、取締役が不正な行為をし、若しくはそのおそれがあると認めるとき、又は法令・定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に報告しなければなりません(同法382条)。
  • 通報者等への配慮
    内部通報を端緒とする場合には、通報者を特定させる情報を適切に管理するとともに、通報を理由とする不利益な取扱いが行われないよう、必要な措置を講じることが重要です。

検討すべき実務上の主要論点

事実関係がある程度明らかになる過程で、多角的な検討が必要となります。

  • 決算および開示への影響
    投資家の判断に影響を与える不正会計の場合、適時開示や過年度決算の訂正、有価証券報告書の訂正報告書の提出要否を検討します。
  • 関係機関への対応
    事業内容や不正の性質に応じて、監督官庁、証券取引所その他の関係機関への報告・届出の要否を検討します。犯罪に該当する可能性がある場合には、警察等への相談・申告も検討します。また、経営陣の関与が疑われる場合や社会的影響が大きい場合には、外部専門家による調査委員会又は第三者委員会の設置が適切かどうかを検討します。
  • 当事者への対応
    不正に関与した疑いのある者への暫定的な処遇や、将来的な責任追及の検討を行います。

任務を怠った場合の法的リスク

適切な初動対応を怠った場合、役員は以下の法的責任を問われる可能性があります。

  • 民事責任
    任務を怠った役員は、会社に対する損害賠償責任を負う可能性があります(会社法423条)。また、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、これによって第三者に損害を与えた場合には、第三者に対する損害賠償責任を負う可能性があります(同法429条)。
  • 刑事責任
    取締役等が、自己若しくは第三者の利益を図り、又は会社に損害を加える目的で任務に背き、会社に財産上の損害を与えた場合には、特別背任罪が成立し、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はその両方が科される可能性があります(会社法960条)。
  • 行政上の措置等
    有価証券報告書等に重要な虚偽記載等がある場合には、その提出者である発行者が、金融商品取引法に基づく課徴金納付命令や訂正報告書の提出命令等の対象となることがあります。また、金融商品取引業者等については、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認められる場合、金融商品取引法その他の適用される業法に基づき、業務改善命令、業務停止命令等の行政処分の対象となる可能性があります。なお、経営陣個人が課徴金等の対象となるかどうかは、それぞれの規定が定める要件に基づいて判断されます。

結論

不正の疑いが生じた際には、事態を過小評価せず、疑いの内容や会社への影響に応じて、必要な調査と証拠保全を速やかに進めることが重要です。特に、経営陣の関与が疑われる場合には、社外取締役、監査役及び外部専門家を活用し、調査の客観性・公正性を確保する必要があります。適切な調査、被害拡大防止、関係者への対応及び再発防止を着実に進めることが、会社の損害を抑え、ステークホルダーからの信頼の維持・回復を図ることにつながります。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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