会社資産の流出が疑われる場合の調査と法的措置
会社資産には、現金、預金、物品等の有形・金銭的資産だけでなく、営業秘密、顧客情報、技術情報、ノウハウ等の重要な情報資産も含まれます。これらの不正な流出が疑われる場合、企業には迅速かつ適切な初動対応が求められます。調査の目的は事実関係の解明にとどまらず、被害の拡大防止や法的責任の追及、さらには再発防止策の策定まで多岐にわたります。特に、関係者による財産の隠匿を防ぐための早期の資産保全や、デジタル証拠の確保を含む証拠保全は、その後の民事・刑事上の法的措置の成否を左右する極めて重要なプロセスです。
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会社資産の流出が疑われる場合の調査と法的措置
1. 不正の兆候を把握したときの初動対応
会社資産の不正な流出には、架空取引やキックバック、横領等による金銭・物品の流出だけでなく、営業秘密、顧客情報、技術情報等の情報資産の持ち出しも含まれます。これらの流出の疑いが発生した場合、まず行うべきは迅速な「初動調査」です。調査の初期段階では、証拠の消去・上書きを防止しつつ情報の確度を確認し、漏えいや流出の事実があるか、どのような内容・量の資産が影響を受けたか、原因は何であるかといった重要事実をスピード重視で把握する必要があります。内部者の関与が疑われる場合には、証拠の隠滅や口裏合わせを防ぐため、調査に関する情報管理を徹底し、慎重に調査を進めることが求められる場合もあります。
初動調査の結果に基づき、経営陣は、被害拡大を防止するために必要な応急措置を速やかに検討・実施する必要があります。関与が疑われる従業員を一時的に業務から外し、必要に応じて自宅待機を命じることも考えられます。ただし、自宅待機命令の必要性・相当性、就業規則上の根拠、待機期間中の賃金の取扱いについて、労働法上の検討が必要です。また、システムへのアクセス権限を遮断することも考えられます。疑わしい取引については、新たな支払・送金を一時停止できるか、契約内容、支払期限、相殺その他の法的根拠を確認した上で判断します。全容解明を待たずに、さらなる損害の発生や被害の拡大を防止することが重要です。
2. 証拠と資産を守るための対応
法的措置を実効的なものにするためには、証拠と資産の両面で保全措置を検討しなければなりません。証拠保全については、不正に関与した者が使用していたパソコンや携帯電話のデータを保存する「デジタル・フォレンジック」の手法などが有効です。デジタル・フォレンジックは、会社が管理する端末・アカウントを中心に、証拠の同一性を損なわない方法で実施します。私物端末や私的アカウントを対象とする場合は、プライバシー等への配慮と、調査権限・本人同意の有無について慎重な検討が必要です。また、契約書や伝票などの書類が偽造・変造されている可能性も考慮し、原本や作成経緯、関連する取引記録等を確認して、客観的な証拠を収集することが重要です。事案の内容や複雑性に応じて、公認会計士や弁護士等の専門家の知見を活用することも有効です。
証拠保全と併せて検討する必要があるのが、損害賠償請求等が認められた場合の強制執行に備えるための「資産保全」です。不祥事の当事者は、会社による責任追及の動きを察知すると、不動産の名義変更などにより、財産を隠匿することがあります。
そのため、財産隠匿のおそれがある場合には、社内調査と並行して、早い段階から仮差押えなどの資産保全措置を検討し、必要な準備を進めることが重要です。仮差押えを申し立てるには、損害賠償請求権等の存在に加え、将来の強制執行が困難となるおそれなど、保全の必要性を裁判所に疎明する必要があります。また、裁判所から担保の提供を求められるのが通常であるため、早期の資料収集と申立準備が重要です。
なお、「証拠保全」には、社内でデータや書類を適切に保存するという一般的な意味のほか、あらかじめ証拠調べをしておかなければ証拠を使用することが困難となる事情がある場合に利用できる、民事訴訟法上の証拠保全手続があります。
3. 民事・刑事上の責任追及
事実関係が明らかになれば、具体的な法的責任の追及へと進みます。民事上の請求は、不正行為を行った者の地位や行為の内容によって異なります。取締役等の役員がその任務を怠り、会社に損害を生じさせた場合には、会社法第423条第1項に基づく損害賠償責任を追及することが考えられます。また、従業員や取引先等による不正行為については、契約上の義務に違反したことによる債務不履行責任、不法行為に基づく損害賠償責任、不正に取得した利益についての不当利得返還責任などが問題となります。
営業秘密、顧客情報、技術情報等の情報資産が不正に持ち出され、又は使用・開示された場合には、秘密保持義務違反等を理由とする損害賠償請求に加え、不正競争防止法に基づく使用・開示の差止め、損害賠償、営業秘密を記録した媒体等の廃棄などを求めることが考えられます。ただし、不正競争防止法上の保護を受けるためには、対象となる情報が、秘密として管理され、有用性及び非公知性を備えた「営業秘密」に該当することが必要です。
さらに、会社が所有する書類、パソコン、記録媒体、物品等が持ち出された場合には、所有権や契約上の返還義務に基づき、その返還を請求することが考えられます。このように、会社資産の流出に対する法的措置は、流出した資産の性質、不正行為者の地位、契約関係、不正行為の具体的態様等を踏まえて選択する必要があります。
刑事責任としては、役員等による特別背任罪、会社の金銭・物品を業務上占有する者による業務上横領罪、一般従業員等による背任罪や詐欺罪のほか、営業秘密の不正取得・使用・開示については、不正競争防止法上の刑事責任が検討対象となる場合があります。
4. 公表と関係者への対応
不祥事に関する公表の要否・時期・内容は、上場会社であるか否か、法令・取引所規則上の開示義務、被害の規模、顧客・取引先への影響、捜査や調査への影響、個人情報・営業秘密への配慮などを踏まえて判断します。特に、上場会社における役員の背任や重大な不正会計など、株主や投資家の判断に大きな影響を与える事案については、判明した事実の内容や調査の進捗に応じて、迅速かつ的確な情報開示が求められることがあります。経営陣の関与が疑われる場合、内部統制や社内調査の公正性に重大な疑義がある場合、社会的影響が大きい場合などには、調査の独立性・中立性・専門性を確保するため、外部専門家による調査委員会又は第三者委員会の設置を検討します。
5. 再発を防ぐための取組み
事後対応の締めくくりとして、同様の不祥事を繰り返さないための「再発防止策」の策定が不可欠です。不正が発生した根本的な原因を分析し、権限の集中やチェック体制の不備など、不正を招いた要因を改善するため、管理体制や社内規程の見直しを行います。外部の弁護士による規程の確認や、全役職員を対象とした定期的な研修、内部監査部門による継続的なチェックを行うことで、企業の自浄機能を高めていくことが重要です。
結論
金銭・物品や重要な情報資産の流出が疑われる場合には、証拠の消去・改変を防ぎながら事実関係を把握し、被害拡大の防止、証拠保全及び資産保全を並行して進めることが重要です。その際、自宅待機、端末調査、取引停止、公表、刑事告訴等については、それぞれ労働法、プライバシー、契約上の義務、開示規制等を踏まえた判断が求められます。事案が複雑な場合や法的判断に迷う場合には、弁護士等に相談することも、適切な対応方針を検討する上で有効な選択肢となります。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
弁護士 小西 憲太郎
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事
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