コラム

2026/09/07

経営陣の内部対立が訴訟に発展する前に行うべき対応

経営陣の対立が深刻化し、訴訟に発展することは、企業価値を大きく損なうリスクを伴います。取締役には、対立が決定的になる前に、客観的な事実関係に基づく議論を行い、適正な意思決定手続を確保することが求められます。また、法令違反や不正の兆候がある場合には、速やかに調査・報告・是正を行うとともに、関連資料の保存、権限分担の整理、外部専門家の活用等の初動対応を講じることが重要です。

対立の深刻化を防ぐための意思決定の在り方

経営陣の間で経営戦略をめぐる意見の相違が生じることは珍しくありません。重要なのは、意見の相違を個人間の対立に発展させず、会社の意思決定過程において、判断の前提となる事実や各提案の利点・リスクを共有し、会社の中長期的な利益という共通の基準に基づいて議論することです。社外取締役が置かれている場合には、経営陣から独立した立場で議論を整理し、必要に応じて追加の情報提供や外部専門家の意見を求めるなど、客観的かつ建設的な意思決定を促す役割が期待されます。特に、親会社や支配株主が関与する場合には、会社及び一般株主の利益が不当に害されていないかを検証し、判断の公正性を確保することが重要です。

企業価値を守るための「基準」と「行動」

経営陣の対立が解消できない事態に陥った場合、取締役が重視すべきなのは、特定の役員や株主の利益ではなく、会社の中長期的な利益を確保するために何が適切かという点です。対立の背景に法令違反や会社に重大な損害を及ぼしかねない行為がある場合には、取締役は、事実関係を調査した上で、会社の機関設計に応じた適切な機関に報告し、必要な是正措置を講じる必要があります。また、会社法上、取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、会社の機関設計に応じて、株主、監査役、監査等委員会又は監査委員会に報告する義務を負います。上場会社において対外公表が必要となる場合には、金融商品取引法や取引所規則等を踏まえ、会社として公表の要否・時期・内容を慎重に判断する必要があります。

内部統制システムの構築による不祥事の未然防止

社内のトラブルが法的紛争にまで発展することを防ぐためには、日頃からのリスク管理体制(内部統制システム)の整備が欠かせません。会社は、その機関設計、規模及び事業特性に応じ、法令遵守やリスク管理のための体制を整備する必要があります。取締役会設置会社では、取締役会がその基本方針を適切に決定するとともに、各取締役は、整備された体制が実際に機能しているかを継続的に監視し、不備を把握した場合には是正を求める必要があります。これには、従業員の違法・不当な行為を未然に防止するための法令遵守体制の確立も含まれます。例えば、製品のリコール判断が遅れることで信頼回復費用などの損失が拡大した場合、役員が善管注意義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあるため、迅速な情報把握と意思決定ができる体制を整えておく必要があります。

対立が顕在化した場合の初動対応

経営陣の対立が顕在化した段階では、まず争点と事実関係を整理し、会社の意思決定に関する議事録、契約書、電子メールその他の関連資料を適切に保存する必要があります。その上で、利害関係の有無を確認し、必要に応じて関係する取締役等の審議・意思決定への関与を制限する、社外取締役、監査役、外部弁護士等を交えて協議する、当面の権限分担や情報管理の方法を定めるなど、対立によって事業運営が停滞しないための暫定措置を講じることが重要です。さらに、当事者間の交渉による解決が可能な段階であれば、第三者を交えた協議や民事調停等を活用することも、訴訟の長期化による企業価値の毀損を避けるための選択肢となります。

利益相反の監督と専門家の活用

取締役が自己又は第三者のために会社と取引する場合など、会社法上の利益相反取引に該当する事案では、重要な事実を開示した上で、株主総会又は取締役会による所定の承認を得る必要があります。また、取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができず、案件の内容に応じて審議への関与も制限するなど、判断の公正性を確保することが重要です。さらに、MBOや支配株主との取引など、構造的な利益相反が生じる重要な案件では、独立した社外取締役等で構成される特別委員会を設置し、外部専門家の助言を受けることが、公正性を確保するための有効な方策となります。

結論

取締役には、法令及び定款を遵守し、会社のために忠実に職務を遂行することが求められます。これは、リスクを一切回避することではなく、十分な情報に基づき、適正な手続を経て、会社の中長期的な利益を踏まえた合理的な判断を行うことを意味します。内部対立を単なる感情的な争いに留めず、内部統制システムの適切な運用と、会社の機関設計に応じた客観的な監視・監督機能を通じて解決を図ることが、訴訟という最終手段を回避し、持続的な企業成長を支える鍵となります。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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