コラム

2023/12/04

懲戒処分

 会社の規律を破り秩序を乱すような行動を取る従業員がいた際には、社内の秩序維持のために懲戒処分をせざるを得ないこともあるでしょう。

 本コラムでは、懲戒処分の種類や、有効となるための条件について解説します。

懲戒処分とは

 懲戒処分とは、労働者の企業秩序違反行為に対する制裁罰で、労働関係上の不利益措置となります。

 どういった制裁を定めるかについては、会社の裁量に委ねられますが、就業規則においてその内容を定めておく必要があります。

 また、会社内の行為だけではなく、勤務時間外である私生活上の行為であっても、会社の名誉や信用を失墜させるような行為は、多くの会社で懲戒事由とされています。

 なお、懲戒処分を濫用してしまうと、違法・無効と判断される場合もあるため、懲戒処分を行う際には、慎重な検討が必要となります。

懲戒処分の種類

 懲戒処分としてどういった制裁を課すかについては、会社の裁量に委ねられます。会社によって懲戒処分の内容は異なりますが、下図のような処分が定められることが多いです。右に行くほど処分の重さのレベルが上がり、最も重い処分が懲戒解雇とされています。

戒告・譴責

 戒告は、文書または口頭で厳重注意を行い、将来を戒める処分のことです。また、譴責とは、従業員に始末書を提出させて厳重注意を行う処分です。

 経済的な意味での制裁には当たらず、最も軽い懲戒処分として定めている会社が多いです。

減給

 減給は、従業員の賃金を減額する処分です。従業員の経済的利益に直接影響を与える処分であるため、労働基準法は、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額以下、減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下のものでなければならないとの制限を定めています(労働基準法91条)。また、1回の問題行動に対する減給処分で減給できるのは1回だけで、1年などの期間を定めて減給できるわけではありません。

出勤停止

 出勤停止は、従業員に一定の期間出勤を禁じる処分です。多くの会社では出勤期間停止中は無給としていますが、そのためには就業規則に明記する必要があります。また、勤続年数にも算入されない場合が多くありあす。

 出勤停止の期間について法律上の上限はありませんが、通常は就業規則で上限が決められており、1~2週間程度と定められることが多いでしょう。なお、あまりにも長期間におよぶ場合には、無効とされるおそれがあるため、慎重に適用しなければなりません。

降格

 降格(降職・降級)は、従業員の役職(職位)又は職能資格を引き下げる処分です。降格すると、役職手当や職務手当などの役職給も減額されるのが通常です。

 出勤停止処分の場合は出勤停止の期間が満了すればもとの給与が支払われますが、降格処分で役職給が下がった場合は元の役職に戻るまでの期間ずっと下がった給与が支払われることとなり、従業員にとってはより大きな経済的打撃となります。

諭旨解雇

 諭旨解雇とは、従業員に対して退職届の提出を勧告する処分です。情状酌量の余地がある場合や、深い反省が見られる場合になされる、懲戒解雇よりは情状を勘案した軽い処分といえます。ただし、従業員が退職届を提出しない場合には、懲戒解雇が行われることもあります。

 諭旨解雇の場合の退職金の取扱いについては会社の退職金規程によりますが、減額規定によって退職金の一部が減額される場合もあります。

懲戒解雇

 懲戒解雇とは、会社側が従業員に対して、一方的に労働契約を解消する処分です。あらゆる懲戒処分で最も重い処分とされています。

 懲戒解雇についての詳細は、こちらをご覧ください。

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懲戒処分が有効となるための条件

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法15条

 労働契約法15条では、懲戒について上記のように定めています。したがって、懲戒処分を有効とするためには、以下の要件が必要であると言えます。

  1. 使用者が労働者を懲戒することができる場合であること
  2. 労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、客観的に合理的な理由があること
  3. 当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められること

 また、懲戒処分を行うためには、労働契約法15条以外にも、罰則を与えるときには守るべき法律上のルールがあります。

明確性の原則懲戒処分を行うには、懲戒の対象となる事由及び処分の内容を就業規則等で明確に定めておかなければならない
不遡及の原則根拠規定が制定される以前の事実について懲戒処分を行うことは出来ない
一事不再理の原則一度懲戒処分が確定した事案について、再度の懲戒処分を行うことは許されない
相当性の原則処分の対象となる事由と処分の内容が釣り合ったものでなければならない
平等取扱いの原則同種・同程度の非違行為には、同一種類・同程度の処分を科す
適正手続の原則就業規則で懲戒委員会の手続が定められていれば、これを順守し、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を講じる

①使用者が労働者を懲戒することができる場合

 「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とは、使用者に懲戒権が認められていることを意味します。判例では、懲戒権行使のためには以下の要件が必要であるとされています(フジ興産事件 最高裁判所平成15年10月10日判決)。

  • あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくこと
  • その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていること

②客観的に合理的な理由

 労働者の非違行為が、就業規則に定める懲戒事由に該当する必要があります。

 懲戒戒事由は様々な非違行為に対応すべく、広範で包括的な文言が用いられている場合が通常です。もっとも、裁判においては労働者保護の観点から、懲戒事由該当性の判断に際して限定解釈が行われることが多くあります。

③相当性

 懲戒処分が社会通念上相当と判断されるには「処分の相当性」と「手続の相当性」が求められます。

 「処分の相当性」に関しては、非違行為の内容と懲罰との間のバランスに相当性があるかどうかを判断されます。懲戒処分の種類と内容は企業の判断で決めることができますが、過去の処分事例や裁判例などから処分の重さを判断する必要があり、判断に迷う場合は弁護士に相談されることをおすすめいたします。また、「手続の相当性」では、就業規則や労働協約に反する手続で懲戒処分を行った場合には無効という判断がなされる傾向にあります。

過去の裁判例

不二タクシー事件(東京地裁令和3年3月26日判決 労判1254号75頁)

事件の概要

 タクシー業を営むY社に雇用されてタクシー運転手として勤務していた従業員Xは、Y社から、正当な事由なく遅刻、帰庫時間遅れを繰り返していたことを理由として、14日間出勤停止の懲戒処分を受けました。Xは同処分が無効であると主張して、同処分の無効確認を求めるとともに、Y社に対し、欠勤扱いとなった期間の賃金等の支払を求めた事案です。

裁判所の判断

 Xの行為は懲戒事由には該当するものの、Y社において、行政指導、行政処分や、東京タクシーセンターのランク付けの低下を避けるために、Xに出庫時間、帰庫時間を遵守させる切迫した必要性があったともいえず、本件懲戒処分に先立つ時期に、このことにつきXに個別的な指導もされていなかったことにも照らせば、Xの行為は、懲戒事由として重大であるとはいい切れない(したがって、前記のとおり、Xの行為は懲戒解雇事由に形式的に該当はするものの、適法に懲戒解雇がされ得る状況にはなかったといえる。)。Y社は、それにもかかわらず、Y社の懲戒処分の体系上、懲戒解雇、降職に次ぐ重さの懲戒処分である出勤停止を選択し(なお、乗務員に対する降職処分はそもそも想定されていないと解される。)、その期間も上限である14日間としたのであるから、本件懲戒処分は、やや重きに失するものであったといえる。さらに、本件懲戒処分につき事前の警告はなく、Xには弁明する機会も与えられていなかった上に、Y社就業規則の定める手続も履践されておらず、手続的な相当性を欠くものであったことからすれば、本件誓約書への署名を拒否したXに対する報復であったとまでは認められないものの、本件懲戒処分は、社会通念上相当であったということはできず、懲戒権の濫用に当たり、無効である。

テトラ・コミュニケーションズ事件(東京地裁令和3年9月7日判決 労経速2464号31頁)

事件の概要

 情報通信技術に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社であるY社にシステムエンジニアとして雇用されている従業員Xは、Y社のアドミニストレーショングループの担当者であるAから、Y社の企業年金の確定拠出年金への移行に係る必要書類の提出を求められ、Aに対し、関連資料の送付を求めた上、「この件で、私が不利益を被ることがありましたら、訴訟しますことをお伝えします。」とのメッセージを送信しました。

 Y社代表者は、Xに対し、弁明の機会を付与することなく、メールで、「アドミニストレーショングループAさんに対する「訴訟」という単語による脅迫および非協力的な態度」が懲戒事由に該当するとして、けん責処分をして始末書を提出するよう命じました。

 Xは、本件けん責処分は、Xに対する弁明の機会が付与されていないばかりか、就業規則の該当法条の指摘すらないまま一方的に告知されたものであり、手続の相当性を欠き、懲戒権を濫用した違法無効なものというべきであるとして、損害賠償請求訴訟を提起しました。

裁判所の判断

 懲戒処分に当たっては、就業規則等に手続的な規定がなくとも格別の支障がない限り当該労働者に弁明の機会を与えるべきであり、重要な手続違反があるなど手続的相当性を欠く懲戒処分は、社会通念上相当なものといえず、懲戒権を濫用したものとして無効になるものと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、本件けん責処分は、Xに弁明の機会を付与することなくなされたものである。XがAに対して本件メッセージを送信したこと自体は動かし難い事実であるし、証拠によれば、Xが度々抗議に際して訴訟提起の可能性に言及するなどしてY社、その代表者及び従業員に対する敵対的な態度を示していたことが認められ、これが抗議の方法として相当といえるか疑問の余地もある。しかしながら、それが脅迫に当たるか、DC移行に係る必要書類の提出を拒むなどしたXの態度が、懲戒処分を相当とする程度に業務に非協力的で協調性を欠くものといえるかについては、経緯や背景を含め、本件メッセージの送信についてのXの言い分を聴いた上で判断すべきものといえる。そうすると、Xに弁明の機会を付与しなかったことは些細な手続的瑕疵にとどまるものともいい難いから、本件けん責処分は手続的相当性を欠くものというべきである。

 したがって、本件けん責処分は、懲戒権を濫用したものとして無効と認められる。

 本件に顕われた一切の事情を考慮すると、Xが本件けん責処分によって被った精神的苦痛を慰謝するに足りる相当な額は、10万円と認めるのが相当である。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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