コラム

2023/12/11

要配慮個人情報とは

 個人情報保護法は、2020年に大きな改正が行われ、2022年4月1日より施行されています。

 本コラムでは、この個人情報保護法に関連し、「要配慮個人情報」とされている個人情報について解説いたします。

要配慮個人情報とは

 要配慮個人情報とはどのようなものでしょうか。個人情報保護法では、2条3項において、要配慮個人情報に関する規定を置いています。

この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

 「政令で定める記述等」とは、個人情報保護法施行令2条各号で規定されています。

法第2条第3項の政令で定める記述等は、次に掲げる事項のいずれかを内容とする記述等(本人の病歴又は犯罪の経歴に該当するものを除く。)とする。

一 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること。

二 本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者(次号において「医師等」という。)により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査(同号において「健康診断等」という。)の結果

三 健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと。

四 本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと。

五 本人を少年法(昭和23年法律第168号)第3条第1項に規定する少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと。

 そして、1号で定める「個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害」とは、個人情報保護法施行規則5条で規定されています。

令第2条第1号の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害は、次に掲げる障害とする。

一 身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)別表に掲げる身体上の障害

二 知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)にいう知的障害

三 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)にいう精神障害(発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第1項に規定する発達障害を含み、前号に掲げるものを除く。)

四 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第4条第1項の政令で定めるものによる障害の程度が同項の厚生労働大臣が定める程度であるもの

 法令では上記のように規定されていますが、具体的にどのようなものが要配慮個人情報にあたるのかについて、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(平成28年11月(令和4年9月一部改正)個人情報保護委員会)の「2-3」が参考となります。ガイドラインでは、次に掲げる情報を推知させる情報にすぎないもの(例:宗教に関する書籍の購買や貸出しに係る情報等)は、要配慮個人情報には含まないとされています。

⑴ 人種

 人種、世系又は民族的若しくは種族的出身を広く意味します。なお、単純な国籍や「外国人」という情報は法的地位であり、また、肌の色は、人種を推知させる情報にすぎないため、人種には含まないとされます。

⑵ 信条

 個人の基本的なものの見方、考え方を意味し、思想と信仰の双方を含むものです。

⑶ 社会的身分

 ある個人にその境遇として固着していて、一生の間、自らの力によって容易にそれから脱し得ないような地位を意味します。単なる職業的地位や学歴は、ここでの社会的身分には含まれません。

⑷ 病歴

 病気に罹患した経歴を意味するもので、特定の病歴を示した部分(例:特定の個人ががんに罹患している、統合失調症を患っている等)が該当します。

⑸ 犯罪の経歴

 前科、すなわち有罪の判決を受けこれが確定した事実が該当します。

⑹ 犯罪により害を被った事実

 身体的被害、精神的被害及び金銭的被害の別を問わず、犯罪の被害を受けた事実を意味する。具体的には、刑罰法令に規定される構成要件に該当し得る行為のうち、刑事事件に関する手続に着手されたものが該当します。

⑺ 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること(政令第2条第1号関係) 

 次の①から④までに掲げる情報をいいます。この他、当該障害があること又は過去にあったことを特定させる情報(例:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)に基づく障害福祉サービスを受けていること又は過去に受けていたこと)も該当します。

①「身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)別表に掲げる身体上の障害」があることを特定させる情報

  • 医師又は身体障害者更生相談所により、別表に掲げる身体上の障害があることを診断又は判定されたこと(別表上の障害の名称や程度に関する情報を含む。)
  • 都道府県知事、指定都市の長又は中核市の長から身体障害者手帳の交付を受け、これを所持していること又は過去に所持していたこと(別表上の障害の名称や程度に関する情報を含む。)
  • 本人の外見上明らかに別表に掲げる身体上の障害があること

②「知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)にいう知的障害」があることを特定させる情報

  • 医師、児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、障害者職業センターにより、知的障害があると診断又は判定されたこと(障害の程度に関する情報を含む。)
  • 都道府県知事又は指定都市の長から療育手帳の交付を受け、これを所持していること又は過去に所持していたこと(障害の程度に関する情報を含む。)

③「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)にいう精神障害(発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第1項に規定する発達障害を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害を除く。)」があることを特定させる情報

  • 医師又は精神保健福祉センターにより精神障害や発達障害があると診断又は判定されたこと(障害の程度に関する情報を含む。)
  • 都道府県知事又は指定都市の長から精神障害者保健福祉手帳の交付を受け、これを所持していること又は過去に所持していたこと(障害の程度に関する情報を含む。)

④「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第4条第1項の政令で定めるものによる障害の程度が同項の厚生労働大臣が定める程度であるもの」があることを特定させる情報

  • 医師により、厚生労働大臣が定める特殊の疾病による障害により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受けていると診断されたこと(疾病の名称や程度に関する情報を含む。)

⑻ 本人に対して医師等により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査(健康診断等)の結果(政令第2条第2号関係)

 疾病の予防や早期発見を目的として行われた健康診査、健康診断、特定健康診査、健康測定、ストレスチェック、遺伝子検査(診療の過程で行われたものを除く。)等、受診者本人の健康状態が判明する検査の結果が該当します。なお、身長、体重、血圧、脈拍、体温等の個人の健康に関する情報を、健康診断、診療等の事業及びそれに関する業務とは関係ない方法により知り得た場合は該当しません。

 なお、遺伝子検査により判明する情報の中には、差別、偏見につながり得るもの(例:将来発症し得る可能性のある病気、治療薬の選択に関する情報等)が含まれ得ますが、当該情報は、「本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査の結果」(政令第2条第2号関係)又は「健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと」(政令第2条第3号関係)に該当し得るとされています。

⑼ 健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと(政令第2条第3号関係)

 健康診断等の結果、特に健康の保持に努める必要がある者に対し、医師又は保健師が行う保健指導等の内容が該当します。なお、保健指導等を受けたという事実や病院等を受診したという事実、調剤録、薬剤服用歴、お薬手帳に記載された情報等も該当します。

⑽ 本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと(政令第2条第4号関係)

 本人を被疑者又は被告人とする刑事事件に関する手続が行われたという事実が該当します。なお、他人を被疑者とする犯罪捜査のために取調べを受けた事実や、証人として尋問を受けた事実に関する情報は、本人を被疑者又は被告人としていないことから、これには該当しません。

⑾ 本人を少年法第3条1項に規定する少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと(政令第2条第5号関係)

 本人を非行少年又はその疑いのある者として、保護処分等の少年の保護事件に関する手続が行われたという事実が該当します。

要配慮個人情報の取り扱い

 要配慮個人情報は、個々人のプライバシーに大きく関連するため、個人情報保護法20条2項各号で定める場合を除き、本人の同意無しで取得することは禁止されています。

個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。

一 法令に基づく場合

二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

五 当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該要配慮個人情報を学術研究目的で取り扱う必要があるとき(当該要配慮個人情報を取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。

六 学術研究機関等から当該要配慮個人情報を取得する場合であって、当該要配慮個人情報を学術研究目的で取得する必要があるとき(当該要配慮個人情報を取得する目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)(当該個人情報取扱事業者と当該学術研究機関等が共同して学術研究を行う場合に限る。)。

七 当該要配慮個人情報が、本人、国の機関、地方公共団体、学術研究機関等、第五十七条第一項各号に掲げる者その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合

八 その他前各号に掲げる場合に準ずるものとして政令で定める場合

 8号でいうところの「政令で定める場合」とは、個人情報保護法施行令9条に記載されています。

法第20条第2項第8号の政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

一 本人を目視し、又は撮影することにより、その外形上明らかな要配慮個人情報を取得する場合

二 法第二十七条第五項各号(法第四十一条第六項の規定により読み替えて適用する場合及び法第四十二条第二項において読み替えて準用する場合を含む。)に掲げる場合において、個人データである要配慮個人情報の提供を受けるとき。

オプトアウトによる第三者提供について

 あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することがオプトアウトの特例(個人情報保護法27条2項)といいますが、この場合であっても要配慮個人情報については対象となる個人データから除外されています。(個人情報保護法27条2項ただし書き)

本人から個人情報取扱事業者に対する請求

 個人情報保護法20条2項、27条1項又は2項に違反している個人情報取扱事業者に対し、本人はその要配慮個人情報を含む保有個人データの利用停止、消去、または提供停止を請求することができます。(個人情報保護法35条1項、3項)

小西法律事務所

法律相談申込