コラム

2023/05/01

懲戒解雇

 会社の秩序を乱す行為を行う従業員がいる場合、「懲戒解雇」という言葉が浮かぶ方も多くいらっしゃると思われます。

 本コラムでは、懲戒解雇の根拠や、要件について解説いたします。

懲戒解雇とは

 懲戒解雇とは、労働者が企業秩序を乱す行為を行ったときに使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。

 会社が行う懲戒処分には、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがありますが、この中で懲戒解雇はもっとも重い処分となります。

懲戒解雇の根拠

 懲戒解雇を含む懲戒処分については、明確な法令上の根拠はありませんが、労働契約法15条は、会社が懲戒処分できることを前提とし、次のとおり定めています。

労働契約法15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法15条

 また、最高裁判所も、次のとおり、企業は、企業秩序を定立し、その企業秩序を維持するために懲戒処分を行うことができるものと解しています。

最高裁判所昭和54年10月30日判決

事案の概要

 労働組合の組合員が組合活動に際し詰所備付けのロッカーに要求事項等を記入したビラを貼付した行為に対し、会社がビラを剥がすことを命じたところ、組合員らがその命令に従わなかったため、組合員らを戒告処分とした事案です。

裁判所の判断

 裁判所は、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当であると判断しました。

懲戒解雇の有効性(要件)

 懲戒解雇は普通解雇と異なり、制裁として行われる措置になるため、普通解雇以上に厳しい要件が要求されます。

就業規則への記載

 懲戒処分を行うためには、就業規則において

  • 懲戒の事由:どのような場合に懲戒処分の対象となるのか
  • 種別:懲戒処分の種類

を具体的に明示しておかなければなりません。また、就業規則の適用を受ける事業場の労働者に、就業規則を周知させる必要があります。

 懲戒解雇の事由として定められる事項は多岐にわたりますが、代表的な事由としては次のようなものがあります。

  • 会社での犯罪行為やハラスメント行為
  • 業務命令違反、服務規律違反
  • 無断欠勤などの職務怠慢
  • 経歴の詐称

合理的理由及び社会通念上の相当性

 問題となっている労働者の行為が、就業規則に定められている懲戒解雇の事由に該当する必要があります。また、懲戒解雇という処分が社会通念上相当といえるかどうかも問題となります。

手続

 懲戒処分に先立ち、労働者に弁明の機会を与えることが必要となります。なお、後のトラブルを防ぐためにも、弁明の機会を与えたことを何らかの形で証拠として残しておいた方が良いでしょう。

過去の裁判例

東京地方裁判所令和元年6月26日判決

事件の概要

 パチンコ店を経営する会社Yとの間で期間の定めのない労働契約を締結していた従業員Xが、複数の部下や店舗スタッフに対するセクハラ・パワハラ行為、不倫等を理由に懲戒解雇されたため、解雇の有効性を争った事案です。

裁判所の判断

 裁判所は、Yが懲戒解雇事由として主張する事由はいずれも、そもそも、そのような事実が認められないか、一定の事実が認められるとしても、懲戒解雇事由に当たるとまではいえないものであり、また、懲戒解雇に至る手続をみても、Xによる反論の機会が実質的に保証されていたのか、Yにおいて、Xによる反論等を踏まえ、慎重な検討、判断を経て懲戒解雇処分を行うに至ったのか疑問があるとして、YのXに対する懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるというべきであり、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となると判断しました。

大阪地方裁判所令和元年10月15日判決

事件の概要

 資産運用コンサルティング等を目的とする合同会社であったYと雇用契約を締結していた従業員Xが、賃金が支払われなかったため、Yに対して賃金請求書を送付したところ、Yから懲戒解雇された事案です。

裁判所の判断

 裁判所は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁、最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決・裁判集民事211号1頁参照)ところ、Yが、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をした当時、Yに就業規則が存在しなかったことについては当事者間に争いがないから、YのXに対する懲戒解雇の意思表示は、いずれも懲戒権の根拠を欠き、無効というべきであると判断しました。

大阪地方裁判所令和2年5月28日判決

事件の概要

 乳製品乳酸菌飲料の販売等を目的とする会社Yの従業員Xが、Yの管理する自動販売機から売上金を回収する際に自動販売機内の売上金を着服(窃取)していたことを理由に懲戒解雇された事案です。

裁判所の判断

 裁判所は、Xが行った行為が売上金の着服(窃取)であること、1年以上にわたり繰り返し行われていたこと、その着服金額が100万円を超えること、その被害弁償も行われていないことを考慮すれば、YのXに対する懲戒解雇には合理的な理由があり、社会的相当性も認められるため有効であると判断しました。

東京地方裁判所令和3年2月17日判決

事件の概要

 貨物自動車運送事業等を業とする株式会社Yに雇用されていた従業員Xが、協力会社乗務員に対する暴言を理由に譴責処分を受けた後も言動を改めることなく、配車担当者を睨みつけながら怒鳴るなどの言動を繰り返し、また、乗務員への嫌がらせを行って業務遂行に支障を生じさせるなどしたため、配転命令を受けたところ、正当な理由なく欠勤し続けたため、Yから懲戒解雇された事案です。

裁判所の判断

 裁判所は、本件配転命令は、業務上の必要性があり、また、不当な動機・目的をもってなされたものであるとはいえず、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとも認められないから、権利の濫用には当たらず、有効であると判断しました。

 そのうえで、本件配転命令が有効であると解されることからすれば、Xによる欠勤は、無断欠勤に当たると認められ、Xによる無断欠勤は、就業規則に違反するものであり、懲戒解雇事由に該当すると認められる。Xのこれまでの勤務状況等にも鑑みれば、本件懲戒解雇は客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるといえ、権利の濫用には当たらず、有効であると判断しました。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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