清酒の製品品質表示基準
酒類の表示には、酒税の保全を目的として酒類の品目等の表示義務の観点から表示されているもの(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(以下「酒類業組合法」といいます。)(同法86条の5、酒類業組合令8条の3)、酒類の取引の円滑な運行及び消費者の利益に資するために財務大臣が定めた表示基準の観点から表示されているもの(酒類業組合法86条の6、酒類業組合令8条の4)があります。
このコラムでは、清酒の製品品質表示基準のうち特定名称以外の表示について解説いたします。
目 次 [close]
必要記載事項
清酒には、原則として8ポイントの活字以上の大きさの日本文字で、以下の事項を表示することが必要です。
原材料名
なお、特定名称を表示する清酒については、原材料名の表示の近接する場所に精米歩合を併せて表示します。
例えば、本醸造酒であれば次のように記載します。
原材料名 米、米こうじ、醸造アルコール
精米歩合 67%
なお、ぶどう糖、でん粉質物を分解した糖類を「糖類」、有機酸である乳酸、こはく酸等を「酸味料」、アミノ酸塩であるグルタミン酸ナトリウムを「グルタミン酸Na」又は「調味料(アミノ酸)」と表示することも可能です。また、発酵を助成促進し、又は製造上の不測の危険を防止する等もっぱら製造の健全を期する目的で、仕込水又は製造工程中に加える必要最低限の有機酸は、原材料に該当しないものとすることが可能です。
精米歩合の表示については、「精米歩合」の文字の後に続けて使用した白米の精米歩合を1%未満の端数を切り捨てた数値(精米歩合が1%未満のものにあっては、「1%未満」の文字)により表示するものとし、精米歩合の異なる複数の白米を使用した場合には、精米歩合の数値の一番大きいものを表示します。この場合において、使用した白米の区分(酒母米、こうじ米、掛米等の区分をいう。)ごとに精米歩合を表示する場合には、その区分ごとに、精米歩合の数値の一番大きいものを表示します。
(表示例)
①精米歩合65%のこうじ米と精米歩合70%の掛米を原料に使用した特定名称の清酒の場合
「精米歩合 70%」又は「精米歩合 こうじ米65% 掛米70%」
②精米歩合65%のこうじ米と精米歩合70%の掛米を原料に使用した特定名称の清酒と精米歩合63%のこうじ米と精米歩合68%の掛米を原料に使用した特定名称の清酒を混和した場合
「精米歩合 70%」又は「精米歩合 こうじ米65% 掛米70%」
保存又は飲用上の注意事項
「保存又は飲用上の注意事項」の表示とは、「要冷蔵」、「冷蔵庫に保管してください。」、「冷やしてお早めにお飲みください。」等の消費者及び流通業者の注意を喚起するための表示をいいます。
生酒のように製成後一切加熱処理をしないで出荷する清酒には、保存又は飲用上の注意事項を記載します。
(参考)
生酒、生貯蔵酒以外の清酒は、通常、製成後、貯蔵する前と出荷する前の2回加熱処理をしています。
原産国名
輸入品の場合に記載します。なお、原産国名は「原産国名」又は「原産国」の文字の後に続けて表示しなければなりません。
外国産清酒を使用したものの表示
使用割合とは、国内産清酒と外国産清酒をアルコール分100%換算した容量比(パーセント未満第1位四捨五入)をいいます。
なお、使用割合については、10%の幅をもって記載してもよいことになっています。
その他、必ず表示するよう清酒製造者に表示義務が課されているもの
- 製造者の氏名又は名称
- 製造場の所在地(記号で表示してもよいことになっています。)
- 内容量
- 清酒(原料の米に国内産米のみを使い、かつ、日本国内で製造された清酒に限り「日本酒」と表示してもよいことになっています。)
- アルコール分
任意記載事項
次に掲げる事項は、それぞれの要件に該当する場合に表示することができます。
原料米の品種名
表示しようとする原料米の使用割合が50%を超えている場合に、使用割合と併せて表示することができます。
【表示例】 雄町100%
なお、選粒又は精白等をするものについては、選粒又は精白等をした後の重量によって原料米の使用割合を計算します。原料米の使用割合の表示は、1%単位又は5%刻み(いずれもその端数は切り捨てるものとする。)により表示しますが、5%刻みにより表示するときは、その表示に係る使用割合が50%を超える場合に限ります。
清酒の産地名
その清酒の全部がその産地で醸造されたものである場合に表示できます。したがって、産地が異なるものをブレンドした清酒には産地名を表示できません。また、清酒のアルコール分を調整するための加水行為を当該産地以外で行った場合も、「当該産地で醸造(加水調整をする行為を含む。)されたもの」に含まれないため注意が必要となります。
なお、産地名には、県、市、町、村等の行政区画上の名称のほか、社会通念上、特定の地域を指す名称(美作などの旧国名)として一般的に熟知されている名称でも表示することができます。
貯蔵年数
1年以上貯蔵した清酒に、1年未満の端数を切り捨てた年数を表示できます。なお、貯蔵容器には、貯蔵タンクのほか、瓶等の販売用容器も含みます。
原酒
製成後、水を加えてアルコール分などを調整しない清酒に表示できます。なお、仕込みごとに若干異なるアルコール分を調整するため、アルコール分1%未満の範囲内で加水調整することは、差し支えないことになっています。
生酒
製成後、一切加熱処理をしない清酒に表示できます。
生貯蔵酒
製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、出荷の際に加熱処理した清酒に表示できます。表示の際には、「生酒」と誤認されないよう注意が必要です。
生一本
ひとつの製造場だけで醸造した純米酒に表示できます。2以上の製造場を有する製造者がそれぞれの製造場で醸造した純米酒を混和したもの、又は、他の製造者が製造した純米酒を混和したものには「生一本」の表示はできません。
樽酒
木製の樽で貯蔵し、木香のついた清酒に表示できます。
なお、販売する時点で、木製の容器に収容されているかは問いません。
「極上」、「優良」、「高級」等品質が優れている印象を与える用語
自社に同一の種別又は銘柄の清酒が複数ある場合に、品質が優れているものに表示できます(使用原材料等から客観的に説明できる場合に限ります)。「同一の種別の清酒」とは、特定名称の清酒の区分が同一であるもの及び特定名称以外の清酒でその使用原材料又は製造方法が同一であるものをいいます。
なお、これらの用語は、自社の清酒のランク付けとして使用できるもので、他社の清酒と比較するために使用することはできません。
製造時期の表示
清酒を販売する目的をもって容器に充塡し密封した時期を、製造時期であることを示す文字の後に表示します。冷蔵等適切な貯蔵をした上で販売するものについては、その貯蔵を終了し販売する目的をもって製品化した日を製造時期として取り扱います。
なお、保税地域から引き取る清酒で製造時期が不明なものにあっては、製造時期に代えて輸入年月を輸入年月であることを示す文字の後に表示します。「製造時期が不明なもの」とは、当該清酒が製造された国において、製造時期の表示が義務付けられておらず、製造者による自主的な表示も行われていない場合をいいます。
表示禁止事項
以下に掲げる事項は、清酒の容器又は包装に表示してはいけません。
- 清酒の製法、品質等が業界において「最高」、「第一」、「代表」等最上級を意味する用語
- 品評会等で受賞したものであるかのように誤認させる用語及び官公庁が推奨しているかのように誤認させる用語
- 特定名称酒以外の清酒について特定名称に類似する用語
ただし、特定名称に類似する用語の表示の近接する場所に、原則として8ポイントの活字以上の大きさで、特定名称の清酒に該当しないことが明確に分かる説明表示がされている場合には、表示することとして差し支えありません。なお、この説明表示は、消費者の商品選択に資するために設けられたものですので、8ポイントの活字以上の大きさで表示してあればそれでよいということではなく、特定名称に類似する用語の表示とバランスのとれた大きさの文字とするなど、消費者が特定名称の清酒に該当しないと明確に分かる大きさの文字とする必要があります。例えば、「米だけの酒」との表示に近接する場所に、「純米酒ではありません。」と表示することが考えられます。
また、「品評会等で受賞したものであるかのように誤認させる用語」及び「官公庁が推奨しているかのように誤認させる用語」とは、以下に掲げるものをいいます。
- その事実がないにもかかわらず、あたかもその事実があるかのように見せかけた賞
- 社会的な地位、責任のないものの授与した賞
- 自己の付けた賞
- 自己の取り扱う他の商品又は自己の行う他の事業で受けた賞であるにもかかわらず、自己が製造した清酒についても、その賞を受けたものであるかのように誤認されるおそれのある表示
- 官公庁御用達又はこれらに類する表示
違反した場合
財務大臣は、酒類の表示の基準を遵守しない酒類製造業者又は酒類販売業者があるときは、その者に対し、その基準を遵守すべき旨の指示をすることができます(酒類業組合法86条の6第3項)。また、財務大臣は、この指示に従わない酒類製造業者又は酒類販売業者があるときは、その旨を公表することができます(同条第4項)。
さらに、財務大臣は、指示を受けたにもかかわらず指示に従わなかった者に、その遵守しなかった表示の基準が特に表示の適正化を図る必要があるものとして財務大臣が定めるもの(重要基準)に該当するときは、個別に遵守すべきことを命令することができます。
「清酒の製法品質表示基準」(平成元年11月国税庁告示第8号)のうち、重要基準とされているのは、①特定名称(吟醸酒など)を容器等に表示する場合の基準、②原材料名など容器等に表示しなければならない事項の基準、③最上級を意味する用語など容器等に表示してはならない禁止事項の基準の3つとなります。
この命令に違反した者は、50万円以下の罰金に処せられます(同法98条2号)。
まとめ
製品に財務大臣が定めた表示基準に違反した表示をした場合には、指示、公表、命令という段階を経て、最終的には罰則が科されます。
表示について疑問点が生じた場合や、当局との間で見解の相違が生じた場合には、弁護士に相談することをおすすめいたします。
弁護士 石堂 一仁
- 所属
- 大阪弁護士会
大阪弁護士会 財務委員会 (平成29年度~令和5年度副委員長)
大阪弁護士会 司法委員会(23条小委員会)
近畿弁護士会連合会 税務委員会 (平成31年度~令和5年度副委員長、令和6年度~委員長)
租税訴訟学会
この弁護士について詳しく見る