コラム

2023/08/28

試用期間とは

 新しい人材を採用するにあたって、入社後の一定期間を試用期間とし、労働者の能力やスキル、勤務態度等を確認することによって本採用するかどうかの判断を下す企業が多くあります。

 本コラムでは、試用期間の法的性質や、試用期間の設定と延長、解雇について解説いたします。

試用期間の法的性質

 試用期間の法的性質について、三菱樹脂事件判決(最高裁判所昭和48年12月12日判決民集27巻11号1536頁)は、事案によることを前提としながらも、「本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない」として、試用契約の性質を解約権留保付労働契約と判断しました。すなわち、試用期間中の従業員について本採用に適さない理由がある場合には、企業が解約権を行使し、本採用を拒否できる可能性がある契約となります。

 また、神戸弘陵学園事件判決(最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決民集44巻4号668頁)は、雇用契約において、期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときには、試用期間との明示がされていなくても、特段の事情が認められる場合を除き、この期間は、契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当であると判断しました。

 なお、紹介予定派遣により雇い入れた労働者については、試用期間を設ける必要性が低いと考えられるため、厚生労働省は試用期間を設けないよう指導しています(労働者派遣事業関係業務取扱要領第7 18(7))。

留保された解約権の行使の可否

 試用期間が解約権留保付き労働契約である場合、留保された解約権の行使は、通常の雇用契約における解雇よりも広い範囲で認められますが、具体的には、「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」に有効となると考えられています(三菱樹脂本採用拒否事件・最高裁判所昭和48年12月12日判決民集27巻11号1536頁)。

 通常の解雇の場合、事前に注意・指導による改善の機会の付与や配転の検討等の解雇回避努力が求められます。この点、試用期間中においては「(試用期間は)時間的制約があることも鑑みれば、比較的短期間に複数回の指導を繰り返すことを求めることは、使用者にとって必ずしも現実的とは言い難い」(ヤマダコーポレーション事件・東京地判令和元年9月18日労経速2405号3頁)とし、通常の解雇に比べて緩やかに解されていると思われます。

試用期間満了前の解雇

 試用期間の満了を待たずに行う解雇については、「より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである」とした裁判例があります(ニュース証券事件・東京高裁平成21年9月15日判決労判991号153頁)。このように、従業員としての適性の判断は、原則として、設定された試用期間の全期間における労働者の業務能力又は業務遂行の状態を考慮した上でなされるべきものであると考えられます。

解雇予告・解雇予告手当の必要性

 通常、使用者が労働者を解雇する場合、30日以上前に解雇する旨を予告するか、30日分の平均賃金により計算した解雇予告手当を支給する必要があります(労基法20条)。もっとも、試用期間中の労働者については、この規定が適用されず、解雇する時期によって解雇予告手当の要否が異なります。

雇用開始から14日以内に解雇する場合

 解雇予告や解雇予告手当は不要となります(労基法21条本文、同条4号)。

雇用開始から14日を過ぎて解雇する場合

 解雇予告や解雇予告手当が必要となります(労基法21条但書、同条4号)。

試用期間の設定と延長の可否

 試用期間の長さについて、労働基準法など法律上の制限はありませんが、一般的には3か月から6か月程度に設定されていることが多いと思われます。

長期間にわたる試用期間は、留保された解約権をいつ行使されるかわからないため、労働者の地位が不安定になります。よって、あまりに長い期間とすることは好ましくないとされています(厚生労働省 モデル就業規則 第2章6条)。

 試用期間の長さについてどの程度まで認められるかについて、大阪読売新聞試用者解雇事件(大阪高裁昭和45年7月10日判決労民21巻4号1149頁)では、1年の試用期間が肯定されましたが、ブラザー工業事件(名古屋地裁昭和59年3月23日判決)では、6か月から1年ないし1年3か月の見習社員期間の終了後、更に6か月から1年の試用期間が設けられていたところ、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めであるとして、公序良俗に反し無効であると判断しました。

 試用期間中に適性を見極めることが難しい場合、試用期間の延長を検討する場合もあります。この点、「見習期間(試用期間)の延長は、労働者を不安定な地位に置く結果となるため、その延長が認められるためには、①就業規則や労働契約において、延長の可能性及び期間が明定されていること、並びに②延長の理由が、〈ア〉職務能力や適格性について調査を尽くしたものの、当初予定した期間では採否の判断が困難であることから、さらに相当な期間、必要な調査を尽くして職務能力や適格性を見出すためであるか、〈イ〉職務能力や適格性に問題があるものの、なお労働者に相当な期間を付与するためであることを要すると解するのが相当である。」(大阪地裁平成28年11月18日判決)と考えられています。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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