共有物の処分・変更・管理・保存
近年、不動産の利用価値に対する関心の高まりや、相続に伴う親族間の意見の食い違いによって、共有不動産を巡る不動産のトラブルが増加しています。
また、所有者不明土地の解消に向けて、令和3年4月に民法が改正され、共有の法制度が大きく見直されました。
本コラムでは、法改正の内容を踏まえつつ、共有物の処分・変更・管理・保存について解説いたします。
共有とは
共有とは、数人が共同してひとつのものの所有権を有している状態をいいます。各共有者はものの全部について所有権を有しており、各共有者の有するものに対する所有権を共有持分といいます。
共有者の有する権利は単独で所有権を有する場合の内容と違いはなく、共有者の共有持分はそれぞれの共有者が自由に処分することができます。
共有物の処分について
所有者は自由にその所有物を処分する権利を有します(民法206条)。しかし、共有物には所有者が複数存在し、それぞれの共有者が等しく物の全部について所有権を有するので、共有物全体の処分に関しては、共有者全員の同意がなければ行うことができません。
共有物の変更が共有者全員の同意を必要とすることは民法251条の定めるところであり、共有物についての処分をもまた同様に解すべきものである。
最高裁昭和42年2月23日判決
なお、処分とは、物を譲渡したり担保設定したりするだけではなく、物理的に破壊することも含みます。
共有物の変更について
民法では共有物の変更について、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」と定められています(民法251条)。変更行為とは、共有物の主要な性質、用途等を変更する行為をいい、共有建物の増改築や、共有地である畑を宅地に造成する行為、共有不動産の全体に対する抵当権の設定などがあたります。
改正民法では、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものを変更から除外し、全員の同意がなくても行うことができるものとしました(民法251条1項括弧書)。また、他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときには、その所在を知ることができない共有者以外の共有者の同意があれば共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができるものとしました(民法251条2項)。
共有物の管理について
民法では共有物の管理について「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定められています(民法252条)。共有物の管理とは共有物を利用・改良する行為で、共有建物の改装、共有宅地の整地などがあたります。
ところで、共有者には自由にその所有物を使用する権利があり(民法206条)、共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるとされています(民法249条)。使用は管理の一形態であり、どのようにして使用するのかは、管理の決定方法に従って、持分の過半数によらなければなりません。
賃貸借契約
賃貸借契約の締結は、一般的には利用の一つの形態であって、管理行為として共有持分の過半数で決定することができますが、賃貸借契約が管理行為の範疇を超えて処分行為となる場合には全員の同意が必要となります。
この基準として、改正民法252条4項は、
「共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月」
と規定しています。
もっとも、建物の賃貸借については、普通借家契約の場合、たとえ契約期間が3年以内とされていても合意更新又は法定更新によって長期間存続することが見込まれるため、3年を超えない期間の賃借権の設定とは認められず、変更に該当すると考えられていますので注意が必要です。
改正民法では、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないものとしました(民法252条3項)。また、一部共有者の存在・所在が不明のときなどにおいては、不明共有者以外の共有者の持ち分価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定することができる旨の裁判をすることができるものとしました(民法252条2項)
共有物の保存行為について
共有者は単独で共有物の保存行為を行うことができます。保存行為とは、共有物の現状を維持するための行為をいい、共有物の修繕行為、共有物を不法占有している者対する明渡請求、無権利者の登記がなされている場合の抹消登記請求などがあります。
その他、不動産の共同相続人の中の一人が、単独で全員のために相続登記をすることも保存行為に当たります。相続登記は単独申請が可能であるところ、共同相続人の登記をすることによって、遺産分割完了までの間に一部の共同相続人によって第三者に無断で移転登記がなされることを防ぐことができるので、共同相続人全員の利益となるため保存行為とされます。また、一部の共有者が他の共有者の同意を得ずに目的物に変更を加えようとする場合には、単独でこれを差止め、また既に行った変更行為については、原状回復を求めることができます。
弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
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