コラム

2023/06/26

民事調停による交通事故解決

 民事調停手続は、調停主任である裁判官と調停委員2名以上で構成される調停委員会によって非公開で行われます。調停とは、調停委員が申立人と相手方の双方から言い分や意見を聴取して、双方から提出された証拠資料等を検討しながら中立、公正な立場で双方に譲歩を求め、円満な合意が成立するように斡旋するというものです。

 申立費用がかかるものの(訴訟提起に比べれば半額以下)、合意が成立するとその内容が調停調書に記載され、その記載は裁判上の和解と同一の効力(確定判決と同一の効力)を有することになるので(民事訴訟法267条、民事調停法16条)、被害者にとっては容易に強制執行ができる点で有効な紛争解決手続といえます。

民事調停の申立

 調停の申立ては、申立書を裁判所に提出して行わなければなりません(民事調停法4条の2)。申立書の書式については裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。また、申立てにあたって収入印紙(請求額によって印紙代が代わります。)を申立書に貼付します。

 提出先は、相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所を管轄する簡易裁判所、当事者が合意した地方裁判所もしくは簡易裁判所です(民事調停法3条)。交通調停については、損害賠償を請求する者の住所または居所の所在地を管轄する簡易裁判所も提出先となります(民事調停法33条の2)。

民事調停の手続き

当事者の出頭

 申立てがあると、調停委員会から当事者に対して期日が指定され呼出状によって通知されます。指定された調停期日には、原則、調停委員会から呼び出しを受けた当事者本人が出頭しなければならないとされています。正当な事由がなく調停期日に出頭しないときは、5万円以下の過料の制裁があります(民事調停規則8条1項、民事調停法34条)。

調停委員会

 調停は、調停主任裁判官と調停委員2名以上から構成される調停委員会で行われます。調停期日の手続は、2名の調停委員により進行され、主任裁判官は、調停調書が作成される調停成立時または不成立時に立会うのが一般的となっています。裁判官は調停主任として、期日ごとに調停委員と打合せを行い、円滑な調停手続の進行を図るという役割となっています。

 なお、交通事故調停事件の場合、調停委員のうち1名は弁護士が担当することが多いようです。

調停の期日

 調停期日の手続は、裁判とは異なり非公開で行われます。申立人、相手方の控え室は別室となることが一般的です。また、当事者と調停委員との面談は、それぞれ別に調停委員のいる部屋で行われます。

 第1回目の期日は、調停委員が、当事者双方から、個別に、言い分やその背景事情などを聴き取ります。2回目以降の期日では、争点を整理しながら、それぞれの言い分の根拠となる証拠資料の提出を求める等して、調停委員が法律的中立、公正な立場から双方が納得できそうな合意点を探し、合意が成立するよう意見を述べるのが一般的な流れです。

調停の成立・不成立

調停の成立

 双方当事者が、調停委員の説得によって紛争解決の合意に至ると、その合意内容を調停委員会が調書に記載することによって調停が成立します。調停が成立すると、調書の記載は、裁判上の和解と同一の効力を有すると定められているため(民事調停法16条)、民事訴訟法267条により、その記載は確定判決と同一の効力を有することになります。

 したがって、調書に記載された合意内容、つまり賠償金の支払いが合意どおりになされなかった場合には、調停調書があれば支払請求訴訟をしなくても強制執行をすることができます(民事執行法22条7号)。なお、調停調書に記載された請求権の消滅時効の期間は10年間となります(民法169条1項)。

調停の不成立

 調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込みがない場合、又は成立した合意が相当でないと認める場合には、裁判所が調停に代わる決定(民事調停法17条)をしない限り、調停が成立しないもの(調停不成立)として、調停を終了します(民事調停法14条)。

 調停が不成立となった場合、それでも紛争解決を求める当事者は、裁判所に訴えを提起することになります。この場合、不成立の時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法147条1項3号)。また、調停不成立の通知を受けた日から2週間以内に訴訟を提起した場合は、調停申立ての段階で納付した手数料額は、訴え提起の段階では納付済みとみなされ、訴え提起の際に納付すべき印紙額から控除することができます(民事訴訟費用に関する法律5条1項)。

 調停が成立する見込みがない場合であっても、裁判所は、相当と認めたときは、調停委員の意見を聞き、当事者双方の衡平に考慮し、一切の事情を鑑みて、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、金銭の支払を命じる等事件の解決に必要な決定をすることができます(民事調停法17条)。この裁判所の決定は、当事者または利害関係人が、決定を受けた日から2週間以内に異議の申立てをしなかった場合に限り、裁判上の和解と同一の効力を有することになります(民事調停法18条)。この調停に代わる決定は、電話やファックスのやりとりで当事者間の合意が確認できているものの、当事者が調停期日に出席できない場合などに行わることが多いです。もっとも、決定の内容について不満があれば裁判所に2週間以内に異議を申立てることによって、決定は失効します。

調停の時効中断

 交通事故による損害賠償請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権として、事故発生と同時に履行期が到来し遅滞に陥るとされます。そうすると、原則として、事故時から消滅時効が進行し、物損の場合は3年、人損の場合は5年を経過した時点で損害賠償請求権は時効により消滅します(民法724条、724条の2)。

 また、自賠責保険の被害者請求権(自動車損害賠償保障法16条1項)は、事故時から3年を経過したときは時効によって消滅します(自動車損害賠償保障法19条、23条の3)。

 交通事故による怪我の治療が長引いているのに治療費の支払が打ち切られ、時効期間が経過してしまいそうな場合や後遺障害が認められない可能性のある場合は、念のため時効の完成猶予の手続をとる必要があります。

 この場合、上述のとおり、調停が不成立等により終了したときは、6カ月を経過するまでの間に訴えを提起しなければなりません(民法147条1項3号)。

小西法律事務所

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