コラム

2023/06/19

嫡出否認の訴えについて

 子どもが、自分の子どもではないと気がついた場合に、親子関係を否定するための法的手続きには「嫡出否認」と「親子関係不存在確認」の2つの方法があります。

 本コラムでは、そのうちのひとつである「嫡出否認の訴え」について解説いたします。

 なお、令和4年12月10日、民法の嫡出推定制度の見直し等を内容とする民法等の一部を改正する法律が成立し、令和6年4月1日から施行されますが、本コラムでは令和5年6月現在の法律に基づき執筆をしております。嫡出推定制度の見直しのポイントは以下となります。

  • 婚姻の解消等の日から300日以内に子が生まれた場合であっても、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定
  • 女性の再婚禁止期間を廃止
  • これまでは夫のみに認められていた嫡出否認権を、子及び母にも認める
  • 嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長

嫡出否認の訴えとは

 嫡出否認の訴えとは、嫡出推定される嫡出子との法律上の父子関係を、否認するための裁判手続きをいいます。

 民法上の分類として、子は、法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子(嫡出子)と、そうでない子(非嫡出子)に、分類されています。嫡出子は、さらに、推定される嫡出子と推定されない嫡出子に分けられます。推定される嫡出子とは、①妻が婚姻中に妊娠した子、または、②婚姻成立の日から200日経過後または婚姻の解消又は取り消しの日から300日以内に生まれた子をいいます(民法772条)。

  嫡出否認の訴えは、上記の分類の内、推定される嫡出子についての親子関係を争う裁判手続きです。推定される嫡出子との親子関係を争いたい場合、嫡出否認の訴えを行うことになります。

訴えを提起できる者

 嫡出否認の訴えを提起できる者は夫のみとなっています。ただし、夫が子の出生後に子が嫡出であることを承認したときは、嫡出否認の訴えを提起することはできなくなります(民法776条)。

 また、夫が子の出生前に死亡したとき又は夫が子の出生を知った時から1年以内に死亡した場合は、その子のために相続権を侵害される者その他夫の三親等内の血族が原告となることができます(人事訴訟法第41条1項)。

訴えを提起できる期間

 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません(民法777条)。

 また、夫が子の出生前に死亡したとき又は夫が子の出生を知った時から1年以内に死亡した場合は、訴えを提起できる者は、夫の死亡の日から一年以内にその訴えを提起しなければなりません(人事訴訟法第41条1項)。

※令和5年6月現在

嫡出否認の訴えの提起

調停前置主義

 嫡出否認の手続は、父子関係の存否という家庭内のプライバシーに関わる問題を扱うため、できる限り非公開の場で行うとともに、話合いによって解決を図ることが望ましいと考えられます。そのため、嫡出否認の訴えは、調停前置主義の適用があります(家事事件手続法257条、同244条、人事訴訟法2条2号)。

 したがって、まずは子又は親権を行う母の住所地を管轄する(当事者で管轄の合意がある場合は、合意した)家庭裁判所に、嫡出否認の調停を申し立てなければなりません。

合意が成立した場合

 嫡出否認の調停において、当事者間に嫡出否認の審判を受けることについて合意が成立し、かつ、当事者双方が嫡出否認の原因について争わないときは、家庭裁判所は必要な事実を調査し、合意を正当と認められるときは、合意に相当する審判を行います(家事277条1項)。審判が確定すると確定判決と同一の効力を生じます(家事281条)。

 なお、子が夫の子でないことを知っていた妻に合意をする義務があるかが問題となった事例(東京高裁平成7年1月30日判決)では、妻には合意をする義務があるわけではないので、妻が、子が夫の子でないことを知っていたとしても、合意をしなかったことが法律上の義務違反となるものではないとしました。

管轄裁判所

 調停不成立の場合や合意に相当する審判による解決ができなかった場合に、夫は嫡出否認の訴えを提起することができます。嫡出否認の訴えは、夫と子のいずれかの住所地を管轄とする家庭裁判所が管轄裁判所となります。

出訴期間

 上述の通り、嫡出否認の訴えは夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません。嫡出否認に出訴期間が設けられているのは、「早期に親子関係を安定させ、子の利益を守る」という趣旨によるものです。 

調停が不成立となった場合

 調停が不成立となった場合、その通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起すれば、調停申立て時に訴えの提起があったとみなされます(家事事件手続法272条3項)。

訴訟要件

 裁判所が原告の請求の当否について判決を下すためには、前提として以下の訴訟要件が充足されていなければなりません。訴訟要件が充足されていなければ、請求は不適法として却下されます。

  1. 嫡出の推定が及ぶ場合であること
  2. 夫が子の出生後に、この嫡出性を承認していないこと
  3. 子が現に出生していること

①嫡出の推定が及ぶ場合であること

 嫡出否認の訴えを提起することができるのは、民法772条によって嫡出の推定が及ぶ場合になります(民法774条)。なお、嫡出の推定が及ばない場合は、親子関係存否の確認の訴え等の手続を検討することになります。

②夫が子の出生後に、子の嫡出性を承認していないこと

 夫は、出生後において、子が嫡出であることを承認したときは、嫡出の否認権を失います(民法776条)。したがって、嫡出の承認をしたときは、以後、嫡出否認の訴えを提起することはできなくなります。また、夫が生前に嫡出の承認をしたときは、夫の死後に法定の近親者が提起する訴えであっても、不適法となると考えられます。

③子が現に出生していること

 嫡出否認の訴えは原則として子を被告とします。そのため、子の出生前は嫡出否認の訴えを提起することができないと考えられます。

請求原因

 嫡出否認の訴えの請求原因事実は、「子が夫の子ではない事実、つまり、子が夫と妻の性的関係によって出生したものではない事実」となります。

判決等の効果

 嫡出否認の訴えに対し請求認容判決が確定すると、子と夫との父子関係の不存在の効果が形成されます。

 そのため、子は、妻の嫡出でない子となります。

 また、当事者の戸籍が訂正されます。

 確定判決には請求容認、請求棄却に関わらず、その効力は当事者のみならず第三者にもおよびます(人事訴訟法24条1項)。

まとめ

 以上が、令和5年6月時点における、嫡出否認の手続となります。親子関係についてお悩みの方は、ご相談いただければと思います。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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