コラム

2023/04/03

被疑者段階において勾留を阻止する方法

はじめに

 被疑者が逮捕されると、検察官が勾留請求するか否かを判断します。

 勾留とは、被疑者を10日間身体拘束する手続です(刑訴法208条1項)。また、さらに10日間の勾留延長がなされる場合もあります(刑訴法208条2項)。

 本コラムでは、実務経験に基づき被疑者段階に勾留を阻止するための方法を記載します。

勾留決定前

 検察官は、簡易裁判所の裁判官又は地方裁判所の裁判官に対して勾留請求を行います(刑訴法204条1項、205条1項、206条)。

 そのため、弁護人は、裁判官が勾留決定の判断を行う前に裁判所に対して意見書を提出することが望ましいです。

 大阪地方裁判所では、令状部と呼ばれる部があり、その部に意見書を提出することになります。

 意見書の提出先ですが、担当検察官に確認をすると、簡易裁判所の裁判官か地方裁判所の裁判官のいずれに勾留請求を行ったのかを教えてもらうことができますので、確認後、意見書の提出先を決定します。

 もっとも、担当検察官に連絡が繋がらない場合も考えられますので、意見書の提出先を「大阪地方裁判所・大阪簡易裁判所 御中」と併記することもあります。

 勾留に関する意見書を作成するまでに時間がかかる場合は、裁判所令状部に事前に連絡して、「本日、勾留請求に関する意見書を提出する予定ですので、被疑者●●に対する判断は、同意見書を確認するまで待ってほしい」旨と伝えておくと、裁判官においても弁護人から意見書が提出されることが予想できます(もっとも、勾留前の意見書の提出は法律上認められている行為ではなく、事実上の行為ですので、裁判官がどの程度勾留に関する判断を待ってくれるかは不明です。いずれにせよ、急ぎで意見書を提出した方が良いでしょう。)。

 なお、裁判所に提出した意見書や資料は検察官の目に触れることになるので留意が必要です。

勾留決定後

⑴ 勾留決定が出た場合

 勾留決定が出された場合、裁判所に対して、勾留状謄本の交付請求を行います。

 その上で、準抗告の申立てを行います。準抗告とは、裁判官が行った決定に対しての不服申立ての手続です。なお、勾留決定を行った裁判官が簡易裁判所の裁判官の場合は管轄地方裁判所が、それ以外の裁判官の場合はその裁判官所属の裁判所が、それぞれ準抗告の申立先となっています(刑事訴訟法429条1項2号)。

 準抗告は、認容率の低い手続だといわれていますが、近年は認容されるケースが増加している印象です。

 準抗告が認められなかった場合、被疑者は勾留されてしまいます。

 その後に取るべき手続きとして、勾留取消請求(刑訴法87条)が考えられます。

 これは、勾留自体は適法だったことを前提として、その後、勾留の理由または勾留の必要がなくなった場合に勾留の取り消しを求める手続です。

 請求書の記載内容は準抗告と同じではなく、勾留後の事情を重点的に記載することになります。例えば、取調べや証拠収集が完了したこと、被害者との示談が成立したこと、被疑者の病状が悪化していること等が考えられます。

⑵ 勾留請求が却下された場合

 弁護人の弁護活動が奏功し、勾留請求が却下された場合、検察官が準抗告を行うことがあります。

 検察官の準抗告が棄却された場合は問題ありませんが、準抗告が認められ、原裁判が取り消され、勾留決定が出されてしまうこともあります。

 この場合、当該決定に対する不服申し立てができるか否かが問題となります。

 この点、抗告裁判所の決定に対しては抗告することができない(刑訴法432条、427条)とされているので、さらに準抗告を行うことはできません。

 しかし、刑訴法433条は、「この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる」と定めているので、最高裁判所に特別抗告を行うことが可能です。

 もっとも、特別抗告の理由は、

  1. 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
  2. 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
  3. 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

と限定されているので、これが認められる可能性は非常に低いです。

勾留延長

 被疑者が勾留されると勾留延長請求がなされる場合が多いです。

 勾留決定前の弁護活動と同じく、裁判所に対して、勾留延長を行わないよう求める意見書を事前に提出しておくことが望ましいです。

 勾留延長が決定された場合は、裁判所に対して、勾留延長の裁判に対する準抗告の申立てを行います。

 この時の申立ての趣旨は、

  • (主位的)
    原裁判を取消し、本件勾留延長請求を却下する
  • (予備的)
    原裁判を取消し、本件被疑者の勾留を5日間延長する

と、予備的な請求を記載しておくことが望ましいです。

この場合、勾留延長は避けられないとしても、延長期間が10日間から5日間に短縮されたり7日間に短縮されたりすることもあるからです。

まとめ

 以上のように、被疑者の勾留を争う場合は、迅速かつ適切な申立てが必要になります。

 私自身、勾留請求の却下や、準抗告による勾留決定の取り消し等、被疑者段階の弁護活動において、被疑者の身体拘束の解放を多く経験しております。

 お困りごとがあれば遠慮なくご相談ください。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

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