コラム

2023/03/20

事業承継 ~新設合併のメリット・デメリット~

 前回のコラム事業承継~吸収合併のメリット・デメリットでは吸収合併について解説をいたしました。本コラムではもう一つの合併方法である、新設合併について解説いたします。

新設合併とは

 新設合併とは、二つ以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいいます(会社法2条28号)。

 新設合併は、主にグループ内における組織再編をするために実施されることが多く、統合によるコスト削減・生産性の向上などを図ることができます。

新設合併と吸収合併の違い

 合併には吸収合併と新設合併の2通りがありますが、実務として選択されるのは吸収合併が多いです。

新設合併と吸収合併の違いについて、以下の内容等が挙げられます。

  1. 合併に参加する会社の法人格
  2. 権利・義務を承継する会社
  3. 免許や許認可の承継

合併に参加する会社の法人格

 新設合併では、合併に参加するすべての会社の法人格が消滅します。他方、吸収合併では、合併に参加する会社のうち、権利や義務を引き継ぐ会社の法人格は残り、他のすべての会社の法人格が消滅します。

権利・義務を承継する会社

 新設合併は、新しく設立された会社において、消滅する会社が持っている権利・義務を引き継ぎます。他方、吸収合併では、存続会社が消滅会社から権利・義務を引き継ぐことになります。新設会社も存続会社も、引き継ぐ権利・義務を選択することはできず、すべての権利・義務が承継される点は共通しています。

免許や許認可の承継

 新設合併の場合、基本的には消滅する会社から免許や許認可をそのまま承継することはできないため、再度免許や許認可を得る必要があります。

 他方、吸収合併では、状況にもよりますが、許認可や免許を引き継ぐことが可能です。

新設合併のメリット

 新設合併のメリットとして、一般的には次の1ないし3などがあげられます。

  1. 相乗効果
  2. 会社規模の拡大
  3. 対等なイメージ

相乗効果

 新設合併では、複数の企業が一つの法人に統合されることによって、業務の効率化やコスト削減などの相乗効果を得られる可能性があります。

会社規模の拡大

 同業種同士の新設合併の場合、業界のシェアを拡大できるメリットがあります。新しいノウハウや設備の獲得、取引先や顧客の拡大、大量仕入れや大量生産によるコスト削減などを期待できます。

 また、他業種同士の新設合併の場合、経営を多角化できます。変化の速い現代の市場において、複数の事業を行うことは経営上のリスクヘッジとなり、メリットといえます。

対等なイメージ

 吸収合併の場合、消滅会社の経営者や従業員が、吸収された立場の弱さを感じてしまいネガティブな感情を持つ可能性があります。

 他方、新設合併の場合、当事者となるすべての会社が消滅するので、平等・対等なイメージを持つことが可能です。

新設合併のデメリット

 新設合併のデメリットとしては、一般的には次の1、2などがあげられます。

  1. 手間
  2. コスト

1.手間

 新設合併においては新たに会社を設立することになるので、吸収合併に比べて多くの手続きが必要です。吸収合併では、多くの場合、存続会社のシステムをある程度そのまま使うことができるのに対し、新設合併では統合後のシステムやルールなどを整備し直さなければならないこともあります。

 前述したように、許認可や免許の取得など、吸収合併に比べて手間と時間のかかる手続きが多い点がデメリットとなります。

2.コスト 

 新設合併の場合、新設会社の設立に関するコストが生じます。会社設立に際しては、定款の認証や登録免許税、資本金の準備をしなければなりません。

 また、登録免許税の計算方法が吸収合併とは異なります。吸収合併の場合、合併によって増加した資本金に対して0.15%の登録免許税が課税される一方、新設合併では、新しく設立した会社における資本金の全体に対して0.15%の登録免許税が課税されます。

新設合併の手続と流れ

 吸収合併にかかる主な手続きと流れは以下となります。

  1. 事前準備
  2. 取締役会の承認
  3. 契約の締結
  4. 事前開示
  5. 債権者保護手続
  6. 株主総会の招集・承認
  7. 反対株主の買取請求手続
  8. 効力発生・登記
  9. 事後開示

事前準備

 後の手続を円滑に行うため、事前に債権者の確認や契約書の内容確認を会社同士で話し合います。

取締役会の承認

 新設合併の実施を承認するために取締役会にて決議を行います。取締役会では、新設合併の契約内容について精査し、条件面等に問題がなければ、新設合併を実施する旨を正式に決定します。

契約の締結

 取締役会の承認を得たあと、新設合併契約を締結することとなります。契約書に記載しなければならない事項の具体例は以下のとおりです(会社法753条をご参照ください。)。

  • 消滅会社の住所および商号
  • 新設会社の目的、商号、本店の所在地、発行可能株式総数
  • 新設会社の設立時における取締役の氏名
  • その他役員等(会計参与、監査役、監査人など)の氏名または名称
  • 消滅する会社の株主等に対して交付する対価に関する事項(数量や数量の算定方法、資本金・準備金の額に関する事項)
  • 消滅会社の株主等に対する株式の割り当てに関する事項
  • 新株予約権または金銭に関する事項(内容および数、算定方法など)

事前開示

 新設合併によって消滅する株式会社では、新設合併契約の内容および法務省令で定められた事項を記載または記録した書面又は電磁的記録を新設会社の設立が成立する日まで本店に備え置く必要があります。書面に関しては、「株主総会開催日の2週間前」あるいは「株主などに向けて通知や公告を実施する日」のいずれか早い方までに用意しなければなりません。(会社法803条)

債権者保護手続

 新設合併する場合、消滅会社の債権者を守るために、債権者保護の手続きを行うよう定められています。

 新設合併を行う際は、官報による公告に加え、会社が認識している全ての債権者に対する個別の催告が必須となります。なお、債権者が異議を述べた場合、弁済あるいは担保の提供を行う必要があります。

株主総会の招集・承認

 新設合併では株主総会による決議が必要となります。

 また、株主総会の決議では特別決議が必要であり、議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ出席した株主における議決権の3分の2以上にあたる賛成を得る必要があります。

反対株主の買取請求手続

 消滅会社の株主で合併に反対する株主は、保有する株式を公正な金額で買い取る旨を請求できます。消滅株式会社は、会社法に則って反対株主からの買取請求に応じる必要があります。(会社法806条)

効力発生・登記

 新設会社の成立日に消滅会社の権利義務を承継し、効力が発生します。(会社法754条)

 効力の発生から2週間以内に消滅会社の解散登記と、新設会社の登記申請を行います。詳しくは法務局HP「合併による株式会社設立登記申請書」および「株式会社合併による解散登記申請書」をご参照ください。

事後開示

 効力発生後、消滅会社から承継した権利義務や、法務省令で定められた新設合併に関する事項を記載した書面もしくは電磁的記録を作成します。(会社法815条)

 作成した書面は、効力発生日から6カ月間本店に備え置かなければならず、新設会社の株主と債権者は、備え置かれた書面の閲覧や交付を請求することができます。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人MACA信託研究会 代表理事
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事
一般社団法人スモールM&A協会 理事

この弁護士について詳しく見る