コラム

2020/11/23

承認(時効の更新)

時効の更新とは

 債権が時効にかかりそうな場合に、時効の成立(完成)を阻止する仕組みとして、改正法により新たに設けられた概念であり、一定の事由(更新事由)が発生した場合に、時効が更新され、その時から新たな時効期間の進行が開始する制度をいいます。

時効の更新事由は3つ

  • 裁判などの法的手続での請求・支払い督促(債権者側から)
    確定判決・確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定された場合には、「新たにその進行を始める」(時効の更新)ことになります(147条2項)
  • 強制執行・担保権の実行・担保権の実行としての競売・財産開示手続(債権者側から)
    強制執行等の事由が終了した際、まだ債権が残っている場合には、「新たにその進行を始める」ことになります(148条2項)。
  • 権利(債務)の承認(債務者側から)
    承認をすると、その時から新たに進行が始まります(152条1項)。

どのような効果があるか

 時効の完成猶予が、時効の完成を先延ばしにする効果しかないのに対し、時効の更新においては、時効期間の進行が阻止され、時効がふりだしにまで戻る(ゼロにリセットされる)効果があります。

 したがって、権利者は、定期的に時効の更新の方法をとることにより、消滅時効を防ぐことができます。

承認とは

 権利の承認とは、時効の利益を受けるべき者(債務者等)が、時効期間の満了までに、権利者(時効によって権利を失う者)に対して、その権利の存在を認める行為をいいます。

 つまり、承認とは、債務者が債権の存在を認めたり(消滅時効の場合)、占有者が本来の所有者の所有権を認めたり(取得時効の場合)することです。

承認に必要な能力および権限

 行為能力・権限は不要(152条2項)

 改正民法152条2項には、「前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。 」と定められています。

 承認は、相手方に権利が存在することを認めるだけ(観念の通知)であり、意思表示とは違うと考えられております。権利を放棄したり義務を負担したりする行為ではないため、その権利を処分する際必要とされる行為能力または権限(代理権)を有することは要されません。

 もっとも、財産の管理行為をする能力または権限があることが必要であるとされております。なぜなら、承認は財産を管理する行為であるからです。

 そのため、管理能力がある被保佐人や被補助人は単独で承認することができますが(大判大正7年10月9日)、管理能力がない未成年者や成年被後見人は単独で承認することができません(もっとも、大判昭和13年2月4日は、未成年者の承認は取り消しうると判断しております。)。

 また、権限の定めのない代理人(103条)は管理権があるため、債務者に代わって承認することができますが、無権代理人は承認することができません。

なぜ、承認が、時効更新事由となるのか? 

 権利の承認は、権利の行使ではありませんが、それによって権利の存在が明確になることから、時効の更新事由とされ、承認がなされた時から新たに時効が進行するものとされています(152条1項)。
①権利の承認がなされると当事者間で債権の存在が明らかになること、②債務者から承認がなされると、権利者としては通常、その表示を信頼して権利保全のための特別な措置を講じる必要がないと考えたうえで権利行使をしなかったのであり、権利行使を怠ったものではないと考えられることから、承認は時効の中断事由になるとされています。

承認の認定について(具体例)

承認を認定する際は、次の点に注意が必要です。

  1. 法律上、承認に必要な要件(特別の方式・手続)等は定められておりません。
  2. 承認は、時効の利益を受ける者(債務者)が行う必要があります。
  3. 承認は、権利者に対して積極的に表示される必要があります。
  4. 承認は、あくまで観念の通知ですので、時効の更新の効果を発生させるとの意思は必要ありません。

※あくまでも、時効の利益を受ける当時者(債務者)が権利(債務)の存在を認める旨、権利者に表示すれば足ります。また、権利そのものを承認する場合に限られません。

承認の認定に関する判例は以下のとおりです。

承認にあたると認定された事例

  • 支払猶予の要請(大判大10年3月4日・大判昭和2年1月31日)
  • 手形書替の承諾(大判昭和13年3月5日)
  • 利息の支払(元本債権の承認となる)(大判昭3年3月24日)
  • 債務の一部弁済(債権全額の承認となる)(大判大8年12月26日)
  • 反対債権による相殺の主張(最判昭和35年12月23日)
  • 担保の・承認(大判大6年10月29日)

※債務者からたとえ僅かでも一部弁済を受けることができれば、承認にあたるとしてその時点で時効が更新します。

承認に当たらないとされた事例

  • 銀行が単に自行(内部)の帳簿に利息の元金組入れを記入しても、権利者に対する表示ではないから、預金債権の承認に当たらないとされた判例(大判大正5年10月13日)
  • 権利者の権利行使に対して異議を述べなかっただけでは、承認とはならないとされた判例(大判大正10年2月2日)。

 

消滅時効完成後に債務者が債務承認を行った場合、債務者は時効を援用することができるか

 債務者が消滅時効完成後に債務の一部弁済をしたり、支払することを約束したりして、債務承認を行った場合、債務者は時効を援用することができるのでしょうか。

 この点、最判昭和41年4月20日は、債務者が時効完成の事実を知っていたかどうかにかかわらず、時効完成後に債務を承認した場合、
①その後の時効援用が時効完成後の債務承認と矛盾する行為であること、
②債権者は「債務者はもはや時効を援用しないであろう」と期待するはずで、

 その期待を保護すべきであることを理由として、「時効の援用を認めないことが信義則に照らして相当」であるとされています。

時効の完成後に債務承認した場合でも、時効の援用権を喪失しない場合

 もっとも、時効の援用の主張をさせないために一部弁済を受けるというのは、ともすると「何とか適当なことを言って弁済を受ける」ということになってしまう可能性があります。

 上記判例が時効の援用権の喪失を認めた根拠は、信義誠実の原則によります。そのため、債権者の信頼を保護する必要がないと判断されるような場合には、債務者が時効の完成後に債務の一部弁済を行った場合でも、時効の援用の主張について認められる余地があります。

 この点、東京地判平成7年7月26日は、貸金業者が債務者に対し、他に債務はないとして、債権者の請求する金額を支払えば貸金債務が完済になるかのような詐欺的・欺瞞的な請求方法をとり、債務者が請求額全額の金員の支払いをした後に、他にも債務があるとして残債務の支払い請求をした事例につき、債務者に消滅時効の援用を認めています。

小西法律事務所

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