コラム

2021/10/25

交通事故による損害額の算定② 〜休業損害〜

 交通事故における損害賠償は主に積極損害、消極損害、慰謝料の3つに分けることができます。
 そのうち消極損害とは、事故にあわなければ得られたであろうと考えられる利益を失ったことによる損害をいいます。消極損害は、更に休業損害と逸失利益の2つで構成されます。

休業損害

 休業損害とは、交通事故のケガによる治療の為に休業を余儀なくされたことにより、症状固定時期までの間に生じた収入減による損害をいいます。

算定方法について

 休業損害=基礎収入×休業期間

 休業損害は、現実に休業により喪失した額が分かる場合はその額が損害として認められます。現実の休業により喪失した額が判明しない場合は、基礎収入に休業期間を乗じて算定します。
 賠償の対象となる休業期間は、原則として現実に休業した期間とされます。もっとも、症状の内容・程度、治療経過等からして就労可能であったと認められる場合は、現実に休業していても賠償の対象にならないことや、損害額が一定割合に制限されることもあります。

休業日数

 休業損害証明書などで休業日数が明確な場合は、基礎収入に休業日数を乗じた金額が休業損害となります。
 休業日数が長期にわたる場合は、休業の必要性が問題となります。また、主婦や失業者については、休業日数が必ずしも明確ではないため、休業日数の認定が問題となります。
 この点に関しては、下記のような算定方法があります。

収入日額 × 認定休業日数

 治療期間の限度内で相当な休業日数を認定します。相当な休業日数とは、就業困難とするのが相当と考えられる期間をいいます。

収入日額 × 期間1 + 収入日額 × 期間2 × X% + …

 症状の推移を見て時間経過とともに、収入日額の一定割合に減じた額をもとに計算をして、積算して治療期間中の損害額を算定します(京都地判平成6年12月22日)。 
 この算定方法による裁判例もありますが、負傷の程度・回復の状況・職務内容等具体的事情を総合判断した上でとられる方法ですので、一般的な基準があるものではありません。

収入日額 × 実通院日数

  休業日数を実治療日数に限定する手法を用いて算定します。

収入日額 × 治療期間総日数

 期間の長短・負傷の程度・職務内容によっては、この方法により算定されることもあります。

損害立証のための必要書類

 休業損害を立証するための書類としては、休業損害証明書、源泉徴収票、給与明細書、確定申告書控え、住民税課税証明書等があります。

有職者

給与所得者

 給与所得者とは、雇用契約などの法律関係のもとに、労務を提供し、その対価として所得を得ている者をいいます。

算定方法

 事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入減を損害とします。現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は休業損害として認められます。休業中に昇給、昇格のあった後はその収入を算定の基礎とします。休業に伴う賞与の減額・不支給、昇給・昇格遅延による損害も認められます。

短期の就労を予定している日雇労働者、非常勤日給者の算定方法

 基本的には下記算定式によります。
 (日給 × 過去3ヶ月分の就労日数) ÷ 90日間 × 休業日数

休業による降格・昇給昇格遅延による減収

 事故による欠勤により降格されたり、本来あるべき昇給・昇格がない場合は、本来支給されるべき金額と実際の支給額の差額を損害として請求できます(東京地判昭和54年11月27日、大阪地判昭和61年10月14日)。ただし、事故による欠勤がなければ支給されるべき金額について、立証が必要となります。
 また、受傷ないしその治療を原因として退職した場合は、基本的には無職状態となった以降も、現実に稼働困難な期間が休業期間とされます。試用期間中に事故に遭い、休業により会社を解雇された場合に休業損害を認めた裁判例があります(大阪地判平成2年4月26日)。

税金の控除

 所得税・住民税等の税金は控除せずに算定するのが一般的です。給与所得は課税がされますが、損害賠償金には課税されないため(所得税法第9条1項17号)、休業損害の算定において税金分を控除するかの問題がありますが、上記のように運用がなされています。

事業所得者

 事業所得者とは、個人事業主(商・工業者、農林・水産業者など)、自営業者、自由業者(弁護士、開業医、著述業、プロスポーツ選手、芸能人、ホステス等報酬・料金などによって生計を営む者)などをいいます。

算定方法

 受傷のため現実に収入減があった場合に認められ、原則として、事故直前の申告所得額を基礎とし、申告所得額を上回る実収入額の立証があった場合には、実収入額により算定されます。所得中に、実質上、資本の利子や近親者の労働によるものが含まれている場合には、被害者の寄与部分のみを基礎として休業損害を算定します。事業を継続する上で休業中も支出を余儀なくされる家賃、従業員給与等の固定費も損害と認められます。被害者の代わりに他の者を雇用するなどして収入を維持した場合には、それに要した必要かつ相当な費用が損害となります。

会社役員

 会社役員は、会社との委任契約に基づいて経営業務を委託される受任者です。役員の報酬は委任業務に対するもので、給与と異なり休業したからといって直ちに全額を減額されるものではありません。
 その報酬には、労務提供の対価部分としての報酬と利益配当の実質を有する報酬があり、利益配当的部分については、その地位に留まる限り休業をしても原則として逸失利益の問題は発生しないものと考えられています。

家事従事者

 家事従事者とは、主婦に限らず、現に主として家事労働に従事する者をいいます。性別・年齢は問いません。
 事故の負傷により家事従事者が休養した場合にも、その休業損害の賠償責任が認められます。

算定方法

 原則として、賃金センサスの女子平均賃金を基礎として、受傷のため家事労働に従事できなかった期間につき休業損害が認められます。 
 一人暮らしの無職女性の場合には、原則として休業損害は認められません。もっとも、夫と死別して一人暮らしをしていた女性(78歳)につき、女子学歴計年齢別賃金センサスを基礎に休業損害及び逸失利益を算定した事案があります(東京高判平成15年10月30日判時1846・20)。

*賃金センサス
 賃金センサス(census=官庁の行う大規模統計調査) とは、厚生労働大臣官房統計情報部の企画の下に、都道府県労働局および労働基準監督署の職員および統計調査員によって行われている賃金に関する統計を意味します。

無職者

失業者

 失業者とは、失職などにより就業しておらず収入を得ていない者をいいます。失業者には原則として休業損害は生じません。
 例外として、労働能力および労働意欲があり、治療期間内に就労の蓋然性があるものには休業損害が認められますが、その場合でも平均賃金より下回った金額となります。

学生・生徒・幼児

 学生等は、原則として、休業損害は認められません。もっとも、アルバイトをしているなど、収入がある場合には、認められる場合があります。また、治療が長期にわたり、学校の卒業ないし就職の時期が遅延した場合には、就職すれば得られたはずの給与額が休業損害として認められることがあります。

その他

 日本国籍を有しない外国人の場合は、在留資格の有無にかかわらず、原則として休業損害が認められます。

小西法律事務所

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