コラム

2021/09/27

【相談事例】配偶者とキスをした相手に慰謝料請求したい

相談の概要

 相談者Xと妻Yとは5年前に結婚しました。

 先日、相談者Xは、出張の帰りに、偶然、妻Aが男性Yと2人で飲食店から出てくるところを発見してしまいました。

 相談者Xが妻Aを問い詰めたところ、妻Aは、男性Yとは、今回を含めて2人きりで数回食事をして帰り際にキスをしただけで、性交渉はしていないと弁解しています。

 相談者Xは、妻Aの説明が信じられないとのことで、離婚も視野に入れており、妻Aとの婚姻関係について現在検討中です。

 しかし、少なくとも男性Yのことは許せないため、慰謝料請求したいと考えています。

 そのため、妻Aと男性Yとの間に性交渉がなくとも、慰謝料の請求をすることができるか等を相談するため、弊所にお越しになられました。

弁護士の回答

 配偶者に親密な関係者がいるものの、その者と性交渉がない場合、相手に対する損害賠償請求が認められるためには、相手の行為によって本人の法的権利や利益が侵害されたといえる必要があります。

 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条

 この点、判例は、不貞行為が不法行為になる理由について、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるから」と判断しています(最高裁平成8年3月26日判決・ 民集 第50巻4号993頁)。

 そのため、理論的には、性交渉がなくても、婚姻共同生活の平和の維持が侵害された場合には、不法行為が成立する余地がある、ということになります。

 なお、下級審の裁判例では、肉体的接触関係はキスだけであるものの、相手方が配偶者と婚姻を約束したうえで交際し、別居や離婚を要求したというケースにおいて、不法行為の成立を認めたものもあります(東京地裁平成20年12月5日判決)。 

 キスをすることは、その態様によっては、その配偶者の婚姻共同生活の平和の維持を脅かすものと考えられますので、本件において、相談者Xは、男性Yに対し、慰謝料を請求する余地があるものと考えます。

 もっとも、仮に慰謝料が認められるとしても、性交渉があるケースと比較すると、その額は低額になると考えられます。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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