コラム

2021/08/26

死後事務事務委任契約とは?

死後事務委任契約とは

 死後事務委任契約とは、死亡した後の事務的な手続について、第三者に委任する契約のことをいいます。

 死後事務委任契約の内容そのものに特段の法律上の規定があるわけではありませんが、具体的には、以下のような手続を委任することができます。

  1. 役所等各行政官庁への届出(死亡届の提出・健康保険・年金の資格抹消手続等)
  2. 親族・友人への連絡
  3. 葬儀・埋葬の手続
  4. 病院・施設等の退院・退所手続
  5. 未払いの医療費・施設利用費等の精算
  6. 各種公共サービス(水道・電気・ガス等)の精算・解約手続

 上記のような代表的な手続のほかに、最近では、生前に利用していたSNSやブログ等の閉鎖・解約手続や、パソコンやスマートフォン等の情報の消去を死後事務委任契約の内容とするケースも増えてきています。

 相続人がいない場合や、親族も高齢で死後事務を任せることが困難である場合、法律婚をしておらずパートナーに死後事務を任せることができない場合などに死後事務委任契約を締結しておくと、死亡後の手続を円滑に進めることができます。

死後事務委任契約の効力

 死後事務委任契約は委任者と受任者との間の合意に基づく委任契約であるため、委任者が死亡した場合には契約の効力自体が消滅するのではないか、また、委任者の地位を承継した相続人によって契約を解除することができるのではないか、などといった問題が挙げられますが、これについては以下の判例があります。

最判平成4年9月22日(金融法務事情1358号55頁)

  自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が丙山と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者丙山の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。

委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡                                            
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

民法653条(委任の終了事由)

東京高判平成21年12月21日(判例タイムズ1328号134頁)

 委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。

死後事務委任契約と財産管理委任契約・任意後見契約・遺言の関係

 死後事務委任契約と合わせて準備しておくことの多い手続として、財産管理委任契約、任意後見契約、遺言(公正証書遺言)がありますが、それぞれの手続と死後事務委任契約との関係は、以下のとおりです。

死後事務委任契約と財産管理委任契約

 財産管理委任契約とは、判断能力はあるものの高齢のため金融機関に行くことが困難であったり、財産管理能力が不十分である場合に、財産管理や身上監護に関する手続を第三者に委任する契約のことをいいます。

 一般的な財産管理委任契約の効力は委任者が死亡した時点で終了するため、死亡後の手続を委任するには死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

死後事務委任契約と任意後見契約

 死後事務委任契約が死後の事務的な手続を委任する契約であるのに対し、任意後見契約は、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ財産管理や身上監護に関する手続を委任する任意後見受任者を定めておく契約をいいます。

 財産管理委任契約と同様に任意後見契約の効力は委任者が死亡した時点で終了するため、死亡後の手続を委任するには死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

死後事務委任契約と遺言(公正証書遺言)

 遺言(公正証書遺言)に記載することのできる事項は法律で定められており、主に財産の承継に関するものに限られています。

 上記のような葬儀・埋葬方法の指定やSNS・ブログ等の解約手続など、相続財産に関すること以外の事務的な手続について委任することができるのが死後事務委任契約となります。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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