コラム

2021/07/29

成年後見制度とは⑩ ~任意後見制度について~

 任意後見制度とは、本人に判断能力があるうちに、将来自分の判断能力が減退した場合に備えて、契約によって自分の財産の管理や身上の事務に関する代理権を自らが選んだ者に付与しておくという形の成年後見制度です。この制度は、「任意後見契約に関する法律」(任意後見法)により導入されました。本人の意思に十分配慮しつつ、本人保護のための必要最小限度の公的関与を認める制度となっています。

任意後見契約

 任意後見契約とは、任意後見委任者(本人)が任意後見受任者(受任者)に対して、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託にかかる事務について代理権を与えるという委任契約です。
 この任意後見契約では、家庭裁判所による任意後見監督人の選任がなされることにより効力が生ずる特約を付けておく必要があるところにその特色があります(任意後見2条1号)。
 任意後見受任者は、1人でも複数でもよく、また法人がなることも認められています(後見登記等に関する法律5条3号、5号参照)。
 この任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によって締結されなければなりませんし(任意後見法3条)、任意後見監督人の選任がなされるためにはこの任意後見契約が登記されていなければなりません(任意後見法4条)。
 もっとも、公正証書により任意後見契約が締結されれば、公証人は登記所に登記を嘱託しますので(公証人法57条の3)、通常は問題となりえません。

後見事務の内容

 任意後見契約では、本人が受任者に委任したい後見事務の範囲を取り決めます。
 後見事務の範囲は、任意後見契約公正証書において、代理権目録という形で、本人が受任者に委任し代理権を与えた後見事務が列挙されることが通常です。
 代理権目録には、本人所有の全財産の管理・処分・変更に関する事項、金融機関・保険会社・証券会社との取引、介護に関する契約締結・変更・解除および費用の支払いなど、本人が委任したい事務が記載されます。

任意後見の開始

 任意後見は、家庭裁判所による任意後見監督人の選任によって開始します(任意後見法2条1号)。
 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理弁識能力が不十分な状況にあるときに、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族または任意後見受任者の請求により任意後見監督人を選任します(任意後見4条1項本文)。
 しかし、次のような場合には選任が行われません(任意後見法4条1項但書)。

  • 本人が未成年者であるとき
  • 本人が成年被後見人、被保佐人または被補助人である場合において、当該本人にかかわる後見、保佐または補助を継続することが本人の利益のために特に必要であると認められるとき
  • 任意後見受任者が民法847条各号(4号を除く)に掲げられている者であるとき
  • 任意後見受任者が本人に対して訴訟をし、または過去に訴訟をした者およびその配偶者ならびに直系血族であるとき
  • 任意後見受任者が不正な行為、著しい不行跡その他任意後見の任務に適しない事由があるとき

 本人以外の者の請求によって任意後見監督人を選任する場合には、あらかじめ本人の同意が必要とされていますが、本人がその意思を表示できないときは同意を必要としません(任意後見法4条3項)。
 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人またはその親族、もしくは任意後見人の請求により、または家庭裁判所の職権で、任意後見監督人を選任します(任意後見法4条4項)。
 なお、任意後見監督人には、任意後見受任者または任意後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹はなることができません(任意後見法5条)。
 任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人または被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人にかかる後見開始、保佐開始または補助開始の審判を取り消さなければなりません(任意後見法4条2項)。これは、法定後見が補助的な後見であり、本人の意思に基づく任意後見が優先するためです。

任意後見人の職務

 任意後見人は任意後見契約で締結されている委託に係る事務について、本人のために代理権を行使します(任意後見法2条1号)。その際、任意後見人は、本人の意思を尊重し、かつその心身の状態および生活の状況に配慮しなければなりません(任意後見法6条)。なお、任意後見人には取消権や同意権はありません。

任意後見の終了

 任意後見契約の終了原因には、以下のようなものがあります。

  • 任意後見人が解任されたとき(任意後見法8条)
  • 任意後見契約が解除されたとき(任意後見法9条)
  • 法定後見(後見・保佐・補助)の開始(任意後見法10条3項)
  • 本人または任意後見人(任意後見受任者)が死亡し、または破産手続開始決定を受けた場合および任意後見人(任意後見受任者)が後見開始の審判を受けた場合

任意後見監督人

 任意後見監督人の職務は、以下のようなものがあります(任意後見7条1項)。

  • 任意後見人の事務を監督すること。
  • 任意後見人の事務に関して家庭裁判所に定期的に報告すること。
  • 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において必要な処分をすること。
  • 任意後見人またはその代表者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

 このような職務を遂行するため、任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対して任意後見人の事務の報告を求め、または任意後見人の事務もしくは本人の財産の状況を調査することができます(任意後見法7条2項)。

法定後見と任意後見との関係について

 法定後見と任意後見とは併存しません。現行の成年後見制度では、本人の意思の尊重という原則から任意後見が優先します。そのため、任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のために特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができるとなっています(任意後見法10条1項)。任意後見監督人選任後に法定後見開始の審判等があると任意後見契約は終了することになります(同条3項)。また、前に述べたように、本人が成年被後見人、被保佐人または被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐または補助を継続することが本人の利益のために特に必要であると認められるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人の選任を行いません(同法4条1項2号)。

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