コラム

2021/07/12

不貞行為による慰謝料請求の基礎知識 ~その5~

高額な慰謝料が認められた裁判例

 以下では、高額な慰謝料が認められた裁判例を紹介しいたします。

 なお、Xは原告、Yは被告とします。

東京地裁平成15年2月14日判決

事案の概要

 YとXの夫であるAは職場の同僚として知り合い、やがて肉体関係を持つに至った。
 その後、AとYとの関係がXに発覚することとなり、XとYとは、「今後一切Aとは連絡を取らない」旨の合意をしたが、Yにそのつもりはなく、その後もAと頻繁に連絡を取り、恋人同士のような関係を継続した。

慰謝料認容額

440万円

結婚期間

6年7ヶ月

不貞期間

2年以上

婚姻継続の有無

婚姻関係は継続

算定の理由

増額方向で考慮された要素
  • YはそのつもりがないのにXとの間で合意を成立させたこと
  • 合意を成立させた後もAと頻繁に連絡を取り恋人同士のような関係を継続したこと
減額方向で考慮された要素
  • XがAに対して慰謝料を請求していないこと

 この事案では、不倫相手であるYが、Xとの間で、一度、「今後一切Aとは連絡を取らない」という約束をしたにもかかわらず、その後も関係を継続していたことから、そもそもYにおいてXとの約束を守るつもりがなかったという事情が、悪質性が高いとして考慮されたものと考えられます。
 なお、Xが結婚相手であるAに対して慰謝料を請求していないことが減額要素となるのは、不倫により夫婦関係を破壊したことの責任は、第一次的には結婚相手にあるという理由によります。

東京地裁平成15年9月8日判決

事案の概要

 Xの夫AとYとは、職場の同僚として親しくなり、肉体関係を持つに至った。
 その後、XとAとの間に第一子が誕生したが、それと同時期に、AとYとの間にも子どもが誕生し、Aはこの子どもを認知(自分の子であると認めること)した。
 Xは、AとYとの不倫関係及びAとYとの間に子どもが誕生していることを知らずにいたが、Xが、Aとの子を出産した6ヶ月後に、その旨をAの両親から聞かされ、多大な精神的ショックを受けた。
 その後、Aは、Xに対して、Yとの不倫の事実を告げ、Xと別居するに至り、その後、Yと同棲するに至っている。
 なお、Yは、Xに対し、Aとの同棲関係を解消するつもりはないなどと宣言している。

慰謝料認容額

450万円

婚姻期間

8年8ヶ月

不貞期間

5年6ヶ月

婚姻継続の有無

婚姻関係は継続

算定の理由

増額方向で考慮された要素
  • Xの子どもとYの子どもとの誕生時期がほぼ同じであり、本来第一子誕生により喜びに包まれるべき時期に不倫の事実を知ったこと
  • YがXに対しAとの同棲関係を解消するつもりはないなどと宣言していること
  • 交際期間は5年間と長期に及び、同棲生活も3年に及んでいること

 この事案では、不倫期間が相当長期であり、かつ、同棲期間も長期であることが、慰謝料を増額する要素として大きく影響したものと考えられます。
 また、第一子を誕生させた直後に不倫の事実を知るということは、一般的にみても、精神的苦痛の程度は大きいものといえ、この点も増額要素として考慮されたものと考えられます。

東京地裁平成16年4月23日判決

事案の概要

 Xの夫AとYとは、職場の同僚として知り合い、Aは、Yに対して「かわいいね」、「好き」、「何で結婚したんだろう」などと述べるなどし、最初はYもとりあわなかったものの、やがて肉体関係を持つまでの関係となった。
 その後、AとYとの関係が、Xに発覚し、XとAとが話し合った結果、AはYとの関係を絶つ決心をした。
 そして、Aは、Yにもその旨伝えたが、AとYいずれもお互いに未練が残っていたことから、そのまま関係を継続した。
 他方、Xは、Aが話し合いの後も外泊を繰り返し、携帯のロックをかけるなどしていたことから浮気を疑い、ある日に携帯を見たところ、AとYとの関係が継続していることを知るに至った。
 Xは、悲観し、ビールと睡眠薬を飲んで自殺を図るなどし、その後、パニック障害、うつ状態、自律神経失調症との診断を受け、投薬治療を余儀なくされた。

慰謝料認容額

400万円

婚姻期間

3年4ヶ月

不貞期間

2年半

婚姻継続の有無

婚姻関係は継続

算定の理由

増額方向で考慮された要素
  • Yの側でも積極的にAとの不倫を行っていること
  • Xがパニック障害、うつ状態、自律神経失調症との診断を受け投薬治療を継続している上、自殺まで図っていること

 AとYとの不倫関係は、Aが積極的にYに迫ったことによるもので、この点だけをみれば、Aが主導的役割を果たしたとして、慰謝料が減額されるように思われます。
 しかし、その後、AがYに対して関係を解消する旨伝えたにもかかわらず、Yの側にも未練があって関係を継続していることからは、Yにも不倫の責任があるというべきでしょう。
 また、Xが自殺未遂を図り、その後上記症状を発症し、投薬治療を続けていることは、Xの精神的苦痛の大きさを示す具体的な事実として、増額要素になったものと考えられます。

東京地裁平成18年3月31日判決

事案の概要

 Xの夫Aは医者であり、YはAの勤務する病院の看護師であったところ、次第にXに隠れて肉体関係を持つまでの関係に至り、その後、YはAの子を妊娠するに至った。
 他方、Xは、AとYとの関係を知り、これをAに問いただしたところ、Aは「Yとは遊びだった。Yに中絶するよう言っているが、産まないなら死ぬなどと言って聞かない。ついては、一度Yを説得するから別居してほしい。」などと言い、別居するに至った。
 しかし、Aは、Yに対しては、「Xとそろそろ別れるつもりである。」などと述べており、Yとの関係は継続した。
 その後、Aは何かと理由をつけて、X方とY方を行き来するような生活を続け、Yとの間に第2子をもうけるに至った。
 そして、XからYに対し訴訟が提起されることとなったが、訴訟中もAとYとは不倫関係を積極的にやめるつもりはないなどと宣言した。

慰謝料認容額

500万円

婚姻期間

6年6ヶ月

不貞期間

4年以上

婚姻継続の有無

婚姻関係は継続

算定の理由

増額方向で考慮された要素
  • 不貞期間が4年と長期に及ぶこと
  • 不貞をやめるつもりはないなどと宣言していること

 AがXとY方を行き来し、実施的にXとY両方を妻として生活しているような異常な状況であり、こうした関係をAもYも積極的に解消しようとしないことが、不貞行為の悪質性が高いとして、大きな増額要素になったものと考えられます。

まとめ

 このように、裁判例をみると、300万円を超える慰謝料が認められた事案は、特殊な事情がある場合であることがうかがえます。
 そのため、300万円を超えるような高額な慰謝料を請求する場合には、特殊な事情があるか否かを詳細に検討することになります。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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