コラム

2021/03/01

不貞行為の慰謝料請求における時効の起算点

相談の概要

 相談者Xの夫Aは、約3年前に、不貞相手Yと浮気をしていたことがありました。しかし、その当時、夫Aは不貞相手Yと別れることを相談者Xに約束したので、相談者Xは、夫Aと夫婦としてやり直すことを決意し、その後婚姻生活を維持しておりました。

 しかし、最近、不貞相手Yから相談者Xに電話がかかってきたことがきっかけとなり、現在もなお夫Aと不貞相手Yとの交際関係が継続していたことが発覚しました。相談者Xが夫Aに確認したところ、夫Aは、約3年前、相談者Xには「不貞相手Yとの関係を解消した」と説明をしていましたが、実際には不貞相手Yとの不貞関係を続けていたのです。

 相談者Xは、不貞相手Yに対する慰謝料請求を検討していますが、最初に夫Aと不貞相手Yとの浮気が発覚してから、あと数週間で3年が経過してしまうため、不貞相手Yに対する慰謝料請求権が、時効にかかってしまうのではないかと不安を抱き、当事務所に相談に来られました。

 なお、相談者Xは、約3年前に夫Aの浮気が発覚した時点では、不貞相手Yの名前しか把握していない状況でしたが、今回の浮気が発覚した際に、ようやく不貞相手Yの住所を確認することができました。

弁護士の回答

 不貞行為の慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)ですので、原則、3年間で消滅時効が完成します(民法724条)。

 そのため、時効の起算点が問題となりますが、不法行為に基づく損害賠償請求の時効の起算点は、「加害者を知った時」とされています(民法724条)。

 そして、被害者が不法行為の当時、加害者の住所・氏名を明確に知らず、しかもこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合には、その状況がやみ、被害者が加害者の住所・氏名を確認した時が「加害者を知った時」となると考えられています(最判昭和48年11月16日民集第27巻10号1374頁)。

 そのため、本件では、約3年前に夫Aと不貞相手Yとの浮気が発覚した時点では、相談者Xは、不貞相手Yの住所を知らず、損害賠償請求権を行使することが事実上不可能であったと考えられますので、時効の起算点は不貞相手Yの住所を知った時点、つまり今回の浮気が発覚した時点となるでしょう。

 もっとも、約3年前に夫Aの浮気が発覚している以上、不貞相手Yから、相談者Xがその当時不貞相手Yの住所を知っていたのではないか等と争われる可能性も否定できませんので、念のため過去の浮気発覚日から3年が経過する前に、Aに対して内容証明郵便で慰謝料請求する等して、時効の完成猶予の手続きをとることをお勧めします。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

この弁護士について詳しく見る