コラム

2025/06/09

空き地・空き家の問題~借地人が借地上に所有している建物が空き家になっている場合の法的問題について

 土地の所有者が貸した土地上の建物が空き家になってしまっている場合があります。

 このような場合、土地を貸している人にはどのような影響があるのでしょうか。また、借地人(土地を借りている人)が所在不明の場合はどのような対応が可能なのでしょうか。

 本コラムでは、借地人が借地上に所有している建物が空き家になっている場合の問題について解説いたします。

土地の所有者の責任と影響

 借地上の建物が空き家になってしまうと、管理が不十分となり、近隣住民にとっては倒壊や失火・放火による類焼の被害が及ぶことが懸念されます。また、景観の悪化や、不審者のたまり場として犯罪の温床になってしまう危険性もあります。

 この点、土地所有者は、危険な状態を放置した結果、他人に損害を与えた場合、被害者に対して不法行為責任を負うことがあります。

 しかし、土地の所有者は借地上の建物所有者の同意なく、借地上の建物を除去したり、補修や一部除却するなどの変更を加えることはできないため、土地の所有者の一存で状況を改善することは困難です。

 場合によっては、借地人との土地賃貸借契約を解除し、土地の明け渡し請求も視野に入れなければならなくなることもあります。

繁茂した草木に関する問題

 民法上の規定に従えば、草木は土地に付合したものとして、原則、土地の所有者に所有権が帰属します(民法242条)。そのため、土地の所有者は草木について伐採等をすることが可能です。

 しかしながら、借地権者の同意なく土地所有者が借地に立ち入ることはできませんので、借地権者の同意がえられなければ、草木を伐採することは困難です。

 また、借地上の建物所有者に土地を利用し草木を付属させる権原が認められており、草木が借地人が植栽したものであれば、その草木の所有者は借地上の建物所有者となり、土地所有者は草木を伐採することができません。

「特定空家等」の認定の問題

 この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。

 このように、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家特措法」といいます。)2条2項では、「特定空家等」について規定しているところ、場合によっては土地の所有者についても特定空家等の所有者等と判断されることがあります。

 「特定空家等」に認定されると、自治体はその所有者等に対し、除却、修繕、立木竹の伐採、その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう助言・指導を行うことがあり、助言・指導でも改善されない場合は、必要な措置をとることを「勧告」することができます。

 「勧告」を受けると、当該土地は固定資産税の住宅用地特例から除外され、固定資産税・都市計画税の税額が大きくなる場合があり、土地所有者にとっては租税公課の増大という不利益が生じる可能性があります。

 このように、借地人が借地上に所有している建物が空き家になっている場合には、様々な問題が生じる可能性がありますが、令和3年の民法改正によって、空き家の管理方法の選択肢が増えました。

管理不全建物管理制度

 令和3年の民法改正に伴い、管理不全に陥っている土地・建物について、裁判所が、利害関係人の請求により、管理人による管理を命ずる処分を可能とする、管理不全土地・建物管理制度が創設されました(民法264条の9~264条の14)。

 裁判所は、土地が放置されていたり、不適切な管理がされているために、他人の権利や利益が侵害されたり、侵害されるおそれがある場合に、利害関係人(隣地所有者など)の請求により、管理不全土地について、土地所有者の陳述を聴いたうえで管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができ(民法264条の9第1項)、この効力は、土地にある動産にも及びます(民法264条の9第2項)。

 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、管理不全土地管理人を選任しなければならず(民法264条の9第3項)、管理不全土地管理人は、管理不全土地やそこから得られた財産などを管理・処分する権限を有することになります(民法264条の10第1項)。

 管理不全土地管理人は、保存行為と土地等の性質を変えない範囲での利用・改良行為をすることができ、その範囲を超える行為をするには、裁判所の許可が必要とされています(民法264条の10第2項)。そして、土地の売却といった処分行為については、所有者の同意がなければ許可をすることができません(民法264条の10第3項)。

 管理不全建物管理制度(民法264条の14)については、おおむね管理不全土地管理制度と同じ内容となっており、土地の所有者は、この制度を利用し、管理不全建物管理人を通して空き家を管理することが考えられます。

所有者不明建物管理制度

 令和3年の民法改正に伴い、裁判所が、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない建物について、管理の必要があると認める時、利害関係人の請求によって、所有者不明建物管理人を選任し、その建物の管理を命ずる処分ができる所有者不明建物管理の制度が創設されました(民法264条の8)。

 これまでは、所有者の所在が不明な建物等の管理・処分を行なうためには、不在者財産管理人制度を利用しなければなりませんでした。しかし、不在者財産管理人制度は、不在者の財産全般を管理するものであったため、事務作業や費用の負担が大きいことが課題でした。

 この点、所有者不明建物管理制度は、特定の建物のみを対象とする制度のため、行方不明者の他の財産についての調査や管理は不要であり、管理期間の短縮化や裁判所に納める予納金等の経済的負担が軽減されます。

 この制度によって選任される所有者不明建物管理人には、対象財産の保存行為のほか、対象財産の性質を変えない範囲内での利用行為・改良行為を行う権限が与えられます(264条の8第5項、民法264条の3第2項)

 また、空き家の管理方法として売却が必要な場合、裁判所の許可を得て対象財産を売却することも可能です。

 なお、管理人による建物の取壊しは原則として許されないと考えられますが、建物の存続を前提として適切に管理することが困難であり、建物を取り壊したとしても建物所有者に不利益を与えるおそれがない場合は、裁判所の許可を得たうえで、建物を取り壊すことも可能と考えられます。

 これらの制度を活用して、所有者不明の空き家の管理を改善することが期待できます。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

小西法律事務所

法律相談申込