コラム

2025/06/02

空き地・空き家の問題~空き家を管理しない場合の問題について~

 相続によって不動産を取得した場合、その不動産が必ずしも自身にとって使い勝手のいいものであるとはかぎりません。  

 前回コラムでは空き地である土地を相続したものの、その空き地を管理しない場合の問題について解説いたしました。

 本コラムでは、建物(空き家)を相続したものの、その空き家を管理しない場合の法的問題について解説いたします。

不動産登記法上のリスク

 相続によって不動産の所有権を相続した者は、登記申請義務を負います。

 詳しくは、前回コラムをご参照ください。

空き地・空き家の問題~空き地を管理しない場合の問題について~
 相続によって土地を取得した場合、その土地が必ずしも自身にとって使い勝手のいい土地であるとはかぎりません。  相続した土地が遠方にあり使い道がなく、空き地の適切.....

土地工作物責任

 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

民法717条

 このように、民法717条によれば、建物等の土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(不具合・欠陥のことで、通常有すべき機能や安全性に欠けている状態)があることによって他人に損害を生じたときで、工作物の占有者が損害賠償責任を負わないときは、工作物の所有者が、過失の有無に関係なく損害賠償責任を負うとされています。空き家については、そもそも占有者がいないと思われますので、空き家の所有者が責任を問われることになります。

 台風や地震などの自然災害の発生によって、空き家が第三者に損害を与えてしまう可能性は十分にあります。このような場合、通常予想される危険性や通常備えているべき安全性を考慮して、工作物の瑕疵が判断されることになります。

失火責任法との関係

 空き家は、木造家屋である場合が多く、他の家屋が隣接していると、大火災に発展してしまう可能性があります。

 失火責任法では、失火者に重大な過失があった場合を除いて、損害賠償責任は負わないとされており、土地工作物の設置又は保存の瑕疵から火災が生じた場合に、民法717条と失火責任法のいずれを適用するかが問題となります。

 この点においては、判例でも意見が分かれており、失火責任法が適用され重過失がない限り責任を負わないものとする裁判例もありますが、他方で、民法717条が適用され失火責任法は適用されないとの裁判例もあります。

建築基準法上のリスク

建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。

建築基準法8条1項

 建築基準法8条では、建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態な維持するように努めなければならないと規定されています。

特定行政庁は、第六条第一項第一号に掲げる建築物その他政令で定める建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により次章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)について、損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告することができる。

建築基準法10条1項

特定行政庁は、前項の勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。

建築基準法10条2項

前項の規定による場合のほか、特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により次章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。

建築基準法10条3項

 また、同法10条では、建築物が損傷、腐敗、その他の劣化によって放置すれば著しく保安上危険となる場合や、衛生上有害となるおそれがあると認められる場合には、特定行政庁は、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、除却や修繕などの必要な措置をとるよう勧告・命令することができます。措置を履行しなかった場合や、履行しても十分でないときは、行政代執行が行われる可能性があります。

 この場合の代執行にかかった費用は、義務者(建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者)が負担し、義務者が支払わない場合は、財産の差押え等によって強制的に徴収される可能性があります。

空家特措法上のリスク

 平成27年5月に施行された空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家特措法」といいます。)は、空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護し、その生活環境の保全を図ることを目的として制定されました。

 空家特措法によれば、空家等のうち、以下に該当すると認められる空き家等を「特定空家」としています。(空家特措法2条2項)

  1. そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  2. 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  4. 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

  また、適切な管理が行われていないことによって、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある空家を「管理不全空家等」としています。(空家特措法13条1項)

 市町村長は、「特定空家等」の所有者等に対し、除却、修繕などの周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう助言又は指導をすることができ(空家特措法22条1項)、その後所有者等が助言指導に従わないときには、勧告・命令を経て、行政代執行をすることができます(空家特措法22条9項)。

 代執行の費用は前項の建築基準法の場合と同様に義務者が負担し、義務者が支払わない場合は財産の差押え等によって強制的に徴収される可能性があります。

 また、通常では住宅の敷地には「住宅用地特例」が適用され、土地の固定資産税が軽減されています。

 これまでは「特定空家」と勧告されたものが「住宅用地特例」の解除により、固定資産税が増額となっていましたが、令和5年の空家特措法改正によって「管理不全空家」として勧告された場合でも「住宅用地特例」が解除されることになりました。

 「住宅用地特例」が解除された場合、土地の固定資産税は3倍程度増えることになります。

管理不全建物管理命令のリスク

 2023年4月1日に施行された改正民法によって、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合に、その建物について管理の必要性があるとき、裁判所は、その建物の管理命令を発令し、管理人(管理不全建物管理人)を選任することができるようになりました。

 管理不全建物管理命令は、管理不全建物の利害関係人の請求によって、裁判所が、以下の両方を認めた場合に発令されます。

  1. 所有者による建物の管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され又はその恐れがあること
  2. 建物の管理状況等に照らし、管理人による管理の必要性が認められること

 その効力は、管理不全建物のほか、建物にある所有者の動産、敷地利用権(借地権等)にも及びます。

 そして、管理に必要な費用および報酬は、管理不全建物の所有者の負担となります。

まとめ

 以上のとおり、空き家を放置すると、法的責任、税負担の増加、行政代執行や管理不全建物管理人の費用負担などのリスクが大きいといえるでしょう。

 空き家の問題でトラブルが生じた場合は、お早目にご相談ください。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

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