コラム

2024/09/30

親権停止の手続について

 子どもの権利を守るために親権が設定されているものの、親権者が義務を果たせないケースは多く、児童虐待の相談対応件数年々増加傾向にあります。子どもに対する虐待を目にした際には、親権停止を思いついた方もいるのではないでしょうか。

 本コラムでは、親権停止の手続について説明します。

親権とは

 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

民法820条

 親権とは、未成年者の子どもを監護・養育し、また子どもの財産を管理し、代理人として法律行為をする権利や義務のことです。

 父母は、婚姻中には共同して親権を行使することになっています。しかし、離婚の際には、父母のいずれか一方のみが親権者となります(なお、共同親権に関する改正法が令和6年5月17日に成立し、令和8年5月24日までに法律が施行される見込みです。)。

親権停止とは

 親権停止とは、平成23年度民法改正により創設された手続きで、家庭裁判所の審判によって、親権停止をおこなう必要がある事由が消滅するまで、親権を最大2年間停止する制度です。

父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。

2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

民法834条の2

 親権停止となった場合、親権者は、子どもの監護・教育を行ったり、子どもの財産を管理したりする権利・義務を失います。

 夫婦が婚姻中で、片方の親について親権停止がなされた場合、特段手続を行わなくとも、もう一方の親権者が単独で親権を行使することとなります。他方で、離婚などでもともと単独親権者であった親の親権が停止した場合は、手続なく他方の親に親権が変更されるわけではありません。

 父母共に親権停止となったり、単独親権者について親権停止となった場合、未成年後見が開始するものと定められています(民法838条1号)。

 ただし、未成年後見人は、親権停止とは別の選任の手続きを行わなければなりません。なお、児童福祉法の改正により、適切な未成年後見人が選任されるまでの間は、児童相談所の所長が親権を代行できるようになりました。

 親権停止中の親は再び子どもを自分で養育できるように、親権停止に至った事情を解消することが求められ、親権停止の原因が改善されている場合、親権者に親権が戻ります。

 親権停止が終了した後に改善されていない場合は、再び親権停止の申し立てを終了前に申し立てをおこなわなければなりません。この場合、親権喪失の申し立てや審判前の保全処分がおこなわれ、親権者は権利を行使できない状態となります。

親権停止と親権喪失の違い

 親権停止と似たような制度に「親権喪失」がありますが、この2つのあいだには明確な違いがあります。

 親権停止は、あくまで一時的な措置に過ぎず、最長2年間の期限があり、親権を停止した理由がなくなったと判断されれば、再びその権利は親に返されます。

 しかし、親権喪失は親権停止に比べ遥かに厳しい措置であり、取消しがなされない限り、親権者は永久に親権を失うことになります。親権喪失は親権者に相当の落ち度があり、2年以内に改善できる見込みもない場合にのみ適用されます。

『子の利益を害するとき』とは

 子の利益を害する代表的なものとして、以下のような虐待行為があります。

  • 身体的虐待
    殴る、蹴る、揺さぶる、溺れさせるなど暴力的行為による虐待
  • 性的虐待
    性的なものを見せる、触らせる、親権者が子どもの裸を撮影するなどの虐待
  • 心理的虐待
    大声で怒鳴る、罵声を浴びせるなど言葉による精神的苦痛を与える虐待
  • ネグレクト
    子どもを放置して出かける、食事を与えないなどの育児放棄や育児拒否に該当する虐待

 これらの行為はいずれも、子どもの健全な発達を著しく阻害します。なお、自分自身が積極的に虐待しなくとも、もう片方の親やそのほかの同居人が虐待することを傍観しているのならば、ネグレクトと考えられます。

 虐待以外では、親の病気や障がい、あるいは行方不明などの事情で親権の適正な行使が著しく困難である場合も、親権停止が認められることがあります。

手続きの流れ

 親権停止の手続きの基本的な流れは、以下のようになります。

  1. 親権停止の審判の申立て
    申立先は、子の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
  2. 家庭裁判所による審理
    事実認定に際して、親権者及び子ども(15歳以上のもの)から直接話を聞きます。ただし、子どもが15歳未満でも話を聞くことがあります。
  3. 家庭裁判所による審判
    審理の結果、親権停止すべきかどうか判断し、審判をします。
  4. 審判の確定
    審判がなされてから2週間、誰も即時抗告をしなければ、審判が確定します。

申立ができる人

 親権停止の申し立てができる人は以下のとおりです。

  • 子ども本人
  • 子どもの親族
  • 児童相談所所長
  • 未成年後見人、未成年後見監督人
  • 検察官

申立に必要な書類

 審判を申し立てる際、必要になる書類と費用は以下のとおりです。ただし、個々の状況によって異なるケースもありますので、事前に申立先の家庭裁判所に問い合わせることをおすすめいたします。

  • 申立書
  • 子および親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 子との関係を疎明する資料
    戸籍謄本(全部事項証明書) ※親族の場合
    在職証明書 ※児童相談所所長の場合
    登記事項証明書 ※未成年後見人または未成年後見監督人の場合
  • 申立理由を疎明する資料
  • 収入印紙
  • 郵便切手

即時抗告

 親権停止の審判に納得がいかないときには、「即時抗告」という不服申立てを行うことができ、期限は審判の告知の日(告知を受けない者は、親権を喪失する親権者が告知を受けた日)から2週間以内となっています。

 また、即時抗告ができる人は審判の結果によって以下のように異なります。

  • 審判が認容 の場合
    親権者やその親族など
  • 審判が却下の場合
    申立人

審判確定後の流れ

 親権停止の審判が確定した場合、裁判所は子どもの本籍地を管轄する市町村役場に対し、戸籍記載の嘱託を行います。

親権停止の具体例

親権停止申立事件(宮崎家裁平成25年3月29日審判)

事案の概要

申立人は未成年Xで、AはXの母であり、BはAの夫であり、Xの養父です。Xは未熟児として誕生しましたが、AはXを出産後、入院中のXを置き去りにして病院から失踪し、育児放棄をしました。そのため退院後Xは、曾祖母の家に引き取られ、曾祖母、祖母の兄及び近所に住む祖母の妹に育てられました。

Xは、祖母の妹の家で生活しており、今後も引き続き同人と生活し、その養育監護を受ける意向で、事件本人らの親権の停止を希望しており、Xの祖母の妹は、Xの後見人となり、Xが社会人として独り立ちするまで、その養育監護を継続する意向を示しました。

裁判所の判断

事件本人らは、Xを養育監護しておらず、今後も必要な養育監護をする意思は認められない。また、Xについて何らかの疾病の存在が疑われるが、事件本人らが正当な理由もなく医療行為に同意しないため、Xは、詳しい検査を受けたり、定期的な通院をすることが困難な状況にある。したがって、本件は、父母による親権の行使が不適当であることにより子の利益を害する場合に当たり、事件本人らの親権を停止する必要がある。そして、今後2年内に親権停止の原因が消滅するとは認めがたいこと、Xの生活状況及びその意向等を考慮すれば、事件本人らのXに対する親権停止の期間はいずれも2年間と定めるのが相当である。

親権停止申立事件(横浜家裁小田原支部平成31年2月28日審判)

事案の概要

 未成年者Xは、平成20年に親権者母とかつて婚姻関係にあったEと親権者母の間の子として出生しましたが、親権者母からの依頼で、平成20年にJ児童相談所の一時保護となり、その後乳児院に入所措置となり、さらにその後平成22年に、児童養護施設Lに措置変更となりました。

 親権者養父と親権者母は、平成25年に婚姻し、同日、親権者らはXと共同養子縁組し、平成29年にXの施設入所措置が解除されたため、親権者らの家庭引取となりました。

 小学校からM児童相談所に対しXに関して身体的虐待の疑いあるとの通告や、未成年者Xが親権者らからの叱責を恐れて小学校のグラウンドで一晩過ごしていたところを警察官により発見されるなどしたため、警察はネグレクトとの恐れがあると判断し、警察からM児童相談所に身柄付き通告がなされ、Xは、同相談所に一時保護となりました。

 XはM児童相談所担当者や家庭裁判所調査官に対し、親権者らからの暴力や、食事を与えてもらえないなどの状況を説明し、親権者らの親権停止について賛成していました。

裁判所の判断

 未成年者と親権者らの陳述は、やや異なっているところはあるものの、親権者らが未成年者に対し相当な頻度で暴力を振るい、食事を抜き、そのため未成年者は親権者らに対して強い恐怖心を抱いていたことは認められる。そうすると、未成年者が一時保護の措置を受ける以前は、親権者らの親権の行使は不適当であり、未成年者の利益を害するものということができる。

 ただし、民法834条の2第1項により親権者らの親権を停止するためには、過去の時点ではなく、現時点においても同条所定の要件を満たすことが必要であるので、この点を検討する。現時点では未成年者は児童福祉法33条1項による一時保護が行われている状態であり、親権者らには未成年者の所在が知らされていないこともあって、親権者らは、その監護教育権を行使できない状態であるが、親権者らは未成年者が施設で生活することを事実上容認しており、児童相談所等に対して親権を振りかざして未成年者の引き渡しを執拗に要求したり、その居場所を探索するなどして一時保護を妨害する姿勢は示していない。

 また、申立人は、里親選択も含めた適切な養育選択のためあるいは適切な医療受診のためにも親権停止が必要と主張するが、現時点では、親権者が適切な養育選択を妨げるような行動をとったり、未成年者への医療行為やその教育・就職に必要な諸手続への同意など、親権者として行うべき行為を理由もなく怠って未成年者の利益を害しているという事情も、生じていない。

 また、申立人は、親権者らと未成年者の再統合が著しく困難であることも親権停止が必要な理由として挙げる。確かに、親権者らは、児童相談所に対しては協力的ではないことがうかがわれ、児童相談所を介した親子関係の再統合は容易ではないが、親権を停止したからといって親子関係の再統合が容易になるとも思えず、親権を停止しなかったことにより子に不利益が生じるとは思えない。親子関係の再統合が著しく困難であることは、親権停止の理由としては弱い。

 さらに、申立人は、未成年者の心に安心の基礎を作るために親権停止が相当であると主張する。確かに、未成年者は現在でも親権者らに対して強い恐怖心を抱いて親権者らの親権停止を望んでおり、親権停止が認められなかったことにより精神的な衝撃を受けることは想定でき、この点を踏まえての、未成年者の心に安心の基礎を作るために親権停止が相当であるとの主張は一定の理解はできるところではある。しかしながら、親権者らの親権停止が認められなかったとしても、直ちにXが親権者らの下に戻されるものではなく、児童福祉法による法的な対応は可能である上に、客観的に子の利益を害する事情が顕在化していない以上、これだけをもって、親権を停止すべきほど子の利益が害されているとは考え難い。

 そうすると、現時点では、民法834条の2第1項の「子の利益を害する」との要件を満たすとは言えないと考えられる。本件は、現時点で親権を停止すべき事案ではなく、今後親権者らが児童相談所の一時保護や施設による監護を妨害するなどの姿勢を示したり、親権者としてXのために必要な手続を正当な理由なく怠ったり未成年者の福祉に反する対応をした場合に、審判前の保全処分を用いるなどして速やかに親権停止をすべき事案と考える。

まとめ

 親権の停止については以上のとおりです。お悩みの方は、お早めにご相談ください。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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