コラム

2024/04/01

変形労働時間制

 労働基準法では、1日8時間、週40時間を所定労働時間の上限と定めています。しかし、業種によっては業務の忙しさに波があるため、単純に原則を守ることができない場合があります。

 このような場合に対応するため、労働基準法では変形労働時間制を定めています。本コラムでは、変形労働時間制について解説いたします。

変形労働時間制とは

 労働基準法32条では、労働時間は1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えてはならないと定めていますが、変形労働時間制はその厳格性を一部解除して、1か月単位や1年単位での総労働時間の平均が週法定労働時間に収まるようにすることを定めた場合、特定された日や週に労働基準法32条に定められた労働時間を超えて労働させることができるとされています。

 これによって、特定の日や週の所定労働時間には法定労働時間を超えた労働時間を設定することができることになり、また、超えた部分の時間外手当を支払う必要はなくなります。

 変形労働時間制の形態としては、 以下のものがあります。

  1. 1か月単位の変形労働時間制(労働基準法32条の2)
  2. 1年単位の変形労働時間制(労働基準法32条の4)
  3. 1週間単位の非定型的変形労働時間制(労働基準法32条の5) 

①1か月単位の変形労働時間制(労働基準法32条の2)

 1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の一定の期間を平均し、1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以下の範囲に収まるようにすることにより、特定の日や週において1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

 月初や月末などの特定の時期が忙しいような業態に適しています。

※特例措置対象事業場…以下に掲げる業種に該当する常時10名未満の労働者を使用する事業場

商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業映画の映写、演劇、その他の興業の事業
保健衛生業病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

 なお、1か月の所定労働時間の合計が、下記の表の上限を超えないようにする必要があります。

1か月の日数法定労働時間(40時間)法定労働時間(44時間)
28日160.0時間176.0時間
29日165.7時間182.2時間
30日171.4時間188.5時間
31日177.1時間194.8時間

②1年単位の変形労働時間制(労働基準法32条の4)

 1年間の変形労働時間制とは、1か月を超えた1年以内の期間で労働時間を設定する変形労働時間制です。

 シーズンごとに繁忙期・閑散期があるような業態に適しており、閑散期の出勤日数や就労時間を減らすことで、繁忙期の出勤日数や就労時間を増やして対応します。

 年間の就業時間数が、年間の法定労働時間内に収まるようにします。例えば、対象期間が1年の場合、対象期間において所定労働時間として設定できる労働時間は、以下のようになります。

365日2085.7時間
366日(閏年) 2091.4時間

 なお、対象期間における所定労働時間の上限の計算式は、次のとおりです。

40時間×対象期間の暦日数÷7日

 また、1年単位の変形労働時間制には注意点があり、閑散期に休みをとらせて、繁忙期に1か月まるまる働かせる様なことがないよう、以下の決まりが設けてられています。

1年あたりの労働日数280日(年間休日85日)
※対象期間が3か月を超え1年未満の場合:280日×対象日数÷365日
※対象期間が3か月以内の場合:制限なし
1日あたりの労働時間10時間まで
1週間あたりの労働時間52時間まで
原則連続で労働できる日数最長連続6日
対象期間に連続で労働できる日数1週間に1日の休み(最長連続12日)

③1週間単位の変形労働時間制(労働基準法32条の5)

 1週間のなかで、曜日の繁閑にあわせて労働時間を調整し、労働時間を週40時間(特例事業も同じく40時間)におさまるように調整する制度です。

 ただし、1週間単位の変形労働時間制の対象は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業のみとなります。

制度導入のための手続

1か月単位の変形労働時間制の場合

 就業規則により、以下の事項等を定めて労働基準監督署に届け出ます。なお、10人未満の事業場においては、労使協定を締結する方法も例外的に認められています。

  • 対象労働者の範囲
  • 変形期間および起算日
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間(労使協定による場合)

1年単位の変形労働時間制の場合

 労使協定により、以下の事項等を定めて労働基準監督署に届け出ます。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、1年単位の変形労働時間制を採用する旨を就業規則に記載し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間および起算日
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間

1週間単位の変形労働時間制の場合

 労使協定により、1週間の労働時間が40時間以下になるように定め、かつこの時間を超えて労働させた場合には、割増賃金を支払う旨を定め、労働基準監督署に届け出ます。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、1年単位の変形労働時間制を採用する旨を就業規則に記載し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

 なお、1週間単位の変形労働時間制を採用するためには、1週間の各日の労働時間を該当1週間の開始する前までに労働者に書面で通知することが必要となっています。

過去の裁判例

JR西日本(広島支社)事件(広島高裁平成14年6月25日判決・労判835号43頁(原審:広島地裁平成13年5月30日判決・判タ1071号180頁))

事件の概要

 Y社は旅客運送業を営む会社であり、1か月単位の変形労働時間制を採用し、就業規則において毎月25日までに翌月の勤務指定を行うとするほか、業務上の必要がある場合は指定した勤務を変更するとの規定を置いていました。

 Y社は、その従業員であるXらに対し、年次休暇取得などによる乗務員の欠員などを理由に、地上勤務が予定されていたXらを乗務員勤務への勤務変更を命じるとともに、勤務変更後の勤務時間のうち変更前の勤務時間を超過する部分についても、割増賃金を支払いませんでした。

 Xらは、変更後の勤務時間が変更前の勤務時間を超過する部分については、1日7時間45分を超え8時間までの部分は労働協約に基づき、8時間を超える部分は労基法に基づき、それぞれ時間外労働として割増賃金支払請求権を有すると主張して、Y社に対し、同超過部分の時間外労働に対する割増賃金の支払を請求しました。

裁判所の判断

 Y社の採用する同条32条の2に基づく一か月単位の変形労働時間制においては、一方で当該事業の性質からくる労働力の不均等配分の必要性を充たすとともに、他方でこれにより規則正しい日常生活が乱されて健康を害したり、余暇時間や私生活の設計を困難にさせたりする労働者の生活上の不利益を最小限にとどめるよう配慮すべく、各勤務日の勤務時間については変形期間開始前にあらかじめ「特定」することで、労使の両利益のバランスを図ることを要求しているのである。

 そして、同条の「特定」の要件を満たすためには、労働者の労働時間を早期に明らかにし、勤務の不均等配分が労働者の生活にいかなる影響を及ぼすかを明示して、労働者が労働時間外における生活設計をたてられるように配慮することが必要不可欠であり、そのためには、各日及び週における労働時間をできる限り具体的に特定することが必要であると解するのが相当である。

 Y社就業規則55条1項ただし書は、「ただし、業務上の必要がある場合は、指定した勤務を変更する。」と規定するだけの一般的抽象的な規定となっているのであり、その解釈いかんによっては、Y社が業務上の必要さえあればほとんど任意に勤務変更をなすことも許容される余地があり、労働者にとって、いかなる場合に勤務変更命令が発せられるかを同条項から予測することは、著しく困難であるといわざるを得ない。

 よって、同条項の勤務変更規定は、労基法32条の2で法が要求する勤務時間の「特定」の要件を充たさないものとして、その効力は認められないと解するのが相当である。

 裁判所は上記のとおり判断し、勤務変更後の労働時間のうち、変更前に比べて長くなった部分につき超過金手当の支給を命じました。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日判決・労経速2506号3頁)

事件の概要

 Xは、昭和59年、Y社に正社員として入社し、別店舗での勤務を経て、平成29年5月以降は、24時間営業のA店で勤務していました。

 Y社は、就業規則において、店舗マネージャー(正社員)の労働時間について以下のとおり定めていました。

 (ア) 所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、1か月を平均して1週間40時間以内とする。

 (イ) 各社員に対して、前月末日までに勤務割で、各週各日の始業・終業時間を通知する。また、出張その他業務上の都合により、管轄事業場外で労働時間の一部又は全部について勤務した場合で、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間勤務したものとみなす。

 (ウ) 各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は、原則として次のとおりとする。

  ・Oシフト:午前5時~午後2時(休憩時間:午前9時より1時間)

  ・Dシフト:午前9時~午後6時(休憩時間:午後1時より1時間)

  ・Cシフト:午後3時~午前0時(休憩時間:午後8時より1時間)

  ・Nシフト:午後8時~午前5時(休憩時間:午後11時より1時間)

 Y社は就業規則において変形労働時間制を定めていましたが、A店では、就業規則とは異なる勤務シフトを独自に採用して勤務割を作成していました。

 Xは、Y社が就業規則において各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法等を具体的に定め、それに従って各日の勤務割を具体的に特定しているとはいえず、Y社の変形労働時間制の定めは労基法32条の2の要件を充足しないため無効であるとし、未払賃金の支払を求めました。

裁判所の判断

 1か月単位の変形労働時間制が有効であるためには、①就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、②就業規則において定める場合には労働基準法89条により各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業時刻も定める必要があり、③業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、各日の勤務割は、それに従って、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りるとされている(労働基準法32条の2第1項、労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)。

 これを本件についてみると、Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務していたA店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすと、被告が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない。

 労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない。加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(労働基準局長通達昭和22年9月13日基発17号)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することもできない。

 裁判所は上記のとおり判断し、Y社の定める変形労働時間制は無効であるとし、Xの時間外労働時間数に対応する未払割増賃金の支払を命じました。