コラム

2024/03/11

年次有給休暇

 年次有給休暇とは、一定の要件を満たした労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される有給の休暇のことをいいます。

 年次有給休暇については、しっかりと理解しておかないと労働者との間でトラブルになるケースも少なくありません。

 本コラムでは、年次有給休暇の法律上のルールについて解説いたします。

年次有給休暇に関する規定

 年次有給休暇とは、労働基準法第39条で認められた権利であり、これを行使することで労働者は賃金が支払われる休暇を取得することができます。

 業種・業態や、正社員・パートタイム労働者に関わらず、下記の要件を満たした従業員に対しては、勤続年数に応じて加算した日数の年次有給休暇を与えなければなりません。

  • 雇入れの日から6か月の継続勤務
  • 全労働日の8割以上出勤

継続勤務とは

 継続勤務とは、「労働契約の存続期間、すなわち在籍期間のことをいう」とされています。そのため、使用者と労働者との間の労働契約が継続しているかによって判断され、欠勤または休職の期間も継続勤務の期間として取り扱われます。

 ただし、形式的に労働契約が継続しているかどうかによってのみ判断されるわけではなく、勤務の実態に即して実質的に労働関係が継続しているか否かにより判断すべきとされています。

 そのため、例えば、定年退職者を引き続き嘱託社員として再雇用した場合等、その実態から見て引き続き使用されていると認められる場合は、実質的に労働関係が継続していると考えられ、継続勤務として取り扱われます。

全労働日とは

 全労働日とは、1年間(初年度は6か月)の暦日数から、就業規則等に定められた所定休日を除いた日数をいいます。

 なお、以下のような場合は、出勤日数に算入することが相当ではなく、全労働日に含まれません。

  • 不可抗力による休業日(新型コロナウィルスによる休業等)
  • 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
  • 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くされなかった日

出勤率の算定

 出勤率の算定に当たって、以下の期間は出勤したものとして取り扱われます。

  • 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
  • 産前産後の休業期間
  • 育児・介護休業の期間
  • 年次有給休暇を取得した日

年次有給休暇の付与日数

 週の所定労働日数が5日以上、または、週の所定労働時間が30時間以上の労働者に対する付与日数は次の表のとおりとなります(労働基準法39条2項)。

継続勤続年数 0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
付与日数 10 11 12 14 16 18 20

 有給休暇の取得は原則1日単位となりますが、使用者と労働者の労使協定によって時間単位での有給休暇の付与も認められます。

 また、このような労使協定がない場合であっても、使用者と労働者が合意した場合、半日単位での取得が可能になります。

パート・アルバイトなどの所定労働日数が少ない場合

 前述の通り、パートタイム労働者など、正社員と比べて所定労働日数が少ない労働者に対しても年次有給休暇は付与されます。

 週の所定労働日数が4日以下、かつ、週の所定労働時間が30時間未満の労働者に対する付与日数は次の表のとおりとなります(労働基準法施行規則24条の3)。

  所定労働日数 1年間の所定労働日数 継続勤務年数
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
付与日数 4日 169~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日 121~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48~72日 1 2 2 2 3 3 3

年次有給休暇に対する賃金の支払

 年次有給休暇を取得した場合に支払われる賃金の支払方法については、以下の3つの方法のいずれかになります(労働基準法39条9項)。

 どの支払方法を選択するかについては、就業規則等において明確に規定しておかなければなりません。

  1. 平均賃金
  2. 通常の賃金
  3. 健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する金額

①平均賃金

 平均賃金とは、年次有給休暇取得前の3か月間に労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総暦日数で割ることにより算出します。

 なお、賃金の総額には、時間外労働、深夜労働等に対する割増賃金や、通勤手当、皆勤手当等の諸手当も含まれます。

②通常の賃金

 通常の賃金とは、出勤をして所定労働時間を労働した場合に支払われる賃金のことで、日給制の場合はその金額、月給制の場合はその金額をその月の所定労働日数で除した金額(労働基準法施行規則25条1項4号)になります。

 歩合給については、「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(当該期間に出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金がない場合においては、当該期間前において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金が支払われた最後の賃金算定期間。以下同じ。)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額」(労働基準法施行規則25条1項6号)となります。

③健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する金額

 事前に労使協定を締結することによって、健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する額を年次有給休暇の一日分の賃金とすることもできます。

時季変更権

 労働基準法39条5項には、使用者は年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないと定められています。

 ただし、労働者から年次有給休暇の請求があっても、その時季が「事業の正常な運営を妨げる場合」、使用者は従業員から請求のあった有給休暇を他の時季に与えることができます(労働基準法39条5項ただし書)。これを「時季変更権」といいます。

「事業場の正常な運営を妨げる場合」とは

 「事業場の正常な運営を妨げる場合」については、以下に記載するような諸般の事情を考慮して客観的に判断されます。

  1. 事業の規模
  2. 業務内容
  3. 当該労働者の担当する職務の内容・性質
  4. 作業の繁閑
  5. 代替要員の確保の難易
  6. 時季を同じくして年次有給休暇を請求している他の労働者の人数
  7. 休暇取得に関するこれまでの慣行

 もっとも、単に繁忙であるといった理由だけでは時季変更権は認められません。

年次有給休暇の請求権の時効

 年次有給休暇の請求権の時効は労働基準法によって2年間となっているので、取得できなかった年次有給休暇は翌年度に繰り越すことができます。

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

労働基準法115条

 年次有給休暇制度の趣旨は労働者の心身の休養を図ることにあるので、法定内の日数について、使用者が年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて年次有給休暇日数を減じたり、請求された日数を与えないことは、労働基準法39条に違反するとされています。

 なお、労働者が年次有給休暇の請求権を行使せず、その後、時効、退職等の理由によって年次有給休暇が消滅するような場合に、残日数に応じて調整的・恩恵的に金銭を給付することは、事前の買上げと異なり、必ずしも法に違反するものではありません。

過去の裁判例

時事通信社事件(最高裁第三小法廷 平成4年6月23日判決)

事件の概要

 Y社の社会部記者Xは、時季を指定した上で約1か月間の長期連続休暇を申請しました。しかし、上司の社会部部長は、Xが不在では取材報道に支障を来すおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由から2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答した上、Xの時季指定については業務の正常な運営を妨げるものとして、時季変更権を行使しました。

 その後、Xの所属する労働組合とY社との間で時季指定と時季変更権の行使に関し団体交渉が行われたものの、妥協点を見いだせないまま、Xは、Y社の時季変更権の行使を無視して旅行に出発し、その間の勤務に就きませんでした。そのため、Y社は、Xを懲戒処分としてのけん責処分に処し、また、賞与を減じて支給しました。Xはけん責処分の無効確認、減額分の賞与支給等を求めて訴えを提起しました。

裁判所の判断

 労働者が、調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条三項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである。

 本件においては、社会部内において専門的知識を要するXの担当職務を支障なく代替し得る記者の確保が困難であった当時の状況の下において、Y社が、Xに対し、本件時季指定どおりの長期にわたる年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして、その休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、その裁量的判断が、労働基準法三九条の趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条三項ただし書所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。

八千代交通事件(最高裁第一小法廷 平成25年6月6日判決)

事件の概要

 タクシー運転手であるXは、解雇により2年余にわたり就労を拒まれましたが、解雇が無効であると主張してY社を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、勝訴判決が確定しました。

 その後、Xが復職した際に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかったところ、Y社はXが労働基準法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払いませんでした。

 そこでXは、Y社に対し、年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及び遅延損害金の支払を求め提訴しました。

裁判所の判断

 法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。

 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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