コラム

2023/06/12

スイーツ・ロー⑹ ~洋菓子店・和菓子店の内装デザインに関する模倣対応①~

店舗の内装デザインの重要性

 洋菓子店(パティスリー)・和菓子店にとって、店舗の内装デザインは、スイーツブランドのコンセプトやイメージを表すものとして重要です。これらを具現化した内装デザインは、店舗における顧客の体験をより豊かなものとし、商品であるお菓子・スイーツの魅力を伝える媒介となります。近時は、店舗内の様子を撮影してSNSに投稿する人も多く、内装デザインは、スイーツブランドの顔としての役割も果たすようになりました。そのため、最終的に選択された店舗の内装デザインは、洋菓子店・和菓子店のこだわりが反映されたものといえるでしょう。

 では、そのような店舗の内装デザインを他店に摸倣された場合洋菓子店・和菓子店は、法律上どのような請求ができるでしょうか。以下、次の事例をもとに検討してみましょう。

【事例】
 洋菓子店Xは、「大人のおうち時間」をコンセプトとするスイーツブランドを展開しており、主力商品は、国産チーズを使用したチーズケーキです。店舗の内装デザインは、同コンセプトに沿ったモダンなものとしており、ショーケース付近の内装に特徴があります。
 ある日、Xは、同店の内装と類似する洋菓子店Yがオープンしたことを知りました。XはYに対し、内装デザインの使用をやめさせることができるでしょうか。
 なお、Xは、店舗の内装デザインについて、これまで何らの出願もしていなかったものとします。

請求の根拠となり得る法律の検討

 Xが、Yに対し、店舗の内装デザインの使用をやめさせる(法律上は「差止請求」といいます。)にあたり、根拠となり得る法律としては、①意匠法、②商標法、③著作権法及び④不正競争防止法が考えられます。 

 もっとも、これら①~④の法律に基づく請求を行うためには、それぞれいくつかの要件を満たす必要があります。

(1) 意匠権侵害に基づく差止請求

①意匠法に基づく請求とは、意匠権侵害に基づく差止請求をいいます。
 令和元年の意匠法改正により、一定の要件を満たす場合、店舗の内装デザインも「意匠」として保護されることになりました2(意匠法8条の2)。

〈出典〉特許庁ウェブサイト IP・eplat「令和元年意匠法改正の概要」テキスト14頁

 もっとも、意匠権は、保護を受けようとする意匠を特許庁に出願し(意匠法6条)、審査を受けた後、設定登録によって初めて発生します(意匠法20条1項)。したがって、XがYに対し、①意匠権侵害に基づく差止請求を行うためには、店舗の内装デザインについて予め意匠出願をして登録を受けていなければなりません。

 Xは、店舗の内装デザインについて、これまで何らの出願もしていなかったということですから、①意匠権侵害に基づく差止請求を行うことはできません。

(2) 商標権侵害に基づく差止請求

 ②商標法に基づく請求とは、商標権侵害に基づく差止請求をいいます。
 店舗の内装デザインは、立体商標(商標法2条1項)として商標法上の保護を受けることができます。しかし、意匠権と同様、商標権についても、保護を受けようとする商標を特許庁に出願し(商標法5条)、審査を受けた後、設定登録によって初めて発生します(商標法18条1項)。

〈出典〉特許庁ウェブサイト 「事例から学ぶ 商標活用ガイド」6頁

 そのため、店舗の内装デザインについて商標出願をしていなかったXとしては、Yに対し、②商標権侵害に基づく差止請求を行うこともできません。

 このように、①意匠権侵害に基づく差止請求及び②商標権侵害に基づく差止請求は、前提として、権利取得のための手続(出願・登録)を事前に経ておくことが必要であり、これを欠いていた場合に選択することはできません。
 もっとも、このような権利取得のための手続を前提としない請求もあります。それが、③著作権侵害に基づく請求及び④不正競争行為の差止請求です。

(3) 著作権侵害に基づく差止請求

 ③著作権法に基づく請求とは、著作権侵害に基づく差止請求をいいます。
 著作権法は、著作物(著作権法2条1項1号)とされる代表的なものをいくつか例示しており(著作権法10条1項)、建築も著作物として保護されます(同項10号)。

〈出典〉文化庁ウェブサイト 「著作権テキスト-令和4年度版-」6頁

 そして、著作権法にいう建築の著作物には、建物外部の外観のみならず内装も含まれるため、店舗の内装デザインについても「建築の著作物」として保護され得るものです。
 また、著作権は、著作物の創作と同時に発生し、権利取得のための手続は不要です(著作権法17条2項)。
 したがって、Xとしては、店舗の内装デザインが「建築の著作物」にあたることを前提として、Yに対し著作権侵害に基づく差止請求を行うことが考えられます。

 もっとも、具体的な事案において、③著作権侵害に基づく差止請求を選択することは多くないと思われます。その理由は、(③の請求が前提としている)店舗の内装デザインが「建築の著作物」にあたるためのハードルが高いためです。
 裁判例3には、一般住宅が建築の著作物にあたるためには、「客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性」を備えることを要すると判示するものがあり、Xの店舗の内装デザインについても同様の要件を課される可能性があります。
 このように著作物性のハードルが高い以上、③著作権侵害に基づく差止請求は、少なくとも第一候補とはなり得ません。

(4) 不正競争行為の差止請求

 以上の検討を経た結果、残るは④不正競争防止法に基づく請求、具体的には、不正競争行為の差止請求が選択肢となります。同請求に関して、まずは不正競争防止法の規定を確認してみましょう。

不正競争行為の差止請求

 先述のとおり、不正競争防止法は、特定の行為を「不正競争行為」として列挙しています。本件のような店舗の内装デザインの模倣に関連して問題となるのは、このうち、

  • 周知な商品等表示の混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)
  • 著名な商品等表示の冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)

です。

(1) 周知な商品等表示の混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)

 まず、不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、…他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」(=周知な商品等表示の混同惹起行為)を禁止しています。その趣旨は、他人の氏名、商号、商標等、他人の商品等表示として需要者の間に広く知られているものと同一又は類似の表示を使用して、その商品又は営業の出所について混同を生じさせる行為を規制することにより、周知な商品等表示に化体された営業上の信用を保護し、もって事業者間の公正な競争を確保しようとする点にあります4

〈出典〉経済産業省ウェブサイト 「不正競争防止法2022」12頁

 ここにいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号括弧書)、商品の出所又は営業の主体を示す表示であることが必要です。例えば、株式会社イッセイミヤケのブランドである「BAO BAO ISSEY MIYAKE」の鞄の形態タイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを敷き詰めるように配置する等の特徴を備えたもの)について、「商品等表示」に該当すると判断した裁判例5があります。
 また、「需要者の間に広く認識されている」(周知性)とは、その商品等の取引の相手方(最終需要者に至るまでの各段階の取引業者も含みます。)において、少なくとも一地方で広く認識されていることを指します。

(2) 著名な商品等表示の冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)

 次に、不正競争防止法2条1項2号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」する行為(=著名な商品等表示の冒用行為)を禁止しています。

〈出典〉経済産業省ウェブサイト 「不正競争防止法2022」14頁

 著名な商品等表示の冒用行為(2号)は、周知な商品等表示の混同惹起行為(1号)と類似した規定となっていますが、次の2点で異なっています。

不正競争防止法
2条1項
不正競争行為 商品等表示の知名度 混同惹起の要否
1号 周知な商品等表示の混同惹起行為 周知性
(需要者の間に広く認識されている)
必要
2号 著名な商品等表示の冒用行為 著名性
(全国的に需要者以外にも広く認識されている)
不要

 第1に周知な商品等表示の混同惹起行為(1号)は、「需要者の間に広く認識されている」という周知性で足りますが、著名な商品等表示の冒用行為(2号)は、全国的に需要者以外にも広く認識されているという著名性6が必要です。

 2周知な商品等表示の混同惹起行為1号)は、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」でなければなりません。「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」とは、

 被冒用者と冒用者の商品又は営業の主体が同一であると誤信させる行為はもちろん、
 両者の間に緊密な営業上の関係や同一の表示を利用した事業を営むグループに属する関係があると誤信させる行為も指します。
 例えば、ある事業者が「スナックシャネル」及び「スナックシャレル」の表示を使用した場合、一般の消費者は、当該事業者とシャネル・グループの企業との間には密接な営業上の関係や同一の表示を利用した事業を営むグループに属する関係があると誤信するといえます。これが「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」です。
 他方で、著名な商品等表示の冒用行為2号)では、かかる混同は要件とされていません。その理由は、たとえ混同が生じていない場合であっても、著名な商品等表示を冒用する行為は、当該表示が有する顧客誘引力にただ乗りする不当な利用であり、他方で、被冒用者においてはブランドイメージの汚染や稀釈化が生じ、著名な商品等表示の財産的価値が侵害されるため、これを規制する必要があるからです。

(3) 店舗の内装デザインの「商品等表示」該当性

 以上を踏まえ、XがYに対し、④不正競争行為の差止めを請求する場合、Xとしては、Xの店舗の内装デザインが「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号及び2号)に該当し、Yがこれと類似する店舗の内装デザインを使用している旨、主張することが考えられます。

 では、果たしてXの主張は認められるでしょうか。この点については、関連する裁判例も含め、引き続き次回のコラムで取り上げたいと思います。

1. 本コラムにおいて「内装」とは、店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾をいうものとします(意匠法8条の2にいう「内装」と同内容を指すものとします。)。

2. 令和元年の意匠法改正の詳細は、特許庁ウェブサイト「令和元年意匠法改正特設サイト」にまとめられています。なお、同改正のうち、画像デザインの保護については、以前にこちらのコラムで解説しました。

3. 大阪高判平成16929日裁判所ウェブサイト〔グルニエ・ダイン事件〕。同事件では、グッドデザイン賞を受賞した一般住宅について「建築の著作物」にあたらないと判断され、著作物性が否定されています。

4. 経済産業省知的財産政策室『逐条解説経済不正競争防止法〔第2版〕』(商事法務、2019年)61頁参照。

5. 東京地判令和元年618日ジュリスト15398頁〔BAO BAO ISSEY MIYAKE事件〕

6. 著名性については、全国的に認識されていることが必要か、争いがあります。本文の記載は、全国的に認識されていることを要するという見解(経済産業省知的財産政策室『逐条解説不正競争防止法〔第2版〕』(商事法務、2019年)78頁参照)に基づいています。

7. なお、混同は現実に発生している必要はなく、混同が生ずるおそれがあれば足りるとされています。

8. 最判平成10910日判時1655160頁〔スナックシャネル事件〕参照。

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
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