コラム

2023/05/25

スイーツ・ロー⑷ ~平成30年食品衛生法改正とHACCPに沿った衛生管理の制度化~

平成30年食品衛生法改正の概要

 お菓子・スイーツに関する法律スイーツ・ロー/Sweets Law)の一つとして、「食品衛生法1」が挙げられます。

 食品衛生法は、食品の安全性確保飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康を保護することを目的とした法律です(食品衛生法1条)。我が国では、食品衛生法に基づき、食品及び添加物、器具及び容器包装、表示及び広告、食品添加物、監視指導、検査、登録検査機関、営業等に関し、様々な規制や措置が講じられています。

 食品衛生法は、昭和22年の制定後、これまで複数回にわたり改正されてきました。平成30年には食を取り巻く環境の変化国際化等に対応して食品の安全を確保するため、15年ぶりの改正(平成30年法律第46号によるもの)が行われました2

〈出典〉厚生労働省ウェブサイト・食品衛生法の改正について「背景・趣旨

 平成30年食品衛生法改正の概要は次のとおりですが、本コラムでは、このうち「HACCPに沿った衛生管理の制度化」を取り上げたいと思います。

〈出典〉厚生労働省ウェブサイト・食品衛生法の改正について「概要

HACCPに沿った衛生管理の制度化

(1) HACCPとは

 HACCP(ハサップ)とは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略称であり、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因を把握した上で(Hazard Analysis)、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程Critical Control Point=CCPを管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法をいいます3

 マドレーヌのような焼菓子を例として、考えてみましょう。

 焼菓子は、基本的に、①原材料・生地の調整②成形・加工③加熱といった工程を経て製造されます。このうち、③加熱工程加熱温度又は時間が不足すると、病原微生物(ノロウイルス、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌等)が残存する可能性があり、食中毒の原因となり得ます。これが、HACCPにおける(生物学的)危害要因の把握です。そのうえで、この危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程CCP)は、③加熱工程であるため、同工程においては、適切な加熱温度と加熱時間(マドレーヌの場合、レシピによって異なりますが、一例として180℃/15分)で管理が必要不可欠となります。

 このような衛生管理の手法であるHACCPは、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が設立した政府間組織であるコーデックス委員会から発表され、先進国を中心に義務化が進んでいました。

 そして、日本においても、平成30年改正後の食品衛生法の施行に伴い、令和2年6月以降、全ての食品等事業者に対し、HACCPに沿った衛生管理の実施が義務付けられました(食品衛生法51条1項2号及び同条2項)。全ての食品等事業者には、個人のパティシエ、洋菓子店、和菓子店等を含みますから、HACCPに沿った衛生管理の実施は、スイーツ業界全体に関わる事項といえます。

(2) HACCPに基づく衛生管理とHACCPの考え方を取り入れた衛生管理

 HACCPに沿った衛生管理には、次のとおり、

  1. 食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組
    (以下「HACCPに基づく衛生管理」といいます。)
  2. 取り扱う食品の特性に応じた取組
    (以下「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」といいます。)

の2種類があります。

〈出典〉厚生労働省ウェブサイト・HACCP(ハサップ)「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化

 

 ①HACCPに基づく衛生管理とは、コーデックス委員会が策定したHACCPの7原則に基づき、使用する原材料や製造方法等に応じて、衛生管理計画を作成し、管理を行うことをいいます。食品衛生法では、原則として、HACCPに基づく衛生管理の実施が求められています。

 もっとも、経営規模が小さい事業者にとっては、HACCPに基づく衛生管理をそのまま実施することが困難な場合もあり得ます。そこで、小規模な営業者等4(食品衛生法51条1項2号括弧書にいう「小規模な営業者…その他の政令で定める営業者」)は、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実施することで足ります。

 このように、②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、小規模な営業者等を対象とするため、①HACCPに基づく衛生管理と比較して簡略化されたアプローチが採用されています。具体的には、業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考にして、次の内容を実施することになります5

手引書の解説を読み、自分の業種・業態では、何が危害要因となるかを理解する。
手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備する。
その内容を従業員に周知する。
手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録する。
手引書で推奨された期間、記録を保存する。
記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す。

 特にスイーツ業界に関しては、全日本菓子協会ら作成の「HACCP の考え方を取り入れた菓子製造業における衛生管理計画作成の手引書6が公開されているため、参考にするとよいでしょう。

 なお、HACCPに沿った衛生管理は、従前から求められてきた衛生管理を「最適化」・「見える化」するものであり、衛生管理の手法(ソフト)に関する事項といえます。すなわち、HACCPに沿った衛生管理の制度化は、施設、設備等のハードの新設を求めるものではありません。この点は、厚生労働省ウェブサイト「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」(問2に対する回答)においても説明されていますので、ご参照ください。

まとめ

 以上、HACCPに沿った衛生管理の制度化を中心として、平成30年食品衛生法改正の概要を解説いたしました。ご参考になりましたら幸いです。

1. 平成30年改正後の食品衛生法に関する逐条解説としては、公益社団法人日本食品衛生協会『新訂 早わかり食品衛生法 食品衛生法逐条解説〈第7版補訂版〉』公益社団法人日本食品衛生協会(2022年)があります。

2. 平成30年改正後の食品衛生法の施行は三次にわたるものでしたが、いずれも既に施行済です。

3. 厚生労働省ウェブサイト「HACCP(ハサップ)」、厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全企画課監修『平成30年食品衛生法等改正の解説』中央法規出版(2018年)9頁参照。

4. 小規模な営業者等の内容は、食品衛生法施行令34条の2、食品衛生法施行規則66条の3及び同規則66条の4を参照。例えば、厨房で製造した菓子を併設又は隣接する店舗で販売する事業者は、小規模な営業者等に該当します。

5. 厚生労働省ウェブサイト「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」参照。小規模な営業者等は、の内容を実施していれば、食品衛生法512項の規定に基づき、同条1項の規定により定められた基準(一般衛生管理に関する基準及びHACCPに沿った衛生管理に関する基準)に従い、公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しているとみなされます。

6. なお、平成30年食品衛生法改正前の資料ですが、厚生労働省ウェブサイトでは、「食品製造におけるHACCP入門のための手引書」として、「生菓子編」及び「焼菓子編」が公表されています。

弁護士 弁理士 片木 研司

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