コラム

2023/03/30

スイーツ・ロー⑶ ~キャラクターケーキと著作権~

キャラクターケーキと著作権

 2021年11月、アニメ「鬼滅の刃」のキャラクターを描いたケーキを無断で製造販売したとして、パティシエが著作権法違反の疑いで書類送検されたとの報道がありました。

読売新聞オンライン 2021年11月9日19:03  記事

 報道にあるような漫画、アニメ等のキャラクターを描いたケーキは、「キャラクターケーキ」と呼ばれています。例えば、Instagramで「#キャラクターケーキ」と検索すると、本コラム執筆時点でも、誰もが知る有名な漫画、アニメ等のキャラクターを描いたケーキの画像が多数ヒットします。これら画像の投稿者は、顧客から注文を受けた洋菓子店、子供の誕生日のために作成した親のように、様々な方がいるように見受けられます。

 では、漫画のキャラクターをケーキに描く行為は、著作権法上、どのように考えられるでしょうか。

 本コラムでは、【漫画のキャラクターの権利者として考えられる主張】【キャラクターケーキ作成者として考えられる反論】を対比させて、考えたいと思います。

【漫画のキャラクターの権利者として考えられる主張】

(1) 主張の検討

 漫画のキャラクターの権利者として、漫画のキャラクターをケーキに描く行為が著作権侵害である旨主張するためには、少なくとも、次の2点を検討しなければなりません*1

  1. 漫画のキャラクターが「著作物」に該当すること
  2. 漫画のキャラクターをケーキに描く行為が、著作権法上の利用行為に該当すること

(2) ①漫画のキャラクターは「著作物」に該当するか?

 まず、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。そのため、「アイデア」は「表現」でないため「著作物」に該当しません。

 そして、結論として、(ケーキに描かれた対象である)漫画のキャラクター「著作物」に該当し、著作権法上、保護されると考えられます。

 この点、キャラクターを「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」であるとして、著作物性を否定した判例*2も存在します。もっとも、キャラクターは、著作権法上の用語ではなく、多義的に用いられています。そのため、「キャラクター=抽象的概念」という整理が常に成立するわけではありません。そして、(ケーキに描かれた対象である)漫画のキャラクターといった場合*3、「キャラクター=漫画に描かれた登場人物の具体的表現」と解され、この意味におけるキャラクターは著作物に該当します*4

(3) ②漫画のキャラクターをケーキに描く行為は「複製」に該当するか?

 次に、美術の著作物に該当する漫画のキャラクターをケーキに描く行為は、著作権法上、どのような問題があるでしょうか。

 著作権法は、著作物に関する一定の利用行為を列挙した上で、これらの行為をする権利は著作者が専有する旨規定しています(著作権法21条~28条)。そのため、これら利用行為を無断で行った場合には、著作権侵害が成立する可能性があります。

 そして、漫画のキャラクターをケーキに描く行為については、著作権法上の利用行為のうち、複製権(著作権法21条)の対象である「複製」に該当しないか、検討が必要です。

 「複製」とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいいます(著作権法2条1項15号)。大まかなイメージとしては、日常用語としての「コピー」が近いように思います。

 もっとも、著作権法が規定する「複製」は、日常用語としてのコピーよりも幅広い行為を含みます。すなわち、著作物の「複製」は、①既存の著作物と同一のものを作成する行為はもちろん、②既存の著作物の具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為も指す、とされています*5

 例えば、キャラクターが描かれた漫画をコピー機でコピーした場合、用紙に複写されたキャラクターは、既存の著作物(漫画に描かれたキャラクター)と同一であるといえます。そのため、かかる行為は、上記①とし「複製」に該当します。

 もっとも、キャラクターをクリーム、ソース、チョコレート等の材料でケーキという食品に描いた場合、材料や食品の特性上、再現性には自ずと制限があり、漫画に描かれたキャラクターの具体的表現と完全には同一にならない可能性もあります。もっとも、そのような場合であっても、当該ケーキに接した人が、漫画に描かれたキャラクターの表現上の本質的な特徴(≒エッセンス)を直接感じることができるならば、上記②として「複製」に該当することになります。特に、キャラクターケーキは、接した人が、漫画に描かれたキャラクターの表現上の本質的な特徴を直接感得できることに商品価値がある以上、多くの場合「複製」に該当するでしょう*6

 そして、漫画のキャラクターをケーキに描く行為が「複製」に該当する場合、かかる行為については、漫画のキャラクターの権利者が有する複製権(著作権法21条)を侵害するものとして、著作権侵害が成立します。

【キャラクターケーキ作成者として考えられる反論】

(1) 反論の検討

 漫画のキャラクターの権利者から、上記①②を理由として著作権侵害である旨の主張を受けた場合、キャラクターケーキ作成者としてはどのような反論を検討すべきでしょうか。この点については、少なくとも、次の3点が考えられます。

  1. 漫画のキャラクターは「著作物」に該当しない。

  2. 漫画のキャラクターをケーキに描く行為は「複製」に該当しない。

  3. 漫画のキャラクターが「著作物」に該当し、漫画のキャラクターをケーキに描く行為は「複製」に該当するとしても、著作権を制限する規定が適用される場面である。

 ①②は、漫画のキャラクターの権利者の主張(①②)を否定するもの(否認)です。もっとも、上記2で検討したとおり、①②の反論が認められる余地は少ないものと思われます。

 そこで、③について検討を進めてみましょう。

(2) 権利制限規定が適用される場面か?(著作権法30条:私的使用のための複製)

 著作権法は、著作物の利用行為(著作権法21条~28条)であっても、一定の場合には著作権を制限する旨の規定を置いています(著作権法30条以下)。かかる規定を権利制限規定といい、これが適用される場面では著作権侵害は成立しません。

 そして、本件では、著作権法30条が規定する私的使用のための複製にあたらないか、問題となります。

 著作権法30条は、次のとおり、規定しています。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

私的使用のための複製

 すなわち、著作物を「私的使用」(=個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること)を目的として複製するときは、著作権法30条が適用される結果、複製権が制限されることになります。

 それゆえ、キャラクターケーキ作成者が親であり、子どもの誕生日に家族で食べる目的で、漫画のキャラクターをケーキに描いた場合は、私的使用を目的として複製したものといえます*7この場合、著作権法30条が適用される結果、著作権侵害は成立しません

 他方で、キャラクターケーキ作成者が洋菓子店であり、顧客から注文を受けて、漫画のキャラクターをケーキに描いた場合は、私的使用を目的として複製したものといえません。この場合、著作権法30条は適用されませんから、著作権侵害が成立することになります。それゆえ、当該行為を適法に行うためには、権利者から許諾を得る必要があります。実際、洋菓子店が製造販売しているキャラクターケーキには、コラボ商品のように権利者から許諾を得ているケースも見受けられます。

 このように、著作権法30条が規定する私的使用のための複製にあたるか否かは、場合を分けて検討する必要があります。

 なお、漫画のキャラクターをケーキに描く行為が著作権侵害でないとしても、当該キャラクターケーキの写真をSNSに投稿する行為については、別途検討しなければなりません。

詳細は割愛いたしますが、この場合、著作権法30条は適用されないため、結論として、かかる行為については、キャラクターケーキの権利者の有する複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものとして、著作権侵害が成立する可能性が極めて高いと思われます。

著作権侵害に基づく法的責任

 以上の検討の結果、漫画のキャラクターをケーキに描く行為について著作権侵害が成立する場合、キャラクターケーキ作成者は、民事上及び刑事上の責任を負うことになります。

 現状、キャラクターケーキを無断で製造販売する行為の全てについて、権利者から権利行使がなされている訳ではありませんが、上記報道のとおり、刑事事件まで発展した例があることを踏まえると、そのリスクは極めて大きいものと思われます。

*1 正確には、その他検討すべき要件(依拠性、類似性等)もありますが、簡略化のため本コラムでは触れていません。

*2 最判平成9717日民集5162714頁(ポパイ・ネクタイ事件)

*3 やや分かりづらいですが、ここでは、問題となったケーキそれ自体に描かれた漫画のキャラクターではなく、元の漫画に描かれたキャラクターについて、著作物性を検討しています。仮に、元の漫画に描かれたキャラクターの著作物性が否定される場合、そのようなキャラクターをケーキに描いたとしても、著作権侵害は成立しません。

*4 他方で、小説のキャラクターといった場合、これは小説に描かれた登場人物の氏名、性格、役柄等であって、抽象的概念であることが多く、かかる意味におけるキャラクターは著作物に該当しません。

*5 知財高判平成27624日裁判所ウェブサイト(プロ野球ドリームナイン事件)参照。

*6 なお、漫画のキャラクターをケーキに描くにあたり、パティシエが創作的な表現を独自に付加していた場合は、著作物の利用行為のうち「翻案」(著作権法27条)の該当性を検討することになります。

*7 ただし、キャラクターケーキ作成者が親であるからといって、常に私的使用を目的として複製したといえるわけではありません。この点、島並良=上野達弘=横山久芳『著作権法入門〔第3版〕』有斐閣(2021年)179頁は、「複製行為自体が家庭内でなされても、家庭外で多数者に鑑賞させることを目的としてなされたのであれば」、著作権法30条の権利制限の正当化根拠からして、同条によっても複製権は制限されないとしています。

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
大阪弁護士会
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