コラム

2023/03/09

スイーツ・ロー⑵~そのプリン、商標登録できますか?(菓子名を含む商標の出願と商標法4条1項16号)~

商標法4条1項16号の拒絶理由

 前回のコラムでは、菓子名を含む商品名(〇〇プリン等)の商標出願にあたり、商標法313号の拒絶理由を検討しました。

 本コラムでは、菓子名を含む商品名(〇〇プリン等)の商標出願と商標法4116号の拒絶理由について、検討したいと思います。

(1) 商標法4条1項16号の規定

 まず、商標法4条は、次のとおり規定しています。

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

商標登録を受けることができない商標

 商標法4116より、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」は商標登録を受けることができません。同規定の趣旨は、「商標が表する観念と当該商標を付した商品とが符合しないために、取引者、需要者が錯誤に陥ることを防止して、取引者・需要者の保護を図る*1」点にあります。

 16号にいう「商品の品質」は、産地、販売地、旧国名、旧地名、原材料等も含まれ、商品の特性を表すものと解されています*2。また、「誤認を生ずるおそれ」とは、商標が表す商品の品質等を有する商品の製造、販売又は役務の提供が現実に行われていることは要せず、需要者がその商品の品質等を誤認する可能性がある場合をいいます*3

(2) 【事例】「ソフトプリン」の文字からなる文字商標

 以上が商標法4条1項16号の規定の解説ですが、これだけでは具体的な適用場面が想像しづらいと思います。

 そこで、次の事例を検討してみましょう。

【事例】
 「ソフトプリン」の文字からなる文字商標(以下「本願商標」という。)を、第30類「菓子」を指定商品として商標出願した。

 前回のコラム4(1)で述べたとおり、本願商標と同様の構成の商標について、審決(無効2003-035351は、「ソフトな(柔らかな)プリン」(食品の品質)を表わすものとして、これを短く直接的に「ソフトプリン」と表現したものと理解、認識されるものと判断するのが相当としています。

 つまり、本願商標は、あくまでもプリンの品質を表したものとして認識され、同じ菓子でも、例えば、ドーナツ、クッキー等又はそれらの品質を表したものとは認識されません。

 しかし、ここで問題となるのは、本願商標の指定商品が「菓子」と幅広く指定されている点です。「菓子」には、プリン以外にもドーナツ、クッキー等の菓子が含まれています。すると、仮に本願商標を「プリン」以外の菓子であるドーナツに使用してしまうと、需要者は、(本願商標=プリンの品質を表したものと認識しているため)、商品であるドーナツについて品質等を誤認する可能性があります。これが、商標法4条1項16号にいう「商品の品質…の誤認を生ずるおそれ」です。

 したがって、本願商標は、商標法4116号の拒絶理由に該当します*4

(3) 菓子を指定商品とする必要性?

 もっとも、【事例】について、別の観点から分析することも可能です。それは、本願商標の出願にあたり、そもそも「菓子」を指定商品とする必要があったのか、という点です。

 本願商標に「プリン」の文字が含まれる以上、出願者は、本願商標について、本来的には「プリン」に使用することを考えていたと思われます。逆に言えば、出願者が、本願商標について、「プリン」以外の菓子(ドーナツ、クッキー等)に積極的に使用することを考えていたケースは稀であるように考えます。

 このように、商標を本来的に使用する予定の商品から考えていくと、「菓子」を指定商品とするまでの必要性はなかったということがあり得ます。

 他方で、特許庁に納付する手続費用(出願料、登録料等)は、区分数に応じて算出されます。

 そして、「菓子」及び「プリン」は同一区分(第30類)に属する以上、指定商品を「菓子」と幅広く指定しても、「プリン」と限定して指定しても、手続費用は同一です。このように手続費用が同一ならば、指定商品を「菓子」と幅広く指定するという考え方もあり得るところです。

 もっとも、かかる場合には、商標法4条1項16号の拒絶理由に該当する可能性があることを踏まえ、その後の対応(下記1(4)で述べる指定商品の補正)について、十分に検討しておくべきでしょう。

(4) 拒絶理由通知への対法(指定商品又は指定役務の補正)

 商標法4条1項16号に該当する旨の拒絶理由通知を受けた場合、要旨の変更(商標法16条の2)とならない限り、指定商品又は指定役務を品質又は質の誤認を生じない商品又は役務に補正することができます。そして、指定商品又は指定役務の範囲の減縮、誤記の訂正又は明瞭でない記載を明瞭なものに改めることは、要旨の変更ではないとされています*5

 したがって、【事例】においても、指定商品「菓子」を「プリン」に補正することは可能であり、この場合、商標法4条1項16号の拒絶理由は解消します*6

商標法3条1項3号と4条1項16号の関係性

 なお、商標法4条1項16号は、商標法3条1項3号表裏一体の規定といわれています。実務上も、「本願商標は…商標法第3条第1項第3号に該当し、…以外の商品に使用するときは、商標法第4条第1項第16号に該当します。」として、両規定に該当する旨記載された拒絶理由通知を受けることがままあります。

 これは、多くの場合、商標法3条1項3号に該当する商標を、その品質等を表示するとされた特定の商品以外の商品に使用すると、あたかもその商品が当該特定の商品の品質等を有するかのように品質を誤認するおそれ(商標法4条1項16号)があるからです。

まとめ

 以上、2回に分けて、プリンを題材に、菓子名を含む商品名の商標出願について取り上げました。

 当事務所では、「スイーツ・ロー」(Sweets Law)について重点的に取り扱っております。パティシエとして活動されている個人の方はもちろん、洋菓子店や和菓子店、製菓・菓子業界の企業の皆様におかれましても、ご不明な点がございましたら、当事務所までお問い合わせください。

*1 金井重彦=鈴木將文=松嶋隆弘編『商標法コンメンタール〔新版〕』勁草書房(2022年)206

*2 前掲注1参照。

*3 特許庁編『商標審査基準〔改定第15版〕』第3-十四-2参照。

*4 小野昌延=三山峻司編『新・注解商標法〈上巻〉』青林書院(2016年)519頁では、別の例として、商標が「桜羊羹」、指定商品が「菓子」である場合が記載されています。なお、同書籍の商標法4116号に関する記述は、その他の具体例も豊富であり、非常に参考になります。

*5 特許庁編『商標審査基準〔改定第15版〕』第131(1)参照。

*6 【事例】のモデルとした商願平10-63374も、出願時は指定商品を第30類「菓子及びパン」としていましたが、その後、手続補正書をもって、第30類「プリン」に補正しています。なお、令和2年以降、菓子は、主原料によって異なる区分(第29類と第30類)に分類されていますが、【事例】では、説明の便宜上、指定商品を第30類「菓子」としています。

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
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