コラム

2023/03/06

スイーツ・ロー⑴~そのプリン、商標登録できますか?(菓子名を含む商標の出願と商標法3条1項3号)~

お菓子・スイーツに関する法領域 “スイーツ・ロー”

 「お菓子・スイーツに法律が関係している。」というと、少し奇妙に思われる方もいらっしゃるかもしれません。もっとも、お菓子・スイーツも「商品」として社会・経済活動に組み込まれているため、様々な場面で法律が適用されます。

 例えば、パティシエXがスイーツブランド「A」を立ち上げ、ブランド名「A」を商品に焼印して製造販売する事例を考えてみましょう。この事例で、菓子メーカーYXに先行して、商標「A」を「菓子」を指定役務として商標登録を受けていたとすると、商標法が適用され、Xは、Yから商標権侵害に基づく差止請求及び損害賠償請求を受ける可能性があります。このような事態を避けるためには、Xは、そもそもブランド名の決定にあたり、A」について先行商標がないか、事前に確認する必要があったということになります。

 以上はあくまで一例であり、お菓子・スイーツについて検討すべき法律問題は多岐にわたります。そこで、これらお菓子・スイーツに関する法領域を総称して「スイーツ・ロー」(Sweets Lawと定義した上、今後、スイーツ・ローをテーマとするコラムを継続的に掲載する予定です。

 本コラムは、第1弾として、プリンを題材に、菓子名を含む商品名の商標出願について取り上げます。

 例えば、「ソフトプリン」のように「〇〇プリン」という商品名は商標登録できるでしょうか。本コラムでは、審決例・登録例を紹介しつつ、「そのプリン、商標登録できますか?」に対し回答したいと思います。

商標登録による商品名の保護

 お菓子・スイーツの商品名を保護するための方策として、当該商品名を特許庁に商標出願して登録を受け、商標権を取得することが考えられます。

 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標を独占排他的に使用すること(商標法25条)及び登録商標の類似範囲に属する商標を他人が使用することを禁止すること(商標法37条1項)ができ、自己の商標権が侵害された場合には、差止請求(商標法36条1項)及び損害賠償請求(民法709条)が可能です。この点は、上記1で触れた事例(商標権者YからXに対する請求)をご参照ください。

 もっとも、商標登録は、商標法3条及び4条の要件を満たす場合に受けることができ、これらの要件を満たさないことは登録拒絶理由となります。そして、菓子名を含む商品名(〇〇プリン等)の商標出願*2にあたっては、商標法3条1項3号及び4条1項16号の拒絶理由に該当しないか、特に検討が必要です。

商標法3条1項3号の拒絶理由

(1) 商標法3条1項3号の規定

 まず、商標法3条は、次のとおり規定しています。

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

(略)

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

商標登録の要件

 少し分かりづらい規定ですが、商標法3条1項3号より、

(ⅰ) 「商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格」(以下、「商品又は役務の特徴等」といいます。)を

(ⅱ) 普通に用いられる方法で表示する

(ⅲ) 標章のみからなる商標

は、商標登録を受けることができません。

 なぜなら、(ⅰ)(ⅲ)の要件を満たす商標は、取引上一般的に使用されているため、識別力(自己の商品又は役務と他人の商品又は役務を識別できること)がありませんし、取引上、いずれの人も使用する必要性が高いため、特定の人物に独占使用を認めることは公益上適当でないからです。

(2) 各要件の詳細

 次に、(ⅰ)(ⅲ)の要件に関し、もう少し詳しく見ていきましょう。

 (ⅰ)「商品又は役務の特徴等」については、当該商標がその指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識する場合に満たすとされています。他方で、当該商標が商品又は役務の特徴等を間接的に表示する場合は、(ⅰ)を満たしません*3。それゆえ、菓子名を含む商品名(〇〇プリン等)の商標出願との関係では、まずは、商標の構成中、「〇〇」の部分が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識されるか否か、検討が必要となります。

 (ⅱ)「普通に用いられる方法で表示する」とは、商品又は役務の取引の実情を考慮して、その標章の表示の書体や全体の構成等が、取引者において一般的に使用されている範囲に留まるものをいいます。したがって、取引者において一般的に使用する範囲に留まらない特殊なレタリングを施して表示するもの又は特殊な構成で表示するものは、(ⅱ)を満たしません*4

 また、(ⅲ)のみからなる商標」であるため、商品又は役務の特徴等と他の識別力のある標章が組み合わされた商標(結合商標)は、(ⅲ)を満たしません*5

(3) 「カリカリクッキー」の文字からなる標準文字商標の検討

 以上を踏まえ、「カリカリクッキー」の文字からなる標準文字商標*6について、検討してみます。
当該商標の構成中、「カリカリ」の文字は、「水分を失って堅くなったさま。」の意味を有するといえ、また、「カリカリ」の文字は、食品を取り扱う業界において多数使用されているといえます。すると、当該商標は、結局のところ、「カリカリとした食感のクッキー状の加工商品」の意味合いを認識させるに留まり、これを「カリカリとした食感のクッキー状の加工商品」という指定商品に使用したとしても、取引者及び需要者は、(ⅰ)単に商品の品質を表示するものと認識します。そして、当該商標は、(ⅱ)標準文字商標であって、文字に特殊なレタリングが施されたわけでもなく、(ⅲ)他の識別力のある標章が組み合わされたわけでもありません

 それゆえ、「カリカリクッキー」の文字からなる商標を、「カリカリとした食感のクッキー状の加工商品」を指定商品として出願したとしても、(ⅰ)~(ⅲ)の要件を満たすため、商標法3条1項3号の拒絶理由に該当します*7

「プリン」という菓子名を含む商標の審決例・登録例

(1) 3号該当性に関する近時の審決例 

 では、「プリン」という菓子名を含む商品名(〇〇プリン)を商標出願した場合、具体的にどのような場合に3号の拒絶理由に該当するでしょうか。この点に関する近時の審決例は下表①~④のとおりです。

  審判種別 審判番号 争われた商標
(商願平10-63374)
区別 指定商品 3号該当性
無効 2003-035351 30 プリン 該当
 本願商標は、「ソフトな(柔らかな)プリン」(食品の品質)を表わすものとして、これを短く直接的に「ソフトプリン」と表現したものと理解、認識されるものと判断するのが相当であり、また、本願商標は、単に「ソフトプリン」の文字を、ごく普通に用いられる書体で表わしているにすぎないものである。
 したがって、本願商標は、これを指定商品の「プリン」に使用する場合には、その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当するものといわなければならない。
  審判種別 審判番号 争われた商標
(商願2002-45773)
区別 指定商品 3号該当性
拒絶 2004-007748 30 プリン 非該当
 本願商標は、赤色四角図形の内側に四隅に装飾を施した輪郭図形内部に「神戸プリン」の文字をやや特徴ある字体で、まとまりよく表してなるものである。そして、その構成中「神戸」の語が「兵庫県神戸市」を表し、「プリン」の語が指定商品を表示するとしても、かかる構成全体からは、指定商品との関係において、原審説示の如き意味合いを直ちに看取し得るものとはいい難く、かつ、職権をもって調査するも、該文字が、指定商品を取り扱う業界において、商品の品質等を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を発見することもできなかった。そうすると、本願商標は、これをその指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものといわなければならない。
  審判種別 審判番号 争われた商標
(商願2008-53631)
区別 指定商品 3号該当性
拒絶 2009-008582

(標準文字)

30 プリン,プリンのもと,プリンの風味を有してなる菓子及びパン,プリンの風味を有してなるアイスクリームのもと,プリンの風味を有してなるシャーベットのもと,プリンの風味を有してなる即席菓子のもと 該当
 本願商標は、「バケツプリン」の文字を書してなるにすぎないものであり、これよりは「バケツに入ったプリン」の意味を容易に理解、認識させるものであり、また、上記のとおり一般に使用されているものであるから、これをその指定商品中「バケツに入ったプリン」について使用しても、これに接する取引者、需要者は、その商品が「バケツに入ったプリン」であること、すなわち、商品の品質、量、形状を表示したものと認識するにとどまるものであって、自他商品の識別標識としては機能し得ないものというべきである。
  審判種別 審判番号 争われた商標 区別 指定商品 3号該当性
拒絶 2019-002233

(標準文字)

30 壷を容器とするプリン 該当

 「壷プリン」の文字からなる本願商標をその指定商品である「壷を容器とするプリン」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、壷型の容器に入れられたプリンであること、すなわち、商品の品質を表したものとして理解、認識するにとどまり、商品の出所を表示する標識又は自他商品の識別標識として認識することはないとみるのが相当である。

 3号該当性を肯定した①③④は、いずれも文字商標の事案(うち③④は標準文字)でした。例えば、①では、当該商標が「ソフトな(柔らかな)プリン」(食品の品質)を表わすものとして、これを短く直接的に「ソフトプリン」と表現したものと理解、認識されるものと判断するのが相当とされている点がポイントといえます*8

 他方で、3号該当性を否定した②は、図形と文字の結合商標の事案です。原査定である拒絶査定は、「本願商標は、赤色四角形と四角形の輪郭内に地名『神戸』の文字と『プリン』の文字を書してなるから、これをその指定商品に使用しても、単に商品の産地、販売地、名称、種類を表示するにすぎないものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。」と判断していました。もっとも、②では、当該商標の構成全体からはそのような意味合いを直ちに看取しえないとして、3号該当性を否定しています。そのため、仮に当該商標が「神戸プリン」の文字からなる標準文字商標であった場合、3号該当性が肯定された可能性は高いでしょう*9

 このように、①~④の審決例の結論を一見すると、「プリン」という菓子名を含む商品名(〇〇プリン)を標準文字商標として出願したとしても、多くの場合、3号の拒絶理由に該当するように思えます。

(2) 「プリン」という菓子名を含む商標の近時の登録例

 しかし、「プリン」という菓子名を含む商標の近時の登録例を検索すると、一概にそのように言えないことがわかります。なぜなら、下表で示すとおり、「プリン」という菓子名を含む商品名(〇〇プリン)を標準文字商標として出願し、実際に登録を受けた例は多数存在しているからです*10

  登録番号 登録商標 区分 指定商品
登録4846905

(標準文字)

30 プリン,角砂糖,果糖,氷砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,プリンのもと
登録5034335

(標準文字)

30 プリン
登録5255877

(標準文字)

30

プリン,プリン風味の菓子及びパン,プリン風味のアイスクリームのもと,プリン風味のシャーベットのもと,プリン風味のソフトクリームのもと,プリンのもと,プリン風味の即席菓子のもと

登録5537040

(標準文字)

30 プリン
登録5651526

(標準文字)

30 プリン,プリンの風味を有する菓子及びパン,プリンの風味を有するアイスクリームのもと,プリンの風味を有するシャーベットのもと,プリンのもと,プリン風味の即席菓子のもと
登録5833188

(標準文字)

30 コーヒー及び粉状のココアを使用したプリン,乳等を主原料とするカフェオレを使用したプリン,プリン,フルーツゼリー(菓子)を使用したプリン,ムースを使用したプリン,アイスクリームのもとを使用したプリン,シャーベットのもとを使用したプリン
登録5940875

(標準文字)

30 プリン,プリンの風味を有する菓子,プリンの風味を有するパン,プリンの風味を有するサンドイッチ,プリンの風味を有する中華まんじゅう,プリンの風味を有するハンバーガー,プリンの風味を有するピザ,プリンの風味を有するホットドッグ,プリンの風味を有するミートパイ

 特に、⑤~⑦は、その構成中「ぷるるん」、「とろろん」、「とろふわ」の語が、①で争われた商標の構成中「ソフト」とそれぞれ近いイメージを有するといえます。同様に、⑧は、その構成中「ビーカー」の語が、③で争われた商標の構成中「バケツ」と、④で争われた商標の構成中「壷」とそれぞれ近いイメージを有するといえます。もっとも、⑤~⑧は、①、③、④とは異なり、いずれも商標登録を受けています。

(3) 「プリン」という菓子名を含む商標の出願にあたって検討すべきこと

 すると、結局は、「プリン」という菓子名を含む商標の出願にあたっては、当該商標の構成を分析した上で、当該商標がその指定商品又は指定役務に使用されたときに、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識するといえるか、個別に判断するほかありません。

 例えば、「〇〇プリン」という標準文字商標の構成中、〇〇の部分が、識別力の高い造語又は指定商品又は指定役務と関連性がなく通常用いられることがない語であれば、当該商標は、その指定商品又は指定役務に使用したとしても、取引者又は需要者が商品又は役務の特徴等を表示するものと一般に認識するとはいえず、商標法313号には該当しないものと考えられます。

商標法3条2項の適用

 なお、菓子名を含む商標が商標法3条1項3号に該当するとしても、商標法3条2項の要件を満たす場合当該商標は登録を受けることができます

第三条 

(略)

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

商標登録の要件

 もっとも、商標法32項にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは、何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいいます*11。それゆえ、商標法32項のハードルは極めて高く*12、立ち上げ直後のスイーツブランドの場合、同規定の適用を受けることは困難です。

商標法4条1項16号の拒絶理由

 以上、菓子名を含む商品名(〇〇プリン等)の商標出願にあたり、商標法313号の拒絶理由を検討してきました。

 次回コラムでは、当該商標出願と商標法4116号の拒絶理由の検討を進めたいと思います。

*1 令和2年以降、菓子は、主原料によって異なる区分(第29類と第30類)に分類されることになりました。そのため、新たに商標出願する場合、菓子に関する指定商品の記載はやや注意が必要です。この点は、改めてコラムで解説したいと思います。

*2 本コラムで取り上げる「菓子名を含む商品名の商標出願」とは、「〇〇プリン」のように、普通名称である菓子名(プリン)と何らかの語(〇〇)が組み合わされたものを指しています。仮に、普通名称である菓子名(プリン)のみを「菓子」を指定商品として出願した場合は、商標法311号の拒絶理由に該当する可能性があります。

*3 特許庁編『商標審査基準〔改定第15版〕』第1-五-1参照。

*4 特許庁編『商標審査基準〔改定第15版〕』第1-五-5参照

*5 茶園成樹『商標法〔第2版〕』有斐閣(2020年)47頁参照。

*6 標準文字とは、特許庁長官の指定する文字(商標法53項)をいい、標準文字商標は、文字商標において、文字の書体、段組等の態様を捨象した出願及び権利化を認めるものといえます。通常の登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定められますが(商標法183項、271項)、標準文字による旨を願書に記載した上で、商標登録を受けようとする商標を願書に直接記載した場合、その登録商標の範囲は、願書に記載した商標そのものではなく、標準文字に置換して表したものに基づいて定められます。ただし、標準文字による登録商標の権利範囲が、通常の登録商標と比較して狭い又は広いということはありません。詳細は、特許庁ウェブサイト「標準文字の指定に関するQ&AA2-3をご参照ください。

*7 本事例は、不服2009-1281の事例を簡略化したものです。

*8 ①で争われた商標については、次のとおり、複数の審決が存在します。第1審決(不服2000-3752、拒絶査定不服審判)では、商標法313号該当性が否定され、当該商標は商標登録を受けました(登録第4570334号)。かかる商標登録に対しては、登録異議申立てがなされましたが、第2審決(異議2002-90570)は、同様に3号該当性を否定し登録は維持されています。もっとも、2003年に無効審判が請求され、第3審決(①無効2003-35351)においては、本文のとおり3号該当性が肯定された結果、当該商標登録は無効とされました。かかる事例が示すとおり、無事に商標登録を受けたとしても、後に3号該当性が肯定された場合には商標登録が無効となる危険性が存在します。

*9 類似の事例として、「中津川モンブラン」の文字からなる標準文字商標について、商標法313号該当性を肯定した審決が存在しています(不服2009-4173)。

*10 下表の登録例は、「プリン」という菓子名を含む標準文字商標を出願し、登録を受けたもののごく一部です。なお、標準文字以外の文字商標、結合商標まで範囲を広げれば、「プリン」という菓子名を含む商標の登録例は更に多数存在しています。

*11 特許庁編『商標審査基準〔改定第15版〕』第22参照。

*12 商標法32項の適用が認められた審決例としては、不服2010-28575(「堂島ロール」文字を横書きしてなり、第30類「ロールケーキ」を指定商品として出願された商標が争われた事例)が存在します。

弁護士 弁理士 片木 研司

所属
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