商標権の存続期間と更新 ~令和3年商標法改正による商標権の回復要件の緩和~
商標の登録出願、登録査定、設定登録を経て、商標権を取得した後の手続として、「商標権の更新」があります。
商標権は、存続期間のある有限の権利ですが、法律上、更新制度が用意されています。商標権の更新に関する近時の動向としては、①特許庁による特許(登録)料支払期限通知サービス(メールを利用して更新登録の申請期間をお知らせするサービス)が既に実施されているほか、②令和3年商標法改正*1による商標権の回復要件の緩和についても、令和5年4月1日より施行予定です。
本コラムでは、商標権の存続期間と更新について、令和3年商標法改正にも触れつつ解説します。
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商標権の存続期間
まずは、商標法の条文を確認しましょう。
商標権の存続期間については、次のとおり、商標法19条に規定されています。
(存続期間)
第十九条 商標権の存続期間は、設定の登録の日から十年をもつて終了する。
2 商標権の存続期間は、商標権者の更新登録の申請により更新することができる。
3 商標権の存続期間を更新した旨の登録があつたときは、存続期間は、その満了の時に更新されるものとする。
すなわち、商標権の存続期間は、設定登録の日から10年間をもって終了します(商標法19条1項)。
もっとも、更新登録の申請を行うことで、何度でも存続期間を更新することが可能です(商標法19条2項・3項)。つまり、商標権については、10年毎に存続期間の更新を繰り返すことで、半永久的に権利を保有できます。この点を指して、商標権は「半永久権」ともいわれています。
商標権の更新登録の申請
それでは、商標権の存続期間に関する「更新登録の申請」とは、どのような手続でしょうか。
(1) 誰が申請できるか?【主体】
(2) いつ申請できるか?【期間】
(3) どのような方法で申請できるか?【手続】
(4) いくらで申請できるか?【費用】
について、順に解説したいと思います。なお、以下では、設定登録料を10年分一括で納付していた場合を前提とします。
(1) 誰が申請できるか?【主体】
更新登録の申請者は、商標権者に限られています(商標法19条2項)。
そのため、例えば、ライセンス契約により商標権に使用権が設定されている場合でも、使用権者は更新登録の申請を行うことはできません。
(2) いつ申請できるか?【期間】
<前提>特許庁からの通知はないため、自ら期限管理をする必要あり
まず、重要な前提として、下記4で紹介する特許(登録)料支払期限通知サービスの登録をした場合を除き、特許庁から、存続期間の満了日や更新登録の申請期間に関する通知はありません。
そのため、更新登録の申請にあたっては、商標権者自らが期限管理をする必要があります。
<原則的な申請期間>商標権の存続期間の満了前6月から満了日までの間
更新登録の申請は、原則、商標権の存続期間の満了前6月から満了日までの間にしなければなりません(商標法20条2項)。

ポイントは、更新登録申請が可能となる始期も定められている点です。仮に、上記例で22年5月25日に申請した場合、期間外の申請となり受理されないため、注意を要します。
なお、申請期間の基準となる「商標権の存続期間の満了日」は、商標登録証に同封されている「商標権設定登録通知書」と題する書面に記載されています。
<例外的な申請期間>原則的な申請期間経過後6月以内
もっとも、上記の原則的な申請期間を経過した後であっても、更新登録の申請には例外的な手続が用意されています。
具体的には、商標権の存続期間の満了前6月から満了日までの「期間内に更新登録の申請をすることができないとき」は、同期間の経過後6月以内は更新登録の申請が可能です(商標法20条3項、商標法施行規則10条2項)。

ここで、重要な点は2点です。
1点目は、「期間内に更新登録の申請をすることができないとき」にいう、「できない」理由は問われないということです。そのため、仮に、上記原則的な申請期間(商標法20条2項)を不注意で失念していた場合であっても、「期間内に更新登録の申請をすることができないとき」にあたり、同期間の経過後6月以内であれば、更新登録を申請できます。
2点目は、この場合、下記2(4)で述べる更新登録料(商標法40条2項)と同額の「割増登録料」を併せて納付する必要があることです(商標法43条1項本文・2項本文)。更新登録料は、令和4年11月現在、1区分あたり4万3600円(10年分一括納付の場合)ですから、商標の指定商品及び指定役務の区分が複数ある場合、割増登録料の負担も比例的に重くなります。
ただし、令和3年改正後の商標法(令和3年10月1日施行)では、「その責めに帰することができない理由」により、上記原則的な申請期間(商標法20条2項)内に更新登録料を納付できなかったときは、割増手数料の納付が免除されています(43条1項但書・2項但書)。対象となる案件や手続方法に関しては、特許庁ウェブサイト「権利維持のための特許(登録)料の納付の流れについて」をご参照ください。
<救済措置>商標権の回復:正当な理由基準(令和3年改正前の商標法)
上記例外的な申請期間(商標法20条3項)内に更新登録の申請をしないときは、商標権は、存続期間の満了の時に遡って消滅したものとみなされます(商標法20条4項)。
もっとも、この点については、令和3年改正前の商標法においても、救済措置が設けられていました。
すなわち、上記例外的な申請期間(商標法20条3項)内に更新登録の申請がされず、商標権が消滅したとみなされた場合であっても、
- 申請ができなかったことについて「正当な理由」があるときは
- ①の正当な理由がなくなった日から2月以内で
- 上記例外的な申請期間(商標法20条3項)の経過後6月以内
であれば、更新登録の申請が可能です(商標法21条1項、商標法施行規則10条3項)。
そして、この商標法21条1項に基づく更新登録の申請があったときは、商標権の存続期間は、その満了のときに遡って更新されたものとみなされ、商標権が回復します(商標法21条2項)。また、更新登録料(商標法40条2項)と同額の「割増登録料」を併せて納付する必要がある点は、商標法20条3項に基づく更新登録の申請の場合と同様です(商標法43条1項・2項)。
なお、回復した商標権の効力については、制限がされています(商標法22条)。

他方で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた場合(例:更新登録申請人が新型コロナウイルス感染症に罹患し手続を行えなかった)については、当面の間、比較的柔軟な対応がとられています。
どのような場合に①の「正当な理由」に該当するかは、特許庁ウェブサイト掲載の「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン(令和3年4月26日改訂版)」 が参考になります。もっとも、あくまで「正当な理由」ですので、期間徒過の原因となった事象が予測可能であると言える場合(例:計画停電によるオンライン手続不能)は、原則、「正当な理由」に該当しないとされています。
他方で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた場合(例:更新登録申請人が新型コロナウイルス感染症に罹患し手続を行えなかった)については、当面の間、比較的柔軟な対応がとられています。
具体的には、
- 新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことを裏付ける証拠書類の提出が、必須とされていない点
- 手続をすることができなかった手続の期限から、新型コロナウイルス感染症のまん延の影響を受けたとは考えにくい場合等を除き、原則、「正当な理由」があると判断され救済が認められている点
が挙げられます。詳細については、特許庁ウェブサイト新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続における「その責めに帰することができない理由」及び「正当な理由」による救済についてをご確認ください。
<救済措置>商標権の回復:故意基準へ緩和(令和3年改正後の商標法)
上記のとおり、令和3年改正前の商標法においても、「正当な理由」等の要件を満たす場合には、上記例外的な申請期間(商標法20条3項)経過後に更新登録の申請を行い、商標権を回復することが認められていました(商標法21条1項、商標法施行規則10条3項)。
もっとも、我が国では「正当な理由」の判断について、事実認定や証拠の採否等で慎重な運用を進めていたため、「正当な理由」が認められる割合は、諸外国と比較して極めて低いものでした。これに対しては、「特許等の権利化は国境を越えて行われることが多く、同様の手続の瑕疵に起因する期間徒過により喪失した権利等が他国では回復される一方、日本では回復されない場合には、結果として日本国内では十分な救済が得られない事態になる。」*2との問題点が指摘されていました。
そこで、令和3年改正後の商標法(令和5年4月1日施行)では、次のとおり、商標法21条1項が改正され、正当な理由の有無ではなく、故意の有無を基準とするという形で、商標権の回復要件が緩和されました。
(商標権の回復)
第二十一条 前条第四項の規定により消滅したものとみなされた商標権の原商標権者は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、その申請をすることができる。ただし、故意に、同条第三項の規定により更新登録の申請をすることができる期間内にその申請をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。
2 (略)
このように、令和3年改正後の商標法では、故意にその申請をしなかった場合を除き、上記例外的な申請期間(商標法20条3項)経過後に更新登録の申請を行い、商標権を回復することが認められるようになりました(商標法21条1項)。かかる商標権回復要件の緩和により、今後は、(以前は認められなかった)期間管理ソフトの入力ミスに伴う期間徒過等であっても、商標権の回復は認められることになります。
ただし、商標権回復制度の濫用を防ぐとともに手続期間の遵守のインセンティブとするため、十分な程度の回復手数料*3(令和4年7月15日に閣議決定された特許法等関係手数料令の一部を改正する政令より、1件につき8万6400円です。)を徴収するとされていますので、この点はご注意ください。
(3) どのような方法で申請できるか?【手続】
申請書の書式と提出
商標権の存続期間の更新登録を申請する場合、
- 申請人の氏名又は名称及び住所又は居所
- 商標登録の登録番号
- その他経済産業省令で定める事項
を記載した申請書を特許庁長官に提出します(商標法20条1項)。申請書の具体的な書式や注意事項は、特許庁ウェブサイトで公開されています。
なお、申請書には、商標や指定商品又は指定役務の記載は不要です。これは、出願の場合と異なり、更新登録の申請は、新たな権利を創設するものではない(商標権の実体的な内容を変更するものではない)からです。
不要となった指定商品又は指定役務の区分の減縮
商標権の取得時には必要であったものの、その後、権利を維持する必要のなくなった指定商品又は指定役務の区分がある場合、更新登録の際、同区分を減縮して申請することが可能です。
下記2(4)で述べるとおり、更新登録を申請する場合は、区分数に応じた更新登録料を同時に納付する必要があります(商標法40条2項、41条5項、41条の2第7項)。そのため、不要となった区分の減縮は、権利維持コストの削減に繋がります。
(4) いくらで申請できるか?【費用】
更新登録を申請する場合の更新登録料は、令和4年11月現在、下表のとおりです。
更新登録料(10年分一括納付) | 区分数 × 43,600円 |
更新登録料(5年分ごとの分割納付) | 区分数 × 22,800円*4 |
このように更新登録料についても、設定登録料と同様、①10年分一括納付と②5年分ごとの分割納付(前期・後期)が認められています。なお、更新登録料の納付は、更新登録申請と同時に行う必要があります(商標法40条2項、41条5項、41条の2第7項)。
更新登録の申請をするか否かのポイント
更新登録の申請は実体審査なし
以上述べた更新登録の申請については、商標の登録出願のような実体審査は存在しません。つまり、上記2(1)~(4)で述べたとおり、更新登録の申請とともに更新登録料の納付をすることで、実体審査、更新登録査定といった手続を経ることなく、更新登録が行われます。
そのため、実体審査の結果によって追加の対応が必要となる登録出願の場面と比較すると、更新登録の申請は、手続上の大きな負担はありません。
権利維持コスト(更新登録料)の負担に見合う商標か?
とすると、更新登録の申請をするか否かは、主として、権利維持コスト(更新登録料)の負担に見合う商標かどうかで判断することになります。
仮に、ある商標の指定商品又は指定役務の区分数が「3」の場合、更新登録料(10年分一括納付)は13万0800円です。これを1年あたりで計算すると1万3080円ですから、かかる金額との関係で、当該商標が
- 事業面でどの程度の価値を発揮しているか?
- 今後どの程度の期間使用する予定か?
等を検討してみるとよいでしょう。
更新登録の申請期間の管理
上記2(2)で述べたとおり、更新登録の申請にあたっては、商標権者自らが期限管理をする必要があります。商標法上は、原則的な申請期間(商標法20条2項)に加えて、例外的な申請期間(商標法20条3項)や救済措置(商標権の回復、商標法21条1項)があるものの、10年という長い間隔で訪れる更新登録の申請期間を管理するためには、一定の工夫が必要です。
特許(登録)料支払期限通知サービス
この点、特許庁は、令和2年4月1日から、申請期間の徒過による権利失効の防止を目的として、特許(登録)料支払期限通知サービスを開始しました。
このサービスは、事前にアカウント登録を行った方に対し、指定したメールアドレス宛に更新登録の申請期間を通知するものです。サービスの利用対象は、主に中小企業・個人事業主・個人の権利者の方とされているものの、最大で50件まで案件を登録可能であり、サービスの利用料は無料(通信費は別途発生)です。
ただし、特許(登録)料支払期限通知サービスは、あくまで更新登録の申請期間を通知するものであり、更新登録の申請自体は別途行う必要がありますので、ご注意ください。
以上、本コラムでは、商標権の存続期間と更新について、令和3年商標法改正による変更点も交えて解説いたしました。弊所では、更新登録の申請を含む、商標に関する業務全般を取り扱っておりますので、ご不明な点がございましたら、お問い合わせいただければと存じます。
*1 特許法等の一部を改正する法律(令和3年5月21日法律第42号)による改正をいいます。
同法律の概要は、特許庁ウェブサイト掲載の「特許法等の一部を改正する法律の概要(参考資料)」をご参照ください。
なお、同法律の施行日は規定により異なります。例えば、本コラムで触れる①令和3年改正後の商標法43条1項及び2項の規定(「その責めに帰することができない理由」により、更新登録料を納付できなかった場合の割増手数料の納付免除)は、令和3年10月1日から施行されています。他方で、②令和3年改正後の商標法21条1項の規定(商標権の回復要件の緩和)は、令和5年4月1日から施行予定です。
*2 特許庁ウェブサイト掲載の令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書12頁から引用。
*3 もっとも、この場合も「その責めに帰することができない理由」が認められたときは、回復手数料の納付は不要です(特許法等関係手数料の一部を改正する政令による改正後の特許法等関係手数料令(昭和35年政令第20号)4条2項5号)。
*4 ただし、「分割納付における前期分の更新登録料の納付日又は納付期限が令和4年(2022年)3月31日以前である場合の、後期分の更新登録料は、改正政令附則第3条により、施行日(令和4年(2022年)4月1日)以降の納付であっても旧料金(区分数×22,600円)を適用します。 」とされています(特許庁ウェブサイト「産業財産権関係料金一覧」)。

弁護士 弁理士 片木 研司
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