遺言執行者 ~遺言執行者の職務について~
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遺言執行者とは
遺言執行者とは、被相続人が死亡した後、相続財産を管理し、遺言書の内容を執行する人のことをいいます。具体的には、遺言執行者はその就職を承諾した後、相続人・相続財産の調査、相続財産の目録を作成・相続人や受遺者(遺言により財産を無償で譲り受ける者)等への交付をし、遺言の内容に従って、預貯金や有価証券の解約・相続手続、不動産の所有権移転登記手続、売却して分配する財産の換価手続などを行います。
被相続人は、遺言で遺言執行者を指定するか、遺言執行者の指定を第三者に委託することができます。
なお、被相続人によって遺言執行者が指定されていない場合や、遺言執行者に指定された者が就職を拒否したり、遺言執行者に就職した後に死亡・解任等の理由で不在となった場合には、利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります。
遺言執行者の権利と義務
民法1012条1項は「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定しており、遺言執行者の権利と義務については、民法の定める委任に関する規定が一部準用されています。
遺言執行者の権利
- 費用償還請求権(民法650条)
遺言執行者が、遺言の執行に必要な費用を支出したり、債務を負担した場合、相続人に対し、その費用の償還や弁済を求めることができます。 - 報酬請求権(民法1018条・民法648条2・3項)
遺言執行者は、遺言に報酬の定めがある場合はそれにしたがって、その定めがない場合は家庭裁判所に申立てを行うことにより、報酬を請求することができます。
遺言執行者の義務
- 善良な管理者としての注意義務(民法644条)
遺言執行者は、相続財産の管理や遺言の執行にあたって、「善良な管理者」としての注意義務を負います。この注意義務の程度は、遺言執行者の能力や知識の程度によって異なると考えられており、弁護士等の専門家が遺言執行者となった場合は、より高い注意義務が求められることになります。 - 報告義務(民法645条)
遺言執行者は、相続人や受遺者からの要求があったときは、いつでも遺言執行の状況について報告する義務があります。 - 受取物等の引渡し義務(民法646条)
遺言執行者は、遺言執行にあたって受領した金銭その他の財産を、遺言の趣旨にしたがって、相続人や受遺者に引き渡す義務があります。 - 補償義務(民法647条)
遺言執行者は、遺言執行にあたって受領した金銭を自己のために消費したときは、その消費した日以降の利息を支払う義務を負い、さらに、それにより相続人に損害を与えた場合は、その損害を賠償する責任を負います。 - 任務の開始義務(民法1007条)
遺言執行者は、就職を承諾したときは、直ちにその任務を開始しなければなりません。 - 財産目録の作成・交付義務(民法1011条)
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。
また、相続人から請求があるときは、相続人の立会いのもとで目録を作成したり、公証人に目録を作成させる必要があります。
遺言執行者にしか執行できない遺言事項
執行を必要とする遺言事項の中には、遺言執行者でなければ執行できない事項と、遺言執行者がいない場合には相続人自らが執行できる事項があります。
例えば、特定の相続人に不動産や預貯金を相続させる遺言事項、生命保険金の受取人の変更などは、相続人が共同で執行することができます。
しかし、以下の遺言事項については、遺言執行者でなければ執行することができません。そのため、遺言執行者が指定されていない場合や遺言執行者が不在となった場合は、利害関係人の申立てにより家庭裁判所で遺言執行者を選任する必要があります。
認知
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を父親が自分の子であると認めることをいい、父親が生前に役所に届出を行う方法のほか、遺言により行うこともできます。
遺言による認知には、未成年の子の認知、成年の子の認知、胎児の認知、死亡した子の認知があり、遺言執行者は、その就任の日から10日以内に、役所に戸籍法に基づく認知の届出をしなければなりません。
推定相続人の廃除・取消
推定相続人の廃除とは、被相続人が、遺留分を有する推定相続人から虐待や重大な侮辱行為を受けた場合に、その推定相続人の相続権をはく奪することをいい、被相続人が生前に行う方法と遺言によって行う方法とがあります。いずれの場合も、家庭裁判所の調停または審判によって行う必要があります。
遺言によって推定相続人の廃除の意思表示がなされた場合、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行うことになります。
被相続人が生前に家庭裁判所に申立て、推定相続人の廃除が認められた後、廃除を取り消したいと思う事情が生じた場合においても、被相続人が生前に家庭裁判所に申立てを行う方法と遺言によって行う方法とがあります。推定相続人の廃除と同様に、遺言によって廃除の取消しを行う場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行うことになります。
一般財団法人の設立
一般財団法人の設立は、遺言により行うこともできます。
この場合、遺言執行者が、遺言に記載された事項に基づき、定款の作成、公証人による定款認証、財産の拠出、設立登記申請などの手続を行い、一般財団法人を設立することとなります。
弁護士 小西 憲太郎
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事
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