コラム

2021/07/19

成年後見制度とは⑨ ~医師の診断・鑑定~

 後見開始の審判については、家事事件手続法119条1項で、「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」とされ、また同法133条により、保佐開始の審判の場合も、被保佐人となるべき方の精神の状況について鑑定が必要とされています。
 もっとも、「明らかにその必要がないと認めるときは、この限りではない。」(同法119条1項但書)とされているように、申立時の診断書などから必要性がない場合には鑑定が省略されます。

 また、補助開始の審判については、家事事件手続法138条で「家庭裁判所は、被補助人となるべき者の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ、補助開始の審判をすることができない。」とされ、任意後見監督人の選任の審判についても、同法219条で「家庭裁判所は、本人の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ、任意後見契約の効力を発生させるための任意後見監督人の選任の審判をすることができない。」とされています。

 そのため、本人の状態や鑑定が必要か否かを判断する等の資料として申立時に診断書の添付を求められるのが通常です。

鑑定の概要

 後見開始及び保佐開始の審判における鑑定は、裁判所が鑑定人を指定し、鑑定事項を定めた上で、鑑定を依頼して行われます。また、補助又は任意後見においても、鑑定が必要な場合には同様の手続きがとられます。

 鑑定人となる者に、資格等による限定はありませんが、本人の精神状況について医学上の専門的知識を用いて判断する必要がありますから、そのような判断ができる者が鑑定人に選任されます。一般的には精神科の医師がふさわしいと考えられています。

 鑑定事項としては、①精神上の障害の有無、内容及び障害の程度、②自己の財産を管理・処分する能力、③回復の可能性の3つが定められます。
 鑑定は、生活歴、既往症及び現病歴、日常生活の状況、身体の状態(①理学的検査、②臨床検査(尿、血液など)、③その他(脳波、CT、内分泌検査等))、精神の状態(①意識/疎通性、②記憶力、③見当識、④計算力、⑤理解力・判断力、⑥現在の性格の特徴、⑦その他、⑧知能検査、心理学的検査)などを総合して判断されます。

 鑑定者は、鑑定書に鑑定事項に対応した鑑定主文と、鑑定主文を導くために行った検査などの結果と、鑑定主文の根拠を記載します。

診断書・鑑定書作成の手引について

 法定後見の申立てに添付する診断書については、最高裁判所事務総局家庭局が「成年後見制度における診断書作成の手引」という医師向けの手引きを公開しています。

 また、同様に、申立後の鑑定書作成については、最高裁判所事務総局家庭局が「成年後見制度における鑑定書作成の手引」という医師向けの手引きと「鑑定書書式≪要点式≫」という書式を公開しています。

診断書の概要

 家庭裁判所が公開している書式に沿った診断書は、通常の臨床で行われる程度の診察により作成されることを前提とし、以前から本人を診断している医師が作成する場合や病状が明らかな場合は、1回の診察で作成されることが想定されています。また、本人を診断していない医師などが作成する場合でも1か月程度の期間に2~3回の診察で作成されることが想定されています。

 そのため、申立てに添付する診断書の作成は、まずは本人の主治医に依頼するのが通常となります。

 診断書には、診断名や所見の他、判断能力についての医師の意見を記載する欄があります。

 そして、意見は、「①自己の財産を管理・処分することができない。②自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要である。③自己の財産を管理・処分するには、援助が必要な場合がある。④自己の財産を単独で管理・処分することができる。」の4つのうちいずれかをチェックするのが基本となっています。

 意見には、判定の根拠(検査所見・説明)を記載することが求められます。

 検査としては、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)、WAIS−V成人知能検査、田中ビネー知能検査、柄澤式「老人知能の臨床的判定基準」などのうち必要なものが行われることが多いようです。

小西法律事務所

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