コラム

2021/06/28

信託財産の分別管理の方法

受託者の分別管理義務

 信託契約を行った場合、受託者は、自身の固有財産と信託財産とを分別して管理しなければならないとされています(信託法34条1項)。

分別管理の方法

財産の種類 分別管理の方法 適用条文
不動産 信託の登記 信託法34Ⅰ①
車両・船舶 信託の登録 信託法34Ⅰ①
動産(金銭を除く)
無記名債券
信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法 信託法34Ⅰ②イ
金銭
債権
その計算を明らかにする方法
(例)帳簿をつける等
信託法34Ⅰ②ロ

第三者対抗要件

 信託法14条は、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。」と定めています。

登記又は登録ができる財産について

 登記又は登録をすることができる財産(信託法34条1項1号の財産。不動産、船舶、車両等)は、分別管理の方法と第三者対抗要件が一致します。

登記又は登録ができない財産について

 登記又は登録ができない金銭は、帳簿をつけるなどして、その計算を明らかにできる状態で管理しておくことで、分別管理義務を履行していることにはなりますが、第三者に対抗できるかどうかは別の問題として考える必要があります。

 たとえば、受託者が、信託財産である金銭を受託者の固有財産である金銭と一緒に様々な場所(α、β、γ)で保管しており、帳簿の計算上、全体のうち100万円が信託財産であることが明らかであったとします。

 問題は、受託者の債権者がαで保管されている金銭100万円を差押えた場合に、受託者又は受益者が、「それは全額信託財産である」という異議を主張できるかということです。

 結論としては、これはできないと考えられています。

 なぜなら、このような異議が認められるとすれば、債務者は、常に信託財産であることを理由に差押えを排除することができ、債権者の権利を害するからです。

 したがって、金銭については、受託者の固有財産と物理的に識別できる形で管理しておかなければ(たとえば、信託契約、信託目録等によって「金銭はαで保管する」と指定しておき、実際にαで信託財産である金銭のみを保管する等)、受託者債権者の差押えに対抗できないと解されます。

信託口口座

 金銭を信託財産とする場合、現金保管より、預貯金口座での管理の方が、利便性があり、安全です。また、第三者対抗要件という意味からも、預貯金口座での管理が望ましいです。

 そのような場合、誰のどのような口座で管理すべきでしょうか。

 おすすめは、受託者が、信託契約専用の信託口口座を新たに開設し、同口座で、金銭を管理する方法です。

 委託者をAさん、受託者をBさんとした場合、信託口口座の名称は、「委託者A受託者B信託口」「受託者B信託口」「受託者信託口B」というように様々なパターンが考えられます。

 もっとも、多くの銀行は信託口口座の開設に消極的です。

 そのような場合、次善の策として、受託者Bさんが今まで口座を有していなかった銀行で口座を開設し、それを信託用口座とする旨、信託契約書に記載しておくとよいでしょう。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

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