コラム

2021/06/17

事業承継 ~秘密保持契約書(CA・NDA)について~

秘密保持契約書(CA・NDA)とは

 秘密保持契約書とは、自社が持つ営業秘密、個人情報等の秘密情報を他の企業等の第三者に提供する際に外部にその情報を漏らされたり不正に利用されたりすることを防止するために締結する契約書のことです。

 秘密保持契約書のことをCAやNDAなどと呼ぶこともありますが、NDAは「Non Disclosure Agreement(NDA)」の略称、CAは「Confidential Agreement」の略称です。

 また、日本語で表記する場合でも、機密保持契約書、守秘義務契約書などと呼ぶこともあります。

事業承継における秘密保持契約書(CA・NDA)の重要性

 譲渡会社にとって、M&A承継等の事業承継を予定していることや譲渡企業の経営状況等の情報が外部の第三者の知るところとなってしまうと、譲渡会社内部、取引先その他に大きな影響が生じる可能性があるので、譲渡会社の秘密情報をどのように取り扱うかについて譲渡企業と譲受企業の間できちんとを契約に定めておく必要があります。

 まずそもそも譲渡企業においてM&A承継等の事業承継に興味を持っているということそれ自体が秘密情報となるため、M&A承継等の事業承継の検討を開始する段階から秘密保持契約書(CA・NDA)の締結は重要な意味を持ちます。

 また、M&A承継等の事業承継を進めるにあたっては、譲渡会社の経営状況、財務状況等の秘密情報を譲受会社に開示しなければならなくなります。そのため、譲渡会社の秘密情報を外部に開示しないということや秘密情報の目的外利用をしないこと等を前もって取り決めておくことが必要となります。

 また、秘密が外部に漏れてしまうという事態が万一発生してしまった場合に備えて、秘密が漏れてしまった場合の当事者の責任や損害賠償などを定めておくことによって、秘密が漏れることに対する抑止力が高まるとともに、万一秘密が漏洩してしまった場合であっても比較的スムーズに対処することが可能となります。

秘密保持契約書(CA・NDA)の文言の具体例

 秘密保持契約書に記載する条項の文言は、具体的には以下のようになります。

 なお、以下の各条項の具体例において、甲は売手側、乙は買手側として記載されています。

 また、具体的な秘密保持契約書(CA・NDA)の記載内容は、各個別の案件によって異なるため、以下の文言はあくまで一例にすぎないことをご了承ください。


秘密保持契約書

 甲及び乙は、乙が検討する甲の事業の承継(以下「本件事業承継」という。)に関し、以下のとおり、秘密保持契約をする。

第1条(定義)
 本契約書にいう「秘密情報」とは、文書、口頭等の媒体の如何を問わず、また、その内容の如何を問わず、甲から乙に開示された本件事業承継に関する一切の情報をいう。但し、次に定める情報を除くものとする。

(1) 甲から開示された時点において、既に乙が保有し、又は、既に公知となっていた情報

(2) 甲から開示された後、乙の責によらずに公知となった情報

(3) 正当な権限を有する第三者から、乙が秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報

(4) 乙が秘密情報によらず独自の活動を行った結果取得した情報


第2条(秘密保持)
 乙は、秘密情報を秘密として保持し、本件事業承継について検討する目的でのみ使用し、甲の事前の書面による承諾なしに第三者に開示、秘密情報を第三者に対して開示、漏洩しないものとする。但し、当該目的のために必要な範囲内で乙の取締役、監査役、従業員、弁護士、税理士、公認会計士に開示する場合を除く。

第3条(秘密情報の廃棄等)
 乙は、本件事業承継が実現した場合又は本件事業承継の可能性がなくなった場合、甲から開示された秘密情報(複製を含む。)を速やかに廃棄し、また、甲の要請があった場合には速やかにこれを甲に返還するものとする。

第4条(反社会的勢力でないことの表明保証)

 1 乙は、甲に対し、次の各号のいずれにも該当せず、かつ将来にわたっても該当しないことを表明して保証する。

(1) 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という)であること

(2) 暴力団員等が経営を支配し又は経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること

(3) 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること

(4) 暴力団員等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること

(5) 役員又は乙の経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること

 2 乙は、自ら又は第三者を利用して次の各号の一に該当する行為を行わないことを表明して保証する。

(1) 暴力的な要求行為又は法的な責任を超えた不当な要求行為

(2) 情報開示及び交渉に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為

(3) 風説を流布し、偽計又は威力を用いて甲の信用を毀損し、又は甲の業務を妨害する行為

(4) その他前各号に準ずる行為


第5条(債務不履行)
 本契約の当事者が本契約に違反したことにより甲に損害が生じた場合、乙は、甲に生じた損害を賠償するものとする。

第6条(有効期間)
 本契約の有効期間は、本契約締結日から2年間とする。但し、乙は、本契約の有効期間経過後も、秘密情報が公知になるまでは、甲に対し、本契約書に定める秘密保持義務を負うものとする。

第7条(専属的合意管轄裁判所)
 甲及び乙は、本契約に関する一切の紛争について、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

この弁護士について詳しく見る