コラム

2021/04/15

介護事故について

 高齢化が進み、介護を必要とする方が増加の一途を辿る今日、介護事業者は、社会にとって必要不可欠な存在です。
 本コラムでは、介護事業者がサービスを提供するにあたり、介護事故を未然に防ぐにためにどのような措置をとるべきか、また、不幸にも介護事故が発生してしまった場合にどのような対応をとるべきかについて説明いたします。

起こりやすい介護事故

 起こりやすい介護事故の類型および場面には以下のようなものがあります。

類型

  •  転倒・転落・滑落、失踪・徘徊
  •  嚥・誤飲
  •  介護ミスによる受傷
  •  感染症や食中毒等の施設内での発生(集団感染など)

場面

  •  歩行や移動中、入浴やトイレの利用時、ベッドや車椅子等の利用・移乗時
  •  被介護者の観察不足、施設等の設備・措置の不備
  •  食事中や唾液等の誤飲時
  •  おむつや体位交換、移乗時、入浴介助時
  •  調理や衛生管理、被介護者と職員の体調管理・観察不足

介護事業者に発生しうる責任

 介護事故が生じた場合、介護事業者に発生しうる責任は、以下のものが考えられます。

民事上の責任

債務不履行責任

 介護事業者と利用者は、介護サービスの利用契約を締結しています。そして、介護事業者は、契約上、利用者に対し、利用者の生命や身体等の安全を確保して適切な介護サービスを提供する義務を負います。介護事業者が利用者に対して負うこのような義務を、「安全配慮義務」といいます。
 介護事業者が安全配慮義務に違反し、介護事故が生じた場合は、介護事業者は、利用者に対して、債務不履行責任を負うことになり、利用者に生じた損害を賠償しなければなりません。

不法行為責任

 介護事業者が故意過失によって利用者に損害を与えた場合には、介護事業者は、利用者に対し、不法行為責任を負います。
 また、介護事業者の職員の故意過失によって利用者に損害を与えた場合は、介護事業者は、利用者に対して、使用者責任を負うことになります。

 なお、これらの民事上の責任に備えて、介護事業者総合保険等の保険に加入しておくことが望ましいといえるでしょう。

刑事上の責任 

 刑事上の責任とは、懲役や禁固、罰金などの制裁を受けなければならない責任です。
 介護事業所において問題となりやすい犯罪として、以下のものがあります。

  • 業務上過失致死傷罪
  • 自動車運転過失致死傷罪
  • 危険運転過失致死傷罪
  • 保護責任者遺棄罪
  • 傷害罪

行政上の責任

 行政上の責任とは、行政から受ける処分等をいいます。
 介護保険におけるサービスを提供できる「指定事業者」は、その提供するサービスに応じて運営の基準が規定されていますが、基準を守らなかった場合には、「勧告」「氏名公表」「命令」「公示」「指定の取消し」「指定の効力停止」などの措置がとられます。

介護事故を防ぐための対策等について

 介護事故を防ぐためには、

  • 利用者の状態の把握
  • 介護者の状態の把握
  • 環境の把握

 上記3点の把握の徹底に尽きると言っても過言ではありません。

利用者の状態の把握

 利用者の小さな体調の変化を見逃さないようにし、把握した変化については適切に情報共有を行いましょう。
 例えば、前夜寝つきが悪かったようである、あるいは、今日はやけに咳払いをしている等、一見看過してしまいそうなことでも、前者からは、ふらつきや車いす利用中に居眠りをしてずり落ちたりするかもしれないというリスク、後者からは、感染症や食事の際に誤嚥するかもしれないというリスク、を予見することができると言えます。
 小さな体調の変化を把握し、介護者・医師・看護師・家族間で情報共有することにより、いつもより高まっているリスクを回避することが可能となります。

介護者の状態の把握

 介護者の体調、精神状態、技術面および相性面をも管理し、対策を講じることで介護側の状態をベストに保つよう心掛けましょう。
 介護者が、寝不足や疲労など体調不良であれば無理のないよう勤務を交代させる、生活や仕事について不安なことや直面している問題が無いか等をカンファレンスの際、または平時においても聞き取るようにしましょう。
 利用者やその家族との相性、また介護スタッフ同士の相性も考慮して人員配置をすることで業務が円滑になります。

環境の把握

 介護をする現場における建物、施設設備、工作物等の状態・環境をベストの状態に保ちましょう。
 在宅介護においては居宅内の床等、動線の安全確保、手すり等の設置の確認をしてリスクを減らせるように努めましょう。
 施設での介護においては、設備の掃除を徹底し、利用者の行動パターンに合わせた環境を整えるようにしましょう。
 なお、施設の窓や扉のストッパーが容易に外せてしまうような仕組みであるとか、利用者が本来立ち入るべきでないバックヤード等に入ってしまえるような仕切りの設置のみである場合には、安全のための対策が不十分と判断されてしまうことがあります。

介護事故が生じた場合の対応

 万が一、介護事故が生じてしまった場合は、被介護者の生命・身体の安全を最優先にし、被害を最小限に食い止めなければならないことは当然のこと、冷静に状況を判断し、関係各所へ連絡・報告しなければなりません。
 ご家族へは正確な情報をこまめに開示しましょう。記録と報告・説明等に相違点があると、事故で不安を感じている家族から、さらに、不信感を抱かれる可能性もあるため、真摯な姿勢で向き合うことが大切です。
 なお、ご家族への対応については、現場の職員任せではなく、組織として、苦情やクレームに対応する部署を設置し、現場での事故やトラブルに対応できるようにしておくことをお勧めします。
 また、対応の記録は正確に取るようにしましょう。

最後に

 万が一、介護事故が生じてしまった場合には、対応が後手に回れば回るほど、利用者やそのご家族に悪感情を抱かれたり、溝が深まったりしてしまい、紛争が長期化・複雑化することが予想されます。
 早期の段階で、介護事故等に詳しい弁護士に相談し、対策・対応等を検討されることをお勧めします。

小西法律事務所