コラム

2021/04/01

美術館やギャラリーにおける写真の展示⑶ ~平成30年著作権法改正~

 美術館や博物館、ギャラリーにおいて写真を展示する場合、観覧者のスマートフォン等へ写真の画像を含む解説を配信することは可能でしょうか。また、宣伝のため、写真の画像をSNSへ投稿することに問題はないでしょうか。
 本コラムでは、

[前々回コラム]美術館やギャラリーにおける写真の展示⑴ ~展示権と所有権~
[前回コラム]美術館やギャラリーにおける写真の展示⑵ ~解説冊子への写真掲載~

に続く最終回として、平成30年著作権法改正について解説したいと思います。

【事例】
 美術館Xは、所蔵作品である写真家Yの撮影した写真(以下「本件写真」といいます。)について、写真展を開催しようとしています。

 写真展の開催にあたって、美術館Xが1~4の行為を行う場合、写真家Yの承諾は必要でしょうか。
 なお、本件写真は、写真家Yがフィルムから直接プリントしたオリジナルプリントであり、その著作権は写真家Yが有しているものとします。

1 写真展において本件写真を展示すること …[前々回コラム]参照
2 写真展の解説冊子に本件写真を掲載すること …[前回コラム]参照
3 観覧者のスマートフォンやタブレット向けに、本件写真の画像を含む解説を配信すること
4 写真展を宣伝するため、本件写真の画像をSNSへ投稿すること

3 観覧者のスマートフォンやタブレット向けに、本件写真の画像を含む解説を配信すること

美術館や博物館におけるアプリの利用拡大

⑴ 美術館や博物館では、従来から、「音声ガイド」として、専用機器を利用した展示作品の解説を受けることができました。もっとも、最近では、スマートフォンやタブレット上のアプリによる「音声ガイド」が広がっています。
 例えば、首都圏であれば、アーティゾン美術館(旧・ブリヂストン美術館)や東京国立博物館は、無料の公式アプリを配布しており、同アプリを通じた音声ガイドの提供が行われています。また、関西圏でも、国立国際美術館で開催されていた「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(2020年11月3日~2021年1月31日)では、専用機器を利用した音声ガイドに加え、アプリによる音声ガイドが配信されていました。

アーティゾン美術館公式アプリ

東京国立博物館公式アプリ(トーハクなび)

⑵ このようなアプリによる音声ガイドは、従来のような専用機器を導入する必要がないため、今後さらに拡大するものと考えます。そして、注目すべきは、これらアプリでは音声による解説に加えて、展示作品の画像や解説文も提供されていることです。
 例えば、東京国立博物館の公式アプリ(トーハクなび)では、展示室のマップ上に表示された展示作品のサムネイル画像をタップすると、詳細ページに遷移します。詳細ページにおいては、展示作品の拡大画像と解説文が掲載されており、再生ボタンをタップすれば音声ガイドを聞くことができます。
 また、同公式アプリでは、作品検索機能やテーマに応じた鑑賞コースガイド、体験型コンテンツも提供されていますので、展示作品の見所や背景をより深く知ることが可能です。

観覧者のスマートフォンやタブレットに展示作品の画像を送信することの問題点

⑴ しかし、観覧者のための展示作品の解説・紹介目的であっても、スマートフォンやタブレットに展示作品の画像を送信することは、著作権法との関係で問題ないでしょうか。
 この点、著作権者の承諾を得ずに、スマートフォンやタブレットに展示作品の画像を配信することは、原則として、展示作品の複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条)を侵害します。

⑵ そして、平成30年改正前の著作権法では、美術館や博物館が展示作品(「美術の著作物」又は「写真の著作物」の原作品)を所有する場合、著作権者の承諾を得ずに

〇 観覧者のために、展示作品の解説又は紹介を目的とする小冊子に展示作品を掲載すること

は認めていたものの(改正前著作権法47条)、

× 観覧者のために、展示作品の解説又は紹介を目的として、スマートフォンやタブレットに展示作品の画像を送信すること

については、認めていませんでした。
 そのため、上記に関する権利処理が必要となる展示作品(特に、著作権の保護期間が満了していない著作物)については、技術的には可能であっても、スマートフォンやタブレットへの展示作品の画像送信は回避される傾向にありました。

⑶ もっとも、観覧者のための解説又は紹介という目的を前提とした場合、小冊子に展示作品を掲載することと、スマートフォンやタブレットへ展示作品の画像を送信することで、著作権者へ生じる不利益に差異があるとは考えられません。
 そもそも、平成30年改正前の著作権法において、小冊子に展示作品を掲載することのみが許容されていたのは、立法当時、展示作品の画像を送信するといったデジタル技術が想定されていなかったからでした。

平成30年著作権法改正

⑴ そこで、平成30年に改正された著作権法では、デジタル技術の進歩に伴う見直しを図ることとし、著作権法47条1項を改正するとともに2項を新設しました(注1)。

1 美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第25条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者(以下この条において「原作品展示者」という。)は、…次項の規定により当該展示著作物を上映し、若しくは当該展示著作物について自動公衆送信…を行うために必要と認められる限度において、当該展示著作物を複製することができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 原作品展示者は、観覧者のために展示著作物の解説又は紹介をすることを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、当該展示著作物を上映し、又は当該展示著作物について自動公衆送信を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該上映又は自動公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第47条(美術の著作物等の展示に伴う複製等)

⑵ このように、平成30年改正後の著作権法によれば、

  1. 美術の著作物又は写真の著作物の原作品について、展示権(25条)を害することなく公に展示する者(原作品展示者)は、
  2. 観覧者のために展示著作物の解説又は紹介を目的とする場合、
  3. 必要と認められる限度において、展示著作物を複製し(47条1項)、上映又は自動公衆送信を行うこと(47条2項)

が認められています。
 そのため、展示作品を所有する美術館や博物館は、観覧者のための展示作品の解説又は紹介を目的とする場合、(著作権者の承諾を得ずに)スマートフォンやタブレットへ展示作品の画像を送信することが可能です(注2)。

「美術の著作物等の展示に伴う複製等に関する著作権法第47条ガイドライン」

⑴ もっとも、平成30年改正後の著作権法47条2項は、

  1. 「必要と認められる限度」において展示著作物の複製、上映又は自動公衆送信を認めたものであり、
  2. 「著作権者の利益を不当に害すること」ではないこと

といった一定の制限が設けられていることに、注意が必要です。

⑵ この点に関しては、著作権法改正に伴って、関係団体(一般社団法人日本美術家連盟、一般社団法人日本美術著作権連合、一般社団法人日本写真著作権協会、公益財団法人日本博物館協会、全国美術館会議及び一般社団法人日本書籍出版協会)が、「美術の著作物等の展示に伴う複製等に関する著作権法第47条ガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)を連名で策定しています。

 ガイドラインでは、上記3.4.に関し、


⑴施設内での利用について
施設内では原作品展示物のデジタル化した画像(以下、デジタル画像という。)を、観覧者への解説・紹介目的のために、携帯端末などへ自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことや、スクリーンや携帯端末などで上映を行うことができるほか、そのために必要と認められる限度で、複製(以下「上映等」)を行うことができる。その場合に、細部の拡大や複数同時の上映など、デジタルの特性を活かした上映についても許容される。
⑵デジタル画像を利用した制作物について
⑴により、デジタル画像を施設内で上映等する場合でも、動画の紹介映像のみならず、静止画であっても、作者や作品と関連する画像(肖像写真、生家、画題となった風景など)を用いて解説音声を加えたような態様のものも同様に同条が定める「必要と認められる限度」を超えるものとする(著作権者の許諾が必要)。
⑶デジタル画像の配布
デジタル画像を観覧者に配布する場合は、原作品展示物の解説・紹介を超えない範囲に限るとともに、画像の大きさは施設外利用が許容される範囲(下記(6)を参照のこと)を限度とする。
⑷展示されたデジタル画像の利用者による複製
デジタル画像を館内で上映する場合には、端末のスクリーンショットや場内モニター、 スクリーン等の撮影の禁止を利用者にわかりやすく明示することが必要である。
⑸デジタル画像の利用可能期間
施設内、施設外の利用に関わらず、デジタル画像を利用できる期間は原作品展示物を保持している間に限定する。原作品展示物を保持していない期間については、著作権者の許諾が必要である。
⑹施設外での利用について
施設外(観覧者の持ち帰りを前提とした配布、インターネットでの掲載等)でのデジタル画像の利用は、サムネイル〔筆者注:ガイドライン上、「サムネイルとは、32,400画素以下の画像を指す」とされています。〕の解像度以下とする。なお、この場合、画像に保護(複製防止技術等)を施す必要はない。
⑺広報での利用について
ポスター、チラシ、新聞広告などに著作物を利用する場合は、これまで通り許諾を前提とする。この場合の掲載期間については、契約によるものとする。

と定めたうえで、具体的な利用例を例示列挙しています(上記引用部分の太字及び下線は筆者によるものです)。

 そのため、展示作品の解説又は紹介を目的として、スマートフォンやタブレットに展示作品の画像を送信するにあたっては、まずは同ガイドラインを参照することが有益でしょう(注3)。

設問3の結論

 以上より、美術館Xは、写真家Yの承諾を得ることなく、観覧者のスマートフォンやタブレット向けに、本件写真の画像を含む解説を配信することが可能です(改正後著作権法47条1項、2項)。

4 写真展を宣伝するため、本件写真の画像をSNSへ投稿すること

コロナ禍における美術館や博物館のオンライン公開

⑴ パリのルーブル美術館が、2021年3月26日から同館所蔵の所蔵品をオンライン上で無料公開した、との報道がありました。

時事通信社ウェブサイト 2021年3月29日 10:56 
仏ルーブル美術館、全所蔵品約50万点をオンライン無料公開へ

 ルーブル美術館では、以前から、ウェブ上でオンラインビューイングやバーチャルツアーといったサービスの提供が進んでいました。今回は、公式サイトのリニューアルに合わせて、「collections.louvre.fr」というデータベースが新たに公開され、同データベース上で、約50万点にも及ぶ収蔵品の画像閲覧等が可能となりました。

⑵ 日本においても、例えば、独立行政法人国立美術館の所属作品総合目録検索システムでは、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館及び国立国際美術館に所蔵された作品を横断的に検索することができます。
 その掲載作品数は、2020年4月23日現在で約4万4000点(うち画像を伴うものは約2万8000点)にも上っています。

展示作品の画像をウェブ上で公開することの問題点

⑴ このような美術館や博物館によるオンラインデータベースの公開は、コロナ禍における文化芸術機関の新しいあり方として、今後も広がっていくものと思われます。
 他方で、美術館や博物館においては、従来から、展示作品の情報(作者、タイトル名、画像等)をウェブ上で公開することが行われてきました。我々が美術館や博物館を訪れる際も、施設のサイトやSNSでどのような作品が展示されているか調べることが一般的になっています。
 もっとも、美術館や博物館が展示作品の画像をウェブ上で公開することは、著作権法上、どのような根拠に基づいて行われているのでしょうか。

⑵ 実は、平成30年改正前の著作権法では、美術館や博物館が展示作品の画像をウェブ上で公開することに関して、明文の規定は設けられていませんでした。
 そのため、「著作権の保護期間が満了していない著作物については,展示の許諾を得ていた場合であっても,その展示情報をインターネットで提供するために著作物の画像を付す行為には,別途の権利処理が必要となるため,情報提供が控えられているという実情」(注3)がありました。

平成30年著作権法改正

⑴ このような経緯から、平成30年著作権法改正では、著作権法47条3項が新設されました。

3 原作品展示者及びこれに準ずる者として政令で定めるものは、展示著作物の所在に関する情報を公衆に提供するために必要と認められる限度において、当該展示著作物について複製し、又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該展示著作物の種類及び用途並びに当該複製又は公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

第47条(美術の著作物等の展示に伴う複製等)

⑵ したがって、平成30年改正後の著作権法によれば、

  1. 美術の著作物又は写真の著作物の原作品について、展示権(25条)を害することなく公に展示する者(原作品展示者)等は、
  2. 展示著作物の所在に関する情報を公衆に提供するために必要と認められる限度において、
  3. 展示著作物を複製し、又は公衆送信を行うこと(47条3項)

が認められています。
 そのため、美術館や博物館が展示作品(「美術の著作物」又は「写真の著作物」の原作品)を所有する場合は、(著作権者の承諾を得ずに)展示作品に関する情報を画像付きでウェブ上で公開することが可能です。

⑶ なお、平成30年改正後の著作権法47条3項には、同条2項と同様、

  1. 「展示著作物の所在に関する情報を公衆に提供するために必要と認められる限度において」
  2. 「著作権者の利益を不当に害すること」ではないこと

といった一定の制限が設けられています。この点に関しては、上記ガイドラインを踏まえた検討が必要でしょう。

設問4の結論

 以上より、美術館Xは、写真家Yの承諾を得ることなく、写真展を宣伝するため、本件写真の画像をSNSへ投稿することが可能です(改正後著作権法47条3項)。

終わりに

 これまで3回にわたり、美術館や博物館、ギャラリーにおける展示という場面について、著作権法の解説を行ってきました。
 なお、著作権法に関しては、令和2年にも改正が行われており、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大や、著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入等が行われています。こちらについては、今後、改めて解説できればと思います。

(注1)著作権法47条に関する改正の経緯・内容については、文化庁HP「著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)」20頁がコンパクトにまとまっています。
(注2)平成30年改正後の著作権法47条2項と著作権法47条3項の関係
 平成30年改正後の著作権法47条2項は、同法47条1項と同様、「観覧者のために」という要件が設けられています。そのため、観覧者のための公衆送信は同法47条2項の適用が問題となり、(観覧者に限られない)公衆に向けた公衆送信は同法47条3項の適用が問題になるものと考えます。
 なお、著作権法47条1項の文言の解説ではありますが、小倉秀夫=金井重彦編著「著作権法コンメンタール〔改訂版〕Ⅱ」(第一法規株式会社,2020)279頁では、「観覧者とは、当該美術の著作物の原作品の展示場所に赴き、同作品を鑑賞する者である。「観覧者」は「観覧した人」を含まない概念であるから、原作品を鑑賞している人に対してリアルタイムで当該作品の解説または紹介することを目的とするものであることを要し、原作品を鑑賞した人に対して時と場所を変えて再びその作品を鑑賞させることを目的とするものを含まない。」とされています。
(注3)著作権法47条に関しては、本文で触れたガイドラインのほかに、一般社団法人日本美術著作権協会の策定したガイドラインも存在します。両ガイドラインの規定内容、協議結果等は、一般社団法人全国美術館会議のウェブサイトで公開されています。
(注4)前掲注1・20頁

弁護士 片木 研司

所属
大阪弁護士会

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